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あなたとの約束を忘れた  作者: もちもちもも
二章 海の町セイーレ
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簡易裁判

 この黒いふくろを被せられてから、どれほどの時間が経過したのでしょうか。土に埋められたときは、気がついたら一週間も過ぎていました。今回の場合は監視さんが食事を……今更、気がつきました。袋を被せて放置したのは、各々の反応を図る目的があったのではないでしょうか。

 常人ならば息苦しさや孤独感などで、だんだんと気を病んでしまうでしょう。それらにつよい人でも、眠ったり、お腹を鳴らしたり、また足をモジモジとさせて何かを我慢するはずです。わたしなどの不死はそれらがありません。一般的におかしい状態で平然と過ごせてしまいます。

 すでに行き止まりにいるのかもしれません。一応、あがいておきましょう。もしかしたら、まだなんとかなる範囲かもしれません。


 見張りの衛兵さんが移動する足音は、まだ二回しか聞いていません。まだなんとかなる範囲でしょう、おそらくは。


「あの誰か、いませんか? 喉が乾いてしまいました。それにお腹も。誰か?」


「そうか。食事を持ってきてやろう。せっかくだ。いっぱい持ってきてやろう。うんと食べ応えのあるやつだ。だからすこしだけ時間がかかる。おとなしく待ってろよ」


 もうだいぶ遅いようでした。案のじょう、ガシャガシャと複数の足音が。

 反応を示すまで放置するなどひどい話です。もしこのまま半年以上も呆けていたら、どうするつもりだったのでしょうか。シャイなウカルさんは話しかけられずに、死んでしまうかもしれません。まるで死ぬまで放置したかったかのようです。それともウグルの情報が欲しかったのでしょうか。


 体への負担を無視した強さと量の縄で、がんじがらめにされました。おそらく常人にやったら、窒息や血管の圧迫により手足の麻痺などが起こり、運がよくともまともな生活が送れなくなるでしょうり


 さて、どこに連れて行かれるのでしょうか。わかりません。ただひとつ間違いないことがあります。それは不死殺しで貫かれることです。ウグルであるわたしを仕留めるにはそれしかないからです。

 この予想のどおりに行ったらおのずと答えは出てきます。


 慈悲深いことにいきなり刺し殺すのではなく、裁判を行なってもらえるそうです。乱暴にふくろを外されました。鼻先がすこしだけ痛みます。まばゆい光に目がジーンとします。すぐに猿轡をつけられました。神官さまに襲い掛からないようにする処置でしょう。

 ひさしぶりの光に目が眩みましたが、段々と慣れてきました。なんと豪華絢爛な礼拝堂なのでしょうか。光の調和。壁一面のステンドグラス、太陽を背にするように作られた神の像。とても裕福なのでしょう。

 それで意外にも、礼拝に使われているであろう椅子に視聴人たちが座っています。結論ありきのものでしょうし、かたちを整えただけでしょう。


 神の像の真下。神の威を代行するように礼拝堂の祭壇、裁判官の位置に立つのは高貴な神官さまです。赤い瞳に白髪で、白を基調としながらも血を崇める宗教のためか、袖や襟の部分、またボタンから帽子などの服は赤く装飾されています。位が高くなるに連れて赤い装飾が増えていくのでしょう。それこそヘカティアさんは真っ赤かでしょう。

 かつて黄金を象徴としていた宗教でもそうでした。高位ともなると、それはもう目に悪いほどにぎんぎらぎんで太陽のもとでは、まともに見ることさえ叶いませんでした。


「これより永遠の神の名のもとに、汝が穢れたる血を受けしものか審議を開始します。まず汝は、二日間も飲まず食わず、また生物的な行いをしなくとも平然としていたことが納められています。それに偽りはありませんか?」


「ございません!」


わたしの見張りをしていた兵士さんが、元気な声で真実と言い放ちます。じっさいに本当のためどうしようもありません。それに弁明は許されていません。


「また独房の温度は通常よりも高く、兵士は何度も倒れかけたという話もあります。それも真実と。以下のことより汝が人ではないと示されました。汝がウグルである証明ですが、これは審査するまでもありません。哀れなるものを太陽が頂点に達したとき、神のもとへと送ります。異議を唱えるものは?」


 とてもスピーディーです。はたしてこれは裁判と言えるのでしょうか。やはり時間感覚を一般と合わせなくてはいけません。この体の便利でありながら、不便な点です。

 これより不死殺しを堪能するのです。その努力はいらないでしょう。多くの人を不幸にしてきた自分の終わりが、人に裁かれるのなら悪いものではありません。本音をいうと、旅が終わるまで待っていて欲しかったです。神さまは意地悪です。


「いませんね。これにより公正なる判決が下りました。それでは兵士の皆さん、先ほど告げた時刻から儀式を始めると民に伝えてください。審議を終了し、各々の場所へと帰ってください」


 視聴席の人々がゾロゾロと列をなして、礼拝堂を後にします。その列の皆はいちようにくらい顔をしており、一歩一歩が重たく、まるでしかばねが歩いているようです。生気を感じさせません。かれらは犠牲となった人々の遺族なのでしょうか。それにしてはやけに静かです。もっとむすめを、むすこを返せとやら言ってくるはずです。その気力すらないのでしょうか。


「兵士の皆さん、彼女をおくの部屋に入れてください。時間が来ましたら移動もお願いします。きっとこれでかれらの心にもゆとりが生まれるはずです。ウグルはもうひとり隠れています。気をつけてかかってください」


 猿轡を外されて、またあの黒い袋を被せられました。担がれて奥の部屋へと運搬されます。建材の木材を何度か運んだ経験があるのですが、そうした木材の気持ちを理解した気がします。もしも機会があれば、今度は優しく地面に置いてあげましょう。


 ……不思議な気分です。木材の気持ちを理解したことではありません。幾百万、もはや記憶にすらないほどの年月を生き、そのなかで望み、渇望し続けてきたものが目のまえに来ているのです。

 静かな安らぎと、どこか寂しいような気持ちが混ざった言葉にならない感情が、心を満たしています。

 むかしはこれに直面したら手放しに喜ぶと思っていました。しかし、じっさいに芽生えた気持ちは予想だにしていなかった、理想とはかけ離れた異なるもの。

 状況がいけないのでしょう。わたしの深層が望む終わりはこれではありません。しかし、ただをこねても仕方ありません。わたしは贅沢を言える身分ではありません。望みは永劫に訪れません。尋問官にいくつか質問され、それの返答を終えて処刑の時間がやってきました。


 これで終わりなのです。つねに背中を押される長い長い悪夢のようでいて、またとても沢山の幸福を味わった旅は、カルアさんをひとりおいて終わりを迎えるのです。処刑台に立ちました。

読んでいただきありがとうございました。ゆっくりと読者さまが付いてきたような気がしますので、ひたすらに頑張るのです。気のせいかもしれませんが。

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