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あなたとの約束を忘れた  作者: もちもちもも
第一章 旅へ
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正直者

「太陽を見つめてどうした?」


 カクタスさんが話しかけてきました。彼が町へ案内してくれるのでしょうか。


「ただ見ていただけです」


「そうかわかるぞ、その気持ち。暖かな光とその力強さに惹かれるよな。俺は昔からひざしを浴びながら寝るのが好きでよ。太陽っていいよな」


「そうですね。暖かくて気持ちいいですよね。不変で、きれいで、変わらなくて、わたしは嫌いですよ。わたしは太陽よりも月のほうが好きです。あのやわらかなひかり。恋焦がれても届かないすがた。月は素晴らしいです」


「綺麗なのに嫌いってのは珍しいな。人には人の感性があるってか」


「そうですね。とても複雑です」


 好きだからこそ傷つけたくなる、そんな人がいるほどに価値と思考は複雑です。いえ、ひとのみにそれを適用するのは不十分でしょう。全ての生物はきわめて複雑です。同一のものはこの世には存在しません。

 たとえば、同じ環境、同じ教育、全てにおいて同様のものを与えられた同性の双子ですら、その思考は共通点を持っていながらもことなるでしょう。


「んじゃ、町に案内するぞ。昼過ぎぐらいには着くはずだ」


 まぶたを数秒ほど閉じて太陽を見つめます。あのときから変わっていません。やはり不変でうつくしい太陽を好きになれません。

 ですが、直視できないものを隠してくれるのは本当にありがたいです。森に入っていくカクタスさんの背についていきました。


 湿ったえだや木々からこぼれた若い緑の葉を踏みしめます。木々のあいだから見える輝かしい太陽の位置から推測するに、あと少しで正午でしょう。


「サールのやつはあえて触れなかったみたいだが、自分の血や神官の血についてくわしいだろ。俺たちの何十倍も生きてるのに、不慮の事故で知りそうなことを知らないとは思えねぇ。俺の部下に襲われたときのように血を流すことは何度もあったろ。そのたびにたまたま襲撃者の口に血が入らなかったと」


「あなたはまっすぐに聞いてきますね。気に入りませんでしたか?」


「いや、ものを隠そうとするのは普通のことだ。そこに好きもない。俺だってサールのやつには言えないことはごまんとある。血の正体は何だ?」


「知らないほうが身のためですよ。きっとあなたも知ってしまったら一時の狂気に身を任せて、永劫の苦しみに飲みこまれてしまいます」


「あんたはそれに飲みこまれたと?」


「まぁそうですね。本当に若いときでしたから。感情のコントロールがうまくできなかったんですよ。それに運もありませんでした。わたしと話したことはサールさんに報告しますか?」


「そうだな。あいつからはどんな些細なことでも、教えろって言われてるからな。団長からの命令には逆らえねぇ」


「正直に話しますね」


「どうせ嘘ついたところで分かってるだろ。それにな、俺は陰湿な嘘や隠しごとは嫌いなんだ。むかしのみじめったらしい生活を思いだすからな」


「豪快なかたですので、過去には囚われないと思っていました。意外と違うんですね」


「人なら誰しもが過去に囚われているだろ。怪我、病気、癖、性格、何もかも過去から生じるもんだ。決して未来から訪れたりはしない。だからこそ過去を正確に覚えておき、今と合わせることで、未来の予測を可能にできる。過去は重要だぜ」


「ええ、その通りですね」


 一理あるでしょう。今朝の彼女のやまいの話も町の人々のようすを深く観察していれば、気づけた可能性もあります。思いかえすと、多くの人が咳きこんでいました。

 自身の特異性からそうした周辺の変化に、無頓着となっていたのがあだとなりました。もう過ぎたことです。考えるだけ無駄でしょう。


 むかしよりも大きくなったセカティアの生まれ故郷が眼前に広がっています。何千年もむかしに作られ、何度も改修などをへながらも、街を守り続けてきた不屈の城壁。ところどころの黒ずみに歴史を感じます。

 かつてとは比べものにならないほどの人が行きかっています。町の興しと崩壊をつねに見てきた身としては、喜びを感じずにはいられません。


「ここからはひとりで問題ないだろ?」


「ええ、さまざまなことでお世話になりました」


「そうか、ならついでにコイツも持ってけ。それで当面は生活できるだろ」


 ジャラジャラと重たい小袋と、髪と目を隠せるほど深いフード付きの羽織りものをくださいました。この件はサールに言わないでくれと頼んできました。つまり、この贈りものは彼の独断によるもの。


「そのフードは正体が割れたときに使え。それ以外のときは使うなよ。基本的にどの国でも髪の毛や瞳の色を隠すのは禁止されてるからな。衛兵が来ても適当に切り抜けろよ」


「ありがとうございます。どうしてここまでするのですか? あなたに実はないはずですが」


「んなもん決まってんだろ。将来的に返してもらうためだ」


「あなたは本当に正直ですね。まぁ血を分けることはしませんが、貰ったお金の倍を稼いで返しますよ」


「おう、期待してるぞ。今すぐに血、もしくはそのネックレス、いやこれ以上はやめておこう。触らぬ神になんとやらだ」


「面白い冗談ですね」


 睨んだのがいけなかったのでしょうか。何やらカクタスさんとわたしの間に距離があいてしまいました。さて、親切なカクタスさんとわかれて、町へと向かいました。本を買うために仕事を探すとしましょう。

今までは朝と夜に更新していましたが、次話から夜の20時のみ更新します。その読んでいただいてるのに申し訳ありません。よければ今後もお願いします。


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