親友だった幼馴染が親友ではなくなった春の日の話
香月よう子様主催『春にはじまる恋物語』参加作品です。
卒業と進学、それに伴う恋の始まりを書いてみました。
どうぞお楽しみください。
俺にとってマコト以上の友達はいない。
同い年でご近所で、物心付く前から遊んでいた幼馴染。
俺より足速いし、スタミナもある。
サッカークラブでは三年からずっとエースだ。
さっぱりした性格で、喧嘩しても謝ればすぐ元通り。
だからマコトは一番の親友で、中学に上がってもそれは変わらないものだと思ってた。
それなのに。
「……な、何か言えよ」
「え、いや、その……」
白地に紺色の襟のセーラー服。
襟と同じ色のプリーツスカート。
胸元には赤いスカーフ。
それと同じくらい顔を真っ赤にしてる女の子。
こいつ本当にマコトか!?
いやマコトが女なのは知ってたけど、意識した事がなかったから、頭がパンクしそうだ!
「に、似合わないだろ!? はっきり言えよ!」
「いや、そんな事は、その……」
「目そらしてるじゃないか!」
「ぐえ、ちょ、落ち着けって……!」
襟首を掴んでくるマコトは涙目になってる。
いや、目をそらしちゃうのは似合わないからじゃなくて……。
近い近い近い!
「はっきり言ってくれ! タケルが似合わないって言ったら交換するって母さんが言ったんだ!」
おばさん! 俺に押し付けないでくれ!
「なぁ、こんなの似合わないだろ!? 男子用のワイシャツと黒ズボンの方がいいだろ!?」
「え、えっと……」
……何て言うべきなんだろう。
正直めちゃくちゃ似合ってる。
洗うのが面倒だと短くしている髪も。
ぱっちりした大きい目も。
改めて見ると長いまつ毛も。
うすピンクの唇も。
セーラー服を着た事で、俺の中のマコトの認識が塗り替えられていく。
「あ! お前母さんから『似合ってるって言え』とか言われてるのか!?」
「そ、そんな事ないよ!」
「じゃあ何迷ってるんだよ! 迷う事なんかないだろ!?」
「え、で、でも……」
「正直に言ってくれ! 俺達親友だろ!?」
「……」
……これを言っても、マコトは親友でいてくれるだろうか。
何を言ってもマコトを傷付けそうな気がする。
……いや、だからこそ正直に言うべきなのかもしれない。
「……に、似合ってると、思う……」
「……! タケル、お前……!」
「ご、ごめん! でもめちゃくちゃ似合ってる! 可愛いと思った!」
「か、かわ……!?」
「ぐええ……」
襟首をつかむ手に力がこもる!
苦しい苦しい!
「お、お前俺の事そんな目で見てたのか! い、いつからだ!」
「い、いや、ホント今なんだよ! マコトが女っぽい服なんか着る事なかったから、驚いて……! すげぇ似合ってるし……」
「……そ、そうか……」
あぁ、手の力が緩んだ。助かった。
「……あ、でもさ、もしマコトがどうしても嫌なら、俺からおばさんに話して」
「……いい」
「え?」
「いいって言ったんだ! た、タケルが変とか気持ち悪いとか思わないなら、こ、これでいい……」
「そ、そうか……」
そう言って俺の襟首から手を放したマコトは、そのままうつむいてしまった。
……泣いてない、よな……?
「……タケル」
「な、何だ?」
「……可愛いとか言ったんだから、な、何とかしろよな……!」
「な、何とかって、何をどうしろって……?」
「わ、わかんねーよバーカ! お前が変な事言うから、頭の中ぐちゃぐちゃなんだよ!」
「ご、ごめん……」
「あ、謝ってもらいたいんじゃなくて……! あー! もー! わっけわかんねー! じゃあな!」
「え、ちょ、マコト!?」
ボールを追いかける時よりもはるかに早く、マコトは俺の部屋から出て行った。
「何なんだ……?」
マコトの言葉の意味を考えようとすると、今のマコトの姿がぐるぐると回る。
胸の高鳴りが治まらない。
……どうしよう。
もうマコトの事を、これまでの親友として見れないかもしれない……。
読了ありがとうございます。
念のため、マコトはトランスジェンダーではありません。
今まで動きやすい男の格好をしていたので、急に女の子っぽい格好をする事で、タケルに嫌われるのが嫌だったのです。
あらあらうふふ。
そろそろマコトに女の子らしいおしゃれをさせてみたいと思っていた母親は、それを見抜いてタケルの所に行かせました。
まぁマコトの日常会話の七割がタケルの話題なので、大抵の人は見抜きます。
約束された大勝利。
この後二人は変わっていく関係に、戸惑ったりギクシャクしながら距離を縮めていく事でしょう。
頑張れ二人! とりあえずマコトの母は公認だ!
お楽しみいただけましたら幸いです。