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そこには狐もおりまして-⑧


「魂、と言えばいいのかな。俺の魂がこの陶器に入っているのと同じようなものです。ただ、左近の場合はそれを人形の中に留めるため、中心に、彼のかつての肉体が少しだけ入っています。それの維持に、肉の食事が必要で。水分は空気中から取り込むようになっています」


 少しだけ、とはどういうことだろう。左近の元の体はどこに行ったのだろう。かつての、とは、つまり……もう死んでいるってこと?


 何も言えずに固まっていると、孤舟が降り始めの雨のように、ポツポツと語り出した。


「俺がこの姿でここに来た頃、左近はただの狐でした。日に何度もここを覗きに来て、喧嘩を売ってきてね。その内に飽きたのか、ただここで過ごすようになって、俺の隣で眠るようになって……けど、ある日、元気がなくて。このまま帰したら、死んでしまうのでは、と不安になったんです」


 す、と胃の底が下がるような心地がした。孤舟の言葉が脳裏に蘇る。


 ——俺は事情があってここから大きく動けないので……


 左近が元々決められた世話役でなく、おまけに狐の姿であったなら、孤舟が山頂に町人を近づけさせなかったのも頷ける。

 だって、今の孤舟の姿では、人前には出られない。誰の助けも借りられない。


 この人は、ずっと、一人だったのだ。

 人っ子一人やって来ない、このうら寂しいあばら屋で。

 ただ一匹の、狐を友にして。


 しかし、その狐にも寿命があった。


「新しい体をね、作ってやりたかったんです。元が山のものだからかな、左近の中身は泥人形と馴染みが良くて、それで、」

「孤舟様! ……もう、大丈夫です。もう分かりました」


 桃子は涙をこらえて孤舟を制した。これ以上、彼に悲しい記憶を思い出させる必要はない。それに、自分が泣くのも違う気がした。

 桃子は姿勢を正し、深く頭を下げた。孤舟が慌てたように名を呼んだが、頭は上げなかった。


「あなたのご友人を、危険な目に遭わせ、大変申し訳ありませんでした。事情もよく知らないくせに、他人様の家にズカズカ入って、何かお役に立ちたいなどと勝手なことばかり。以後、二度と無きよう心がけます」

「……いえ。こちらこそ、驚かせて申し訳ない。二度と無いよう、とは、こちらの台詞だ」


 桃子の精一杯の謝罪に、孤舟はそう返したきりしばらく黙っていたが、「左近が、」とゆっくりと口を開いた。


「どうしてこんなことをしたのか、分からなくて。水に近づいたら溶けてしまうことは、よくよく言っておいたはずなんですが……」

「そんな、未知に興味を持つのは当然ですよ。知らぬ人間が来て、いつもと違うことをしているのが気になったんでしょう。それにほら、元は……野生なのだし」


 言葉を選んで言う桃子に、孤舟は、はあ、と深く嘆息して首を振った。


「捕まえたら今度こそ問い詰めて、本人に謝罪させますが、俺はこんなナリですし、あっちはあっちで逃げ足が早くて。……もしかしたら、今後もご迷惑をおかけしてしまうかもしれません」


「すみません」と弱り切って謝る姿が人間らしく思え、桃子はひそかに親しみを覚えた。


 外見が熊だからだろうか。あんなにすごい術が使える人なのに、相対するとどうしても、どこか気が抜けてしまうのだった。


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