みんなで仲良く暮らしてる-⑦
声を抑えて問えば、孤舟はあっさり首を振る。
「いいや、そうではない。鬼の中には単純に、人をいたぶることや殺戮自体を好むものもいます。ましてや、あなたのお父上は防人だ」
「どういう意味です」
「鬼は肉食で、人間と同等の知性を持ちます。一番食い出のある、愚鈍な獲物が人間だというだけなので、本来なら喰わないものは殺さない。けど、人間に恨みのある鬼は、人をただ殺します」
恨み、と口の中で繰り返すと、
「俺たちは鬼が嫌いで、たくさんの鬼を殺してきました。お互いに、生かしておいたら危険な相手だ」
「でも、それは、」
鬼が人間を喰うからで。そう言い募ろうとして、口が急に重くなる。
今朝、干し肉を食べたばかりだ。生きるのに必要だというのであれば、桃子も同じことをしている。
「鬼の中には、静かに暮らしているものもいます。自分たちを殺す人間に見つからないよう、既に死に耐えた体から得た皮を被っているものも。しかし、ただ殺す鬼もいる。どちらも、同じ名前の種族です」
「つまり、……よく見極めろ、ということですか? 悪いものか、良いものかを、」
「そんな悠長なことをしていたら、喰われてしまいますよ」
ふ、と孤舟がまた笑う。これは嘲りの笑いだ、と桃子は気づく。
キッと顔を上げて、抗議の声をあげた。
「なら!」
「誰も信じないことです」
喉が塞がる。
あまりに固く、強い言葉に、何を言ったらいいか、分からなくなった。
孤舟は続ける。
「陰陽師であれ、鬼であれ。たとえどれほど尊敬する肩書きを持つものでも。……そうすれば、傷つかずにいられる」
最後に付け加えられた言葉は、あまりに危うく、繊細な響きがあった。
「孤舟様……?」
「さて、お邪魔でしょうから、俺は席を外します。ゆっくりお書きになってください」
孤舟は一向に進んでいない桃子の手紙を顎で指し示すと、腕輪をカチリと噛んで持ち上げ、静かに部屋を出て行く。
これ以上の問答は無用だ、と言わんばかりの陶器の背中。桃子はそれを、無言で見送るしかなかった。
左近が隣で、ううん、と、小さくぐずった。




