みんなで仲良く暮らしてる-⑪
沈黙が痛く、
「「あの、」」
と声をかけたら、孤舟の声と被ってしまった。
「あ、お先にどうぞ」
「いえ、全然、大したことではないので!!」
何を話すともなく声をかけてしまった桃子が全力で譲ると、孤舟は「こちらも、大したことではないんですが」と軽く咳払いする。
「……また少し術が解けました。これで大分、麓近くまで降りられるようになるかと思います。家まで、となると少し難しいかもしれませんが……」
「まあ! ありがとうございます!」
「ええ。あと少しで、このあばら屋ともおさらばできますよ」
歓喜に沸き立った心が、瞬く間にしゅんとしぼんだ。
「そ、うですか……」
「はい。かなり時間がかかってしまいましたが、なんとかご家族の元に無事にお返しできそうで、俺も安心しています」
「はあ……それは、とんだお気遣いを……」
言葉一つ一つが棘のように桃子の心に刺さり、胸の痛みが思考を良からぬ方向へ傾ける。
これは、早く出て行けということかしら。そりゃあ長居していたって迷惑なのでしょうけど。少しは惜しんでほしいなんて、それこそ、こっちの勝手な言い分なのですけど。
でも。
少しは仲良くなれたと思っていたのに。
線を度々引かれても、それでも、少しずつ許されている気がしていたのに。
それも全て、こちらの思い込みだったのだろうか?
「どうかしましたか?」
「いえ、あの……」
問いかけに、言って良いものかと悩んだが、思いきって
「家に帰っても、また左近くんや孤舟様に、会いにきてもいいでしょうか?」
と尋ねてみた。孤舟は呆気にとられたようにポカンとしている。
桃子は慌てて言い募った。
「えっと、ほら、何か必要なものを届けたり、そういう機会もあるかと思って、もちろん、お邪魔はいたしません! 他の人に口外も、しません。ただ、……せっかくご縁ができたのですから、これっきりというのは少し、さみしくて」
ここに来る利点を必死で語っていた口には、いつの間にか本音が滲んでしまった。
ああ、これでは断りにくいわね。私ったら、また事情も聞かずに押し付けて。ちっとも変わらなくて嫌になる。
「それは……」
「ただいまーっ!」
開きかけた孤舟の口は、左近の帰宅の報に制された。思わず「おかえりなさい」と声をかけてから、しまった、と気づく。まだ血が止まっていない。
トトト、と左近が縁側を近づいてくる音が聞こえ、心中慌てていると孤舟が
「左近、部屋に入るのは少し待って、」
と声をかけた。が、遅かった。
左近はすでにガラリと戸を引いていて、まん丸に目を見開いて言った。
「——血の匂いがする」
左近の小さな鼻がひくりと動く。桃子は慌てて左手を隠すように胸に引き寄せた。




