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そういう夢を見ていた-①






 その日は、朝からぱらぱらと小雨が降っていた。


 桃子は藁で編んだ笠をかぶり、一人で山に向かった。

 鬱蒼とした雨の山中は、湿り気の匂いがいつもより一層濃い。落ち葉の裏、枝の分かれ目、固く閉じた木の実の中、それに降り落ちる雨。その全てから異なる種類の湿った匂いがして、混ざり合って鼻孔に届く。

 こういう日は、左近は体が濡れるのを嫌がってあばら屋から出てこない。


 あれからまた、孤舟のおかげで術が少しだけ緩まって、桃子は随分麓の近くまで行けるようになっていた。

 完成した木刀を杖代わりに山を歩く。念のため、家に帰る時の道順を確認するため、行けるところまで今日は降りてみようと思ったのだ。

 本当は、帰りは左近に道案内を頼もうと思っていたのだが、その日がちょうど雨の日だったら、帰宅の機を逸してしまいそうだった。


 帰りたくないわけではない。父にも会いたい。母亡き今、一人にしておくのは不安だ。ただ、ここから離れ難くなっているのも事実だった。

 孤舟や左近の人となりや、思い出が、桃子の腰を重くしていた。

 また来ればいい、とは思うけど、通いと住むのではやはり意味合いが違ってくる。

 ここを出る、というのは、どうしたって二人を捨て置いていく響きがあり、最近では術が解ければ解けるほど心が塞がるような始末だ。


 孤舟の身体を無理やりに拭ったあの日から、孤舟は桃子にぽつぽつと色んなことを話してくれるようになった。

 もちろん、桃子の奥にいる相手に聞かれても大丈夫な話を選別してはいるのだろうが、孤舟から話し出してくれるので、聞いても良いか悩む機会は減った。

 桃子が左近と木を植えた時などには、手伝ってくれた孤舟の術に感嘆した桃子に、左近が山へ行っている間、陰陽五行の説明までしてくれた。


「五行を図で表すとこうなります」


 宙に浮きながら孤舟は土を操り、五芒星を地に描いた。頂点にそれぞれの五行を配し、手にした枝で指しながら言う。


「木・火・土・金・水にはそれぞれに二つずつ、(きのえ)(きのと)(ひのえ)(ひのと)(つちのえ)(つちのと)(かのえ)(かのと)(みずのえ)(みずのと)の十干が割り振られています。これもまた、それぞれに木・草花・太陽・月・山・畑・鉄・宝石・海・雨の意味を持ちます。と言ってもこれは、単に象徴するものの意味を持たせている、という感じですかね」

「ははあ……」

「土の陰陽師が扱うのは戊と⼰の二つ。俺は今、主に山の土を術に使っているので、基本的に戊を頭につけます。金なら庚と辛。桃子さんの腕輪は庚……つまり鉄を表す言葉で動いていますが、あの腕輪は金。金の陰陽師は金属と名の付くものはなんでも操れる、と思ったほうが良いでしょう」

「なるほど」

「また、五行には相生(そうせい)と言って、循環し、助け合う作用があります。木からは火が生じ、火が燃え尽きて土になり、土の中から金が出で、金は水を湛え、また、水が新たな木を育てる。だが逆に、邪魔し合ってしまうものもある。木が土の養分を奪えば、土は水を堰き止め、水は火を殺し、火は金を溶かして、金が木を切る。これを相剋(そうこく)と言います」

「あ、もしかしてそれで、ここにおられるのですか?」

「ん?」

「土と金は相生関係なのでしょう。だから、金の陰陽師の宝生様を助けるために所轄におられるのかな、と、思ったのですが……」


 あれ? でも、腕輪の術は金の陰陽師がかけていて、彼らは孤舟様を監視したいのだったわよね? ……助けてくれている人にそんなことするかしら?



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