土司孤舟-④
いくら筆頭家の陰陽師と言えど、鬼の血を引いている。封印の力をわざと緩まされれば、所轄で鬼と半人半鬼の両方が暴れ回ることになる。
そうなればこの土地はおしまいだ。
政府に責任を問われるだけならまだ良いほうで、最悪、一帯は一族諸共、焦土と化す。
五年の間にそういう疑念が膨らみ、やがて業を煮やした宝生家は、孤舟が悪巧みをしていないか、していなくても、なんとか理由をつけて孤舟を別の人員と交換させられないかと、信頼のおける忠誠心の強い間者を粗探しに送り込むことにした。
それがあの腕輪の男、荒木だ。相手も、まさか本当に孤舟が鬼を飼う禁忌を犯しているとは思っていなかっただろうが。
だが、封印が破られた今となっては、孤舟にはここで鬼と相討ちになってもらったほうが宝生家にとって好都合だろう。
方々手を打ち、恥を忍んで異なる五行に力を貸してもらってまで、封印を施していたが、あの土司家の怪物をもってしても防げなかった事態なのだ。ならば元より、どこの手にも負えなかったのだ、と声高に言うことができる。
むしろ、孤舟にはここで鬼と共倒れてもらわなければ、宝生家には後がない。
もしかしたら今この時にも、孤舟が倒れるのを陰から固唾を飲んで見ている人間がいるかもしれなかった。
いや、それとも二本角に孤舟の力を削いでもらって、後で束になって打ち倒し、鬼と相打ちになったように見せかける手筈か。
どちらにしろ、援軍は望めない。
「俺はこのまますぐに鬼門に向かいますから、他は全員、裏鬼門へ。そちらを総力で守ってもらえますか」
狐山の入り口に辿り着いて言う。
鬼門の真反対である南西は裏鬼門と呼ばれ、鬼門の次に破られやすい方角だ。孤舟の魂が陶器の熊の中に込められ安置されていた、あのあばら屋のある方角である。
「かしこまりました」
丁寧な返事に、孤舟はチラと視線を向ける。
恐怖を押し殺しながらも孤舟を、師事する家が預かった客人として精一杯扱おうとする様子から、きっと何も知らされずにここに送り込まれたのだろうと察する。
「君もそっちに行ってください」
なるべく遠ざけたくて指示を出す。孤舟の近くにいれば、同胞に討たれるかもしれない。
「お一人で大丈夫ですか?」
素朴な問いを投げる男児を、孤舟は冷たく見下ろす。
彼の目に、どこまでも凛冽な怪物に映るように。
「近くにいられたほうが、足手纏いだ」
男児は震え上がり、
「し、失礼いたしました。それでは……」
と足早に裏鬼門のほうへと回っていく。その後ろ姿が見えなくなると、孤舟は山を見上げた。
厚く空を覆った赤い雲から落ちてくる、大きな雨粒がはたはたと頬を濡らす。猛々しいのにどこか物悲しいような、怨嗟の唸り声が鼓膜を揺らした。
先ほどまで遠雷の如く聞こえていた轟音は、今では腹の底に響く実感を伴うようになっていた。
「……さて。やろうか、左近。俺も、ちょうど死地を探していたところだ」




