みんなで仲良く暮らしてる-⑩
心の中で返事をし、また一筋、棒に石刃を入れる。
いつかあの男に会った時、一発入れてやるため。そう思って毎朝素振りを欠かさず、武器にまでこだわって手製している。目的は全然違うけれど、まるで道場を継ぐ夢に燃えていた頃に戻ったようだ。
けれど時々、こんなことはなんの意味もないのではないか、という暗澹たる気持ちが桃子の心を塞ぐ。
こんなことは全部、全部無駄なのではないか?
だってそうだろう?
相手は鬼とも互角に戦う陰陽師だ。剣があろうがなかろうが、どうせ勝てるわけもないのに。
私には何も、できることはない。
一度、無理だと諦めて、投げ出してしまった私には、とても……——
「痛っ……!」
痛みに、棒と石刃を取り落とす。見れば、左親指から血が出ていた。左近があれほど注意してくれたのに、やってしまったようだ。また失敗だ。
あーあ、と傷口を呆然と見ながら自分にがっかりしていると、
「大丈夫ですか」
と孤舟が声をかけてきた。いつの間にか、すぐそこにいたらしい。
「すみません、騒がしくて。少し、指を切ってしまったみたいで」
孤舟はいつもの如く浮いて近づいてくると、桃子の指を見て、
「手拭いで縛りましょう。綺麗なものが部屋にあったはずだ。ついて来てください」
と言って、奥に引っ込む。
「あの、お構いなく! すぐに止まりますから」
遠慮したものの、
「傷が残ってはいけませんから」
と孤舟は首を振る。
「でも……」
「では、こうしましょう。これは左近のための処置だと思ってください」
「左近くんの?」
「ええ。左近は今でこそ、腹が満ちれば干し肉でもなんでもいい、と言っていますが、昔は生の肉を好んで食べていたんです。だから」
「血の匂いは、今の左近くんには毒でしょうか」
「……そうですね。きっと」
孤舟が熟考の末に頷く。
確かに、あんなに健気に人間らしく振る舞いたいと願う左近の前に、野生を思い出させるようなものはなるべく置かないほうがいいかもしれない。
先日、手紙を書いた孤舟の自室で、「はい」と棚の中の箱から出された真っさらな手拭い。上等そうなそれを血で汚すのが忍びなく、なるべく端のほうを、と思って片手で悪戦苦闘していると、見かねた孤舟が陶器の手で布全体を押し付けてきた。
「それを使う人は、ここにはあなたしかいません」
「すみません……」
持ち主の意向にありがたく従って傷を抑える。場所のせいか、先日のことが思い出され、なんだか落ち着かない気分になった。




