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私流ワープ紀伝  作者: 相生 みこと
2/3

その2

暗闇の中に不気味に存在感のある建物。これを眼前にして、深く呼吸した。息は、震えている。

「よし。」独り言で自分を奮いだたし、意を決して目の前の「試練」に入っていった。


中に入った。そこでは、雰囲気は建物の外とさほど変わらず、やはり奇妙な機械のようなものがあちらこちらには張り巡らされているだけだった。ただ、その種類というのは変化しているようだった。先ほどは配管やら大きさがエアコンの室外機ほどの謎の機械やらがおもにあったのに対して、ここでは、円柱型の装置が設置してあったり、巨大な深緑の壁が途方もない距離に伸びたりしている。それとなく気が抜けない場所である。

しばらく歩き、行き止まりに差し掛かった。あたりを見回すが先ほどと特に変わったものはなかった。真っ黒な穴以外は。トンネルのような、巨大な配管のような、とりあえず人の通れそうな道になっていた。それから半分やけになって、その中をぐんぐん進んだ。


暗き道を進みながら、うんともすんとも言わない携帯用端末「アーガイズ」を手に、何かに使えないかとあれこれ試した。これは数年前から急に普及しだした万能デバイスで。調べもの、メモ、連絡、物質の分析などができる。そしてこの端末の最大の特徴は、以前とは桁違いの情報伝達速度が実現されていることだ。なんでも、ある惑星で見つかった鉱石「イデジス」というものが、特殊な条件下では遅延ゼロに限りなく近い速度で情報の受け渡しができるすごい代物だったそうで、即実用化されたのだ。しかも興味深いことに、そのやり取りが可能な距離がとんでもなく長く、この宇宙のどこにいても通信可能だといわれている。実際、少なくともその原理はこれまでの通信のそれとは異なっており、一体どうしてそうなるかはいまだ謎であり、単純な通信以外のことをすることのできる秘めたる力があるのではと、こんにちでも研究が進んでいる。そして、例の私の知人は、その鉱石で自分で研究しワープ研究に役立てたらしい。


いろいろ試したが結局特に進展もなく、おもむろにポケットにそれを戻して足早に奥へと歩を進めた。


そのうち広いフロアに出てきたが、トンネルを抜けるや否や、視界がぼんやりとし始めた。理由は単純で、天井のほうにあり得ない数の巨大な穴があって、そこからまばゆい閃光がここまで到来しているからだろう。その閃光の向こうにいったい何があるのかはさっぱり見当もつかない。ただ一つ分かるのは、ここは非常に見晴らしがよく、この周辺の機械だらけの空間が一望できる場所で、ここ一帯はまるで迷路のようなところになっている、ということだ。そこかしこに点在し、黒光りする機械が、自分の心の、恐怖感を司る部分に鋭く突き刺さる。自分の存在があることを猛烈に強調するその「回路」のようなものの先に何があるのか――その知的好奇心に支配された私は少し思い切ったことをすることにした。


空中には幾千ものおそらく鉄製の、ロープが張り巡らされている。そこで、私は持っていたバッグのフックを利用して疑似ロープウェーをすることにした。それは未来への、自分への提案。常軌を逸していて、何かの拍子に結合が外れたなら、はるか下まで真っ逆さま。流石にただでは済まないだろう。安全の保障は、ない。自分の心はどうしてしまったのか、と思った。しかし、根拠のない自身をこしらえて実行に移すことに決めた。それから、近くにあったそのうちの一本に目をつけた。それはかなり遠くまで伸びており、それなりに傾きもある。歩み寄り、フックをひっかけ、一呼吸置く。天井から差し込む光の向きは微妙に変わるようで、いくつもの冷たいような、温かいような光線が皮肉なまでに自分を照らした。それはまるで、サーカスの一番の見せ場のように。


やがて、今年一番のロープを使った私のワンマンショーが開演した。





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