その3
からから……ロープが音を立てて激しくリズミカルに揺れる。その勢いを増して加速するフックは次第に轟音をキィ――と鳴らし、なんということだ、この世でもっとも頼りになってほしかった一筋の希望はちぎれてしまった。体が斜めに勢いよく落下…その世にも恐ろしい加速は、とどまるところを知らない――
晴れ渡る空の下、折角実験に協力してくれた親友を全くのおそらく未開の地に放り込んでしまうという想定外の出来事で、私の頭は罪悪感でいっぱいだった。一体何が起きてしまったというのか。事前実験と論理の検証は完璧で、またその理論も抜け目などなく、間違いなく狙った空間に転送することができるはずだったのに、目の前の現実は無慈悲にも親友を宇宙のかなたに送り込んだという事実で、でも何を間違えたのか、なんでこんなことになってしまったのかと不安の檻に囚われてしまっていた。時計の針は、間もなく2時半を指そうとしていたころだ。
次第に、どうしてこんな実験を実行してしまったのか、なぜワープの研究をし始めたのか、いったい何がしたかったのかと、思考は自分の原点の感情を否定する方向にシフトする。ワープの研究などしなければ、このような悲劇にはならなかったのではと自問自答を繰り返した。親友には不安を決して抱かせないように強く威勢を張り、自分にもきっと大丈夫と言い聞かせたが、正直、効果覿面とは言えなかった。ふと、写真立ての中の父が目に入った。当時、父は研究室で母とワープ理論の雛型を完成させ、研究が認められ歓喜して家でパーティーを開いていた。ワープ技術が確立すれば、はるかに広範囲の宇宙開発が実現し、人類の科学史において飛躍的な発見となることに間違いなかった。だから、父らは確信していた。その研究成果は大いにの研究は社会で広く知れ渡るに違いないと。しかし、その次の日に父は倒れ帰らぬ人となった。……決めたのだ、必ず父の意志を受け継ぐと。
自分を奮いだたせ。引き続き、記録データの検証を続けた。
どれだけ時間が経ったか分からないが、どうやらちぎれたロープを片手に睨みつけるほどの気力はあったようだ。重い体を起こして、全身の状態を確認する。意外にも少し背中が痛い程度だ。ちょっと安堵する。よっこらしょと立ち上がり、周りを見回し、そして、絶望した。そこは奇妙な機械の巣窟でもなく、自分の家のベッドでもなく、果てしなく広く、静かな海の真ん中だった。どうやら足場は十平方メートルほどの正方形のイカダのようになっているようだった。悪寒が走る。その水平線の向こうを見ようとしても、どこまでも異様なまでに静かな海は続くのだ。どこまでも。どこまでも。