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みんなで仲良く暮らしてる-②

 


 大急ぎであばら屋に帰り、縁側で二人を待っていた孤舟に


「孤舟様、あの、紙と筆とかって……ありますでしょうか」


 と切り出した。

 突然の話に、孤舟は首をかしげる。


「一応、上への報告用に用意はありますが。何に使われるんですか?」

「それが、そのう、今まですっかり失念していたんですけど、私」

「桃子は父様とやらに手紙が書きたいのだって」

「父……?」


 モゴモゴとする桃子に、焦れた左近が言葉を継いだ。

 それに、孤舟は一瞬ぽかんと考え、すぐに合点がいったように頷いた。


「ああ! なるほど、そうか。残してきたご家族がおられるんですね?」

「す、すみません、考えることがたくさんあって、今の今まですっかりうっかり……」

「いやいや、俺も全く思い至りませんでした。家族とは疎遠なもので、思いつかず……そうかそうか」

「突然ここに飛ばされて、父には神社に行ってくると言ったきりなものですから。一応、手紙でも書いて説明を、と」


 父とは結婚のことで口論になった末に、家を出てきたきりだ。心配しているだろうし、もしかしたら今頃、町の人たち総出で探し始めているかもしれなかった。

 別に、探されるのは良い。心配をかけて申し訳ないとは思うけれど、桃子の落ち度ではないのだから。ただ、結婚ができないことを儚んで三津川に入水したのかも、などと思われていたら、帰りづらいな、と思う。


 それに……。


 桃子はチラと孤舟を見る。

 もしも父が山を探し始めていて。その末に、山頂のあばら屋を見つけたとして。

 現状の上手い説明が、桃子にはできる気がしなかった。

 だって訳が分からないではないか。


 通りすがりの陰陽師に術をかけられ、山から降りられなくなって、陶器の熊の姿の陰陽師と、彼が作った泥人形(狐入り)と一緒に暮らしているだなんて!


 きっと父は孤舟の姿を見たら、動揺するだろう。それぐらいならまだしも、もしかしたら桃子が説明に苦戦している間に切りかかるくらいはするかもしれない。

 今でこそ町唯一の先生として立派にやっているが、元は防人。血気盛んな性根なのだ。


「それでは、諸々用意致しましょう。俺の部屋にしか机がないので、そこで書いてもらわねばなりませんが、構いませんか?」

「もちろんです、なるべく何も目に入れないように心がけます!」

「別に見られて困るものはありませんから、大丈夫です。ちゃんと前を見て、ついてきてください」


 慌てて顔を手で覆った桃子を孤舟は制し、当然のごとくついてきた左近に「中で暴れたら放り出すからな」と釘を刺してから、部屋に招き入れた。


 念のために薄目で中に入った桃子は、中の物の少なさに驚いて、思わず目を見開いてしまった。

 棚に箱がいくつかと、本が何冊か、それに隅のほうに机と箪笥が一つずつ。机の上には先日、孤舟に預けた腕輪と行李が二つきり。

 あとは何もない。実に殺風景な部屋だった。


「必要なものを取り寄せる以外、滅多に報告書なんか書かないので、ちゃんとインクが出るかどうか」


 ふいよ、と宙に浮き、行李の中を探す孤舟。漁る度に、カチンカチンと硬質な音が鳴るのが気になって


「よければ私が」


 と場所を変わった。

 行李の中からは高価そうな万年筆と、何やら透かしの入った紙が出てくる。チラと見て、これは自分の使えるものではないな、と判断し、さらに覗くが、他にそれらしきものはなかった。


「これ、ですか」

「はい」

「……もっと、安価な感じのは、」

「残念、これしかありません」


 ぐう、と踏まれた蛙のような声ともない声が、喉の奥から出る。孤舟は堪えきれない、といったふうに笑った。


「どんどん使ってください。どうせ俺は使わない」


 報告用と言っていたではないか。思うものの、他にないと言われれば仕方がない。有難く頂戴し、万年筆の蓋を取る。


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