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あなたとの約束を忘れた  作者: もちもちもも
第一章 旅へ
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穴の中にも一週間

 地面の冷たさに包まれています。セカティアと氷に覆われた山に行ったのを思い出しました。頬っぺたに氷を当てたらとても気持ちが良く、そのまま姿勢でいたら張りついてしまったお話です。


 そのときは張りついた皮膚をナイフではがそうとしました。セカティアはギョッと目を見開き、止められました。事情をしっかりと話して、作業を進めようとしましたが、ナイフを取りあげられてしまいます。

 水を温めるからと、魔法で頑張ろうとしてくれました。寒いとふっとうするまでに時間がかかります。待てませんでした。うでに力をこめて強引に皮膚をビリビリとはぎました。自分を大切にしてと、ひどく怒られたものです。

 大切にするもなにもわたしは不死です。心配はいりません。むだに体力を消耗しないほうが良いと彼女に言いましたら、さらに怒られてしまいました。いまでも理解に苦しみます。


 かれらはいるのでしょうか。川に血を落としに行ったと思いますが、予想が外れてしまったらめんどうなことに発展しかねません。

 とてもなやみます。……このままボーとしていましょう。夜になればかれらも寝床にかえるはずです。


 ……ザクザクと地面を掘りかえす音が聞こえます。掘りおこしているのはわたしを埋めた方々のようです。ただ聞きなれない声もあります。墓荒らしとは死者をうやまう気持ちをもっていないのでしょうか。見損ないました。


 スコップのほこさきが鼻にあたりました。数時間ぶりに、不変で永遠に輝く太陽と出会いました。臆病な盗賊さんに似た二十代そこらのお兄さんが、土をはらってくれます。


「一週間まえに埋めたっていうのに、腐敗も、むくみも、死斑もあらわれてねぇ。生娘のようにみずみずしい。虫一匹と近くに見当たらない。おかしら、俺たちが若がえった原因はこいつです」


 一週間も土の中にいたようです。長年、じっとしていた影響でしょう。気にする必要はありません。時間は無限にあるのですから、どれだけ浪費しようと痛くありません。

 かれらは血を口に含んでしまったようです。血には不死のちからが宿っています。血を希薄にしたものを生物がのむとたちまちに若返り、欠損部ややまいが瞬時に治ります。血を大量に摂取すれば、不死の存在へと変貌します。


 川で血を洗い流しているときに取りこんだのでしょう。体外の不死の血は特殊な加工、保存をしないかぎり、分刻みで効力が衰えていきます。若がえるていどで済んだのでしょう。


「えらくひどい状態だな。神官さまとして生きることを拒んだのか知らないが、運がないこった。これからの稼ぎ頭様だ。丁重に出してやれ」


 かれらにわたしが特殊な存在であると知られました。死んだフリをするのは無駄でしかありません。風が吹き、かれらが目を守るためにまばたきをする一瞬のうちに、折れまがった足や、つぶれた目や脳、ありとあらゆる部位を回復させます。


「おはようございます」


 臆病な男性が悲鳴をあげました。野太いこえがおなかの奥深くまで響いてきます。かれにかまわず、かれらは武器をかまえました。一週間まえにわたしの体をもてあそんだ太い槍もあります。


「叫ばないでください。体に響きます」


「お前は一体なんだ?」


 身なりがそれなりに綺麗なおかしらと呼ばれた男性が聞いてきます。


「なんだと聞かれても、わたしはわたしとしか言えません。さきに言います。あなたたちが恐れるウグルではありませんよ。血なんて飲みたくもありません」


「そう言われてもな。体がズタズタで、一週間も放置されたのに生きてる。ウグルではないからと警戒しないほうがおかしいってやつだぜ。なに、お互いに名前を名乗ろうや。俺はカクタス。性はまぁいいだろう」


 性は貴族が使うものでした。今では平民にも浸透しているのでしょうか。むかしは常識とされたことが、いまでは非常識となることもあります。時代の流れでしょう。


「それもそうですね。わたしも名前を名乗るべきなのでしょう。あいにくと名前を忘れてしまいまして」


「ますますわからねぇな。とりあえず大人しく拘束されて、俺たちについて来てくれねぇか。暴行を加えたりしねぇからよ」


「別にいいですよ。ただ弓で射抜かないでください。地味に痛いんですよ。でも、ひとつ条件があります。じつは世間にかなり疎いので、世のなかについていろいろと教えてください」


「それなら別にいいぜ。本当に拘束を受けいれるのか? 厳つい外見の四人に、ハイハイとついていくのはハッキリと異常だぜ?」


 無言で手を差し出します。カクタスさんはわずかに驚いたような顔をしました。ロープで縛られました。

 ウグルの存在やら神官やら、洞窟に籠るまえといまの時世は大きく異なるようです。常識を身につけにいきましょう。


 森の奥深くに、しっかりとした柵で囲った小規模の村をかれらは築いていました。木製の家が並んでいます。畑には見たことのないオレンジと赤の中間の色の野菜に、まるい葉野菜。とおくからは動物のこえも聞こえます。畜産も行っているのでしょう。

 村はとても活気で満ち溢れています。女子供もたのしそうに笑顔です。武装した物騒なものたちからは自分たちの生活をまもろうとする決意を感じます。


 小さなこぢんまりとした家に案内されました。腕に大きな傷をつけた初老間近の渋い男性に歓迎されました。



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