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土司孤舟-③




 最初、左近——二本角と呼ばれる鬼が襲ったのは、ここよりずっと先にある別荘地だ。


 その夏、要人がこぞって向かった流行りの避暑地は、二本角の鬼の出現で地獄と化した。

 別荘地付近を管轄する水の陰陽師である潮家がすぐに総出で撃退にあたり、二本角の力を削って被害を最小限に食い止めるも、要人に被害が出たことで、潮家は窮地に立たされる。

 やれ、陰陽師たちは何をしていた、責任を取らせろ、と、まだ事態の収束を見ないうちから四方八方糾弾された潮家は、その後、あえなく当主交代となった。

 以前の当主は陰陽師業引退に追い込まれ、今は別の地で隠居生活をしているらしい。

 この責任追及の会合は、その時まさに鬼撃退に当たっていた潮家の当主を首都に呼びつけて行われた。当主不在の現場は統率が乱れ、ちらほらと穴ができ始める。


 その混乱に乗じて漁夫の利を掴んだのが、隣地を所轄していた宝生家だ。


 宝生家は潮家当主不在の隙を突き、弱った二本角を自分の所轄の最奥である狐山町におびき寄せて追い詰めた。そして誰にも反対されないよう、町民に知らせないまま町の中心の狐山に封印を施し、己の手柄として政府に報告した。

 鬼封印の報奨金と、封印している間は毎年出る維持費をせしめた宝生家は、当時、屋敷を建て替えるなどして浮かれ放題だったという。

 しかし、元々、狐山町やその周辺などの小さな範囲しか任されていなかった家だ。陰陽師としての力は弱い。


 いつしか宝生家だけでは、二本角を封印しきれなくなった。


 だが、異なる五行の戦場に首を突っ込んで功労を掠め取った上、結局自分たちの手には負えなかったとあっては、煮え湯を飲まされた潮家が黙っていないだろう。こういった経緯では、金の陰陽師を取りまとめる筆頭の金条(きんじょう)家も、水の陰陽師筆頭の龍水(りゅうすい)家の顔を立てるだろうし、手助けは望めない。

 宝生家は八方塞がりで途方に暮れていた。


 その噂を聞きつけ、利用したのが、孤舟の祖父である。


 土司の血を引き、陰陽師として類稀なる才覚を持ちながら、鬼から生まれた不安定なこども。

 扱いづらさは一級品だった孤舟は、この地に送り込まれ、体と魂を分かたれ、鬼封じの人柱として生きるよう定められた。封印が解かれない限り元の体に戻れないよう、祖父に特別な術を施されて。


 祖父はこうして、鬼と同時に、孤舟のことも封じたのだった。


 その時すらも、祖父から孤舟への言葉はなかった。きっと死ぬまでないのだろう。

 とはいえ、宝生家は複雑な心境だったはずだ。自業自得とはいえ、漁夫の利を取ったはずが身動きできなくなり、ついには体良く爆弾を押し付けられたのだから。


 それでも最初は、自分たちの手では到底成し得ないほど封印が強固になったことで、感謝の気持ちもあっただろう。口を拭っていれば、誰にも糾弾されはしない。

 しかし、日を増すごとに、恐怖と疑念が生まれたのではないだろうか。



 今はおとなしくしていても、いつか孤舟が暴れ出すのではないか? と。



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