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土司孤舟-⑧

 




 薙ぎ倒されて斜面を転がってきた木を、土壁で受け流す。町まで落ちていかないよう、麓のほうで堰き止めて、勢いを殺す。飛んでくる岩も同じようにして防ぐと、今度は垂直に刺すようにして木の枝が飛んで来る。流石にまずいか、と土で足場を高くし、飛び越えるようにして処理する。


 陰陽師の術とは、決して無から有を生み出すものではなく、その場にある五行を使役するものだ。豊富な土のある山は土の陰陽師である孤舟の領域ではあるが、難しい部分はある。

 今回のように、どこに土嚢を積むか、どこの土なら、動かしても町に雪崩被害が起きないかを考えながら撃退任務にあたらなければならない時は特にだ。現に今も、とっさに高く土を積んだおかげで、山の一部が深くえぐれてしまった。


「まったく。どうしてこう、人というのは眠れる獅子を起こすのだか」


 土を元の高さに硬く均しながら、孤舟は一人、悪態をつく。

 左近は未だ、山頂で大暴れしている。初めて会った時と同じくらいの怒り具合だと思う。





「オマエの体をよこせ」


 山に封印していたはずの左近が、——この頃、まだ彼に名前は無かった——そう言って孤舟の元にやってきたのは、実に五年前。ちょうど陶器の熊となって、あばら屋に軟禁状態になった三か月後のことだった。

 当時の左近は狐の皮を被って、かなり弱った状態だった。封印されたことを随分怒っていて、最初は話を聞かせるのだけでも大変だった。

 孤舟の本当の身体は真向かいの山の麓にあること。身体は陰陽師が守っているから、今の左近ではきっと手が出せないこと。

 懇切丁寧に説明して——暴れて手がつけられない時には、少々乱暴なこともした——、やっとこの山頂に、左近の被れる皮がないことを理解してもらったのは、それからさらに一か月後だ。


 せっかく陰陽師を探し当てたのに、と左近はその時も大層怒っていた。


「無駄足じゃないか! 妙なことをしやがって!」

「そう言われても。そもそも、君、どうやってここに? 一応封印していたはずだけど」


 孤舟は質問した。

 その時の左近は本当に弱っていて、孤舟の陶器の身体に傷一つ付けられなかった。だから悠長にも、話をしてみようと思ったのだ。


 祖父に無視され、皆に嫌われる自分が何者なのか、鬼と話して解き明かしてみたかったのもあるし、純粋に暇だったのもある。

 なにせここに留まって、弱った鬼を封印しておくだけだ。孤舟にとっては寝ていてもできる訳のない作業だったから、時間は有り余っていた。


 しかし、当時の左近が孤舟の質問に素直に答えるわけもない。左近は


「オレは陰陽師とは話さない!」


 と頑として突っぱねた。孤舟は少し考えて


「じゃあ、話してくれる代わりに、いつか君が山の封印を解けたら、君に俺の身体をあげてもいいよ」


 と言った。

 提案された左近は動揺していた。


「なん、なんだと……? オマエ、あれだぞ、身体をやるというのは、オレに喰われるということだぞ?」

「分かってるよ」

「……さては! オレを騙そうとしてるな、陰陽師!」


 食べるため、皮を得るため、生きるために、動物を喰らう彼らは、命乞いをされたことはあっても、自ら身体を差し出されたことはないのだろう。

 疑う左近に、孤舟は言った。


「まあ、聞きなよ。俺の身体が守られているのは、君のような鬼に取られないため……と、俺自身が身体を取り戻さないようにするための二つの理由がある」


 狐の頭が続きを問うようにかしげられる。


「俺は人間から疎まれていてね。俺が元に戻ると、向こうも面倒なのさ」


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