みんなで仲良く暮らしてる-⑧
以降、思考が散らばって、とても手紙どころではなかった。
仕方なく、しばらく帰れないけど無事でいるから心配するな、というような、なんの助けにも慰めにもならない手紙をしたためてしまった。
だが、書けたはいいけど、この手紙をどうやって父まで届ければいいのだろうか。悩んでいると、孤舟が
「書けましたか?」
と部屋に入ってきた。
「あ、はい、あの、」
「なら、お父上に送りましょう。それを持って、庭へ」
孤舟はそう言いながら、ふいよ、と浮き上がり、未だくうくうと眠り続けていた左近の肩をコンと小突く。
「んう?」
「ほら、起きなさい。まったく、なんのために部屋まで付いてきたんだ」
「あの、孤舟様、」
「大丈夫ですよ、俺が起こして行きますから。桃子さんは先に庭へ」
再度強く促され、すっかり暗くなっている外へ出た。
やがて孤舟は目をこする左近を連れて庭に出てきた。そして土を操って庭を薄く掘ると、
「手紙を入れて」
と言う。桃子はおずおずと、言われた通り手紙を穴に入れる。手紙の上にはまたすぐに土が被さり、
「届けたい場所は、狐山町の剣術道場におられる、お父上のところでお間違いないですか?」
「はい」
「では。戊の転、急急如律令」
孤舟が唱えると、ボコ、と穴が一度盛り上がった。かと思えば、土はモグラが地中を掘るように、ボコボコと盛り上がって庭に線を描いていく。そうしてそのまま山の下へと消えていった。
「こうすれば、土が手紙をお父上の元に運んでくれます」
「ははあ……」
「不安でしたら、掘ってみますか」
手紙が埋まっていたはずのところを孤舟が再び掘って見せる。そこにはもう何もなかった。桃子の頭には、モグラのような手の生えた手紙が土を掻き分けて山を降りていく様が思い浮かぶ。なんと不思議な術であろうか。
隣で一緒に手紙を見守っていた左近が
「大丈夫だ。孤舟の術だもの」
と笑う。そうね、と笑い返すと、自分のことのように嬉しそうだった。
その後、三人で食卓を囲んで、別れ、桃子は自室へ戻った。何事もなかったかのように。
孤舟はいつも通りだった。いっそ頑ななほど。
横になり、想いを馳せる。あれはきっと、孤舟が一番、桃子に言いたくなかったことなのではないか、と思えた。
だってあれは、ひどく傷ついた人が言うことだ。
ひどく深い傷を負った証左だ。
その夜、夢を見た。
一艘の舟が、波の一つもない沖にポツンと浮かんでいる夢だ。
舟を揺らすものは何もない。櫂を持たず、波も立たない沖に浮かんだ舟は、自由なようでいて、その実どこにも行けない。
この複雑な世界を、頑なで偏った知恵一つで生き延びようとしている、あまりに若い舟。
桃子はその舟の背を柔らかく押してやりたくなったが、どんなに手を伸ばしても、遠く沖にいる舟には届かない。
桃子の祈りは無力で、舟は徹底的に、一艘であった。




