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そこには狐もおりまして-⑥


「——(つちのえ)(さく)、急急如律令」


 孤舟の声が聞こえたと思ったら、粉々になった左近の腕の破片が宙に浮かび上がった。

 それらはくるくると旋回しながら、左近の袖口に次々吸い込まれていく。やがて、再び左近の腕が生えてきた。割れた茶碗の欠けらを、そっと元の位置に戻したみたいに。


 信じられない。


 声も出せずに見つめていると、


「左近、袖をまくって」


 と孤舟が言う。左近は自在に動く両腕を駆使して、袖を肩までぐいと持ち上げた。あらわになった腕を、どこから来たのか風砂がなぞる。すると、ひび割れのあった左近の腕は、たちまち整えられ、以前と変わらぬ白磁の腕に戻った。

 動きを確かめるように手を開いたり閉じたりする左近に、


「左近、ごめんなさいは?」


 と、孤舟の催促が飛ぶ。

 左近は、ムゥ、と口を尖らせて喋ろうとしない。


「水には近づくなと言ったよ。どうなるかは左近も知っていたはずだろう。客人をこんなに驚かせるのも良くない。謝りなさい」

「……ふん!」

「あ、こら! 左近!」


 左近はふいとそっぽを向いて、地面に膝をついたまま呆然とする桃子の横を駆け抜けていった。

 まったく、と悪態をつく孤舟に、桃子は信じられない気持ちのまま


「今のは……」


 と問いかけた。孤舟は躊躇するように考えている。

 桃子はハッとした。


「も、申し訳ありません、詮索無用でした、忘れてくださ、」

「泥人形です」


 遮るように投げられた答えに「え?」と振り返る。


「……左近の正体は、泥で作った人形なんですよ」







「俺が土の陰陽師だというのは昨日お話しましたが、陰陽師が五行を操る力を持つ、というのはご存知ですか?」


「はい。学校で習いました。木、火、土、金、水をそれぞれ操り、鉱山や地下水の探知から、占術や風水、鬼の撃退まで、なんでもされる、と。ただ、術の内容に関してはあまり……」


 まさかこんなことができるだなんて、知りもしなかった。まさかこんな……神のような所業ができる存在だなんて。


 昨日と同じ板の間で向かい合った相手を、そっと窺う。


 一応気をつけてはいたはずだけど、今まで何か無礼はなかったかしら。役に立ちたいから、と、嫌がるのを押して掃除なんかするべきじゃなかったのかも。ああ、私ったら。そもそも陶器の熊が喋っている時点で、もっと平身低頭、孤舟様を畏れるべきだったんじゃないの?


 自分が山に吹っ飛ばされた時には当事者だったので、目を白黒させている間に終わってしまい、何が起きたかよく分からなかった、というのが本音だった。

 けれど、実際目の当たりにすると、陰陽師の力はまさに神の御業だ。


 孤舟は前足を顎に当て、


「俺は学校に行ったことがないのでこれは推測ですが……まあ、できることの範囲が広いから説明しづらい、というところでしょうかね。それに、実際見てみないことには理解も難しいでしょうし」


 学校に行ったことがない、というのに、桃子はこっそり驚いた。小学校令に基づいて、こどもは小学校までの就学義務があるからだ。

 陰陽師だと、そういったことには縛られないのだろうか。

 ぼんやり考えていると


「あとはまあ、陰陽師のお偉方の意向かな」

「お偉方? ですか?」

「ええ。国家陰陽師は操る五行ごとに、それぞれ一番能力の高い家を筆頭と呼んでいるんですよ。家における、当主みたいなものかな。それが五行ごとに陰陽師を取りまとめている。水なら水の筆頭、金なら金の筆頭、という具合にね。それらがお偉方」


 剣術の流派みたいだ、と桃子は思う。各道場主と総本山みたいな。



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