土司孤舟-②
ふと、天井からパラパラと土埃が降ってくる。世界を襲う振動に、急場凌ぎの安置所が悲鳴を上げているのだ。
孤舟は息をついて立ち上がり、唯一の出入り口である木戸に向かう。コンコン、と叩いて
「起きました」
と外に知らせると、重たい音を立てて、すぐに木戸が開いた。
どぉん、どぉん、と世界を揺らす銅鑼のような轟音は、扉の少し空いた隙間からでも聞こえてくる。
「土司様、おはようございます」
外に出ると、金の陰陽師を表す白い羽織を身に纏った、おかっぱ頭の男児が孤舟に一礼した。
「この度、二本角の封印を預かりました、宝生家のものでございます。土司様がご自身の身体で封印を施しておられる間、お世話を務めさせていただきました」
宝生の家に仕える弟子だろう。今回貧乏くじを引いたのは彼らしい。只人から見出された、身分の低い陰陽師と推察する。
「孤舟で結構。苗字は嫌いだ」
「は。では、こちらを」
男児は土の陰陽師を表す黄色の羽織を手に乗せ、孤舟に差し出してくる。
目を落とすと、手が小さく震えているのが分かった。よく訓練されている弟子だが、それでも孤舟に対する恐怖心をすっきりとは拭えないのだろう。
「……ありがとう」
小さく告げて受け取り、背中に土司の家紋である五角山形が白く抜かれた、黄色の羽織に袖を通す。
宝生が用意した、三津川が抜ける脇の熊山の麓近くに配置された安置所を後にし、川に沿って狐山を目指した。
町の人々は阿鼻叫喚で、火を噴くように揺れる狐山からいち早く距離を取ろうと、右往左往している。
普通なら面倒だと思う場面だろうが、混乱している人は孤舟の姿に目も留めないから、普段よりはずっと歩きやすい。
「封印、破られてどのくらいですか」
「四半刻ほどです。鬼門より破られました」
鬼門とは、鬼が最も流入する出入り口とされる。鬼の力が強く出やすく、封印はここから破られることが多い。
封印を施していた狐山の北東方角の鬼門の延長上には、孤舟が身体を置いていた安置所がある。力の強いものが鬼門を守るのは、封印の定石だ。
「山の下の町に被害は?」
「封印に尽力していた金の陰陽師が麓に集結し、食い止めております。ただ、ご当主は首都出向にて不在ですので、それもいつまでもつか……」
「出向、ね」
孤舟は肩をすくめる。
「ところで、念のための確認ですけど、宝生に腕輪を使う陰陽師はいますか? カンカン帽を被っている男なのだけど」
「えぇっと、……荒木様のことでしょうか?」
男児は突然変わった話に戸惑いながらも、記憶を手繰ってくれる。
「お知り合いですか? 別件でしばらく空けておられますので、この封印には携わっておられないはずですが」
「別件とはどんな?」
「さあ、詳しくは。ご当主の右腕のような方ですから、私のような末端には、そのお役目まではなんとも……」
「なるほどね」
合点が行った、と一人納得して頷けば、怪訝そうに見られる。
「何か?」
「いや。ただ、宝生家からのこれ以上の援軍は見込めなさそうだと思ってね」
誤魔化すように首を振った。




