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あなたとの約束を忘れた  作者: もちもちもも
二章 海の町セイーレ
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不死者の退屈

 カルアさんがとなりでしずかに眠ってから、どれだけの時間がたったのでしょうか。彼女を真横から見つめるぐらいしかやることがなく、とても退屈で仕方ありません。

 眠ることも考えました。ですが、あまり気乗りしません。いい夢を見たあとはかならず悪い夢を見るからです。わたしがもっとも憎悪する存在が間近で顔を覗いてくるでしょう。


 それにしても退屈です。本当に退屈。カクタスさんの部下の三人組をやり過ごすために、一週間も土のなかに潜っていたときはなにも感じませんでした。なのに、いまでは数時間ですらとてつもなく苦痛です。

 待つのは得意なつもりでした。しかし、自分の自分に対する評価とは案外当てにならないようです。もう今すぐにでも、虎の如く力強く外に飛び出してしまいたいほどです。


 そうです! あの老婆も今ごろは夢のなかを腰が痛い腰が痛いと、杖をつき体を労りながらウロウロと歩いているはずです。外に出ても問題ないはずです。見つからなければいいのです。

 しかし、悪さをしようとすると、善良で道徳的な神に監視されているのか、自分にとって不都合な結果が舞いこんできます。ここは今後のためにもじっと我慢しましょう。


 ……なぜ退屈を耐えて、激しい癇癪を起こしているのでしょうか。べつに変に耐える必要などありません。砂漠まがいの場所を淡々と歩きつづけたときとおなじように、セカティアとの思い出で退屈を紛らわせればいいのです。そうですとも、そうですとも、とても優れた選択です。

 ……しかし、引っ張り出そうという気概が起きません。エピソードを思い出せないわけではありません。前向きに取りくもうという気持ちが起きず、モヤモヤとして晴れない霧に心が覆われてしまったのです。

 本当に好きで、好きでたまりません。なのに不透明な要因により、心がまえを向かずに、強引に奮い立たせても満たされず、むしろ不自然なたかぶりが消えたような喪失感、虚無感が心を締めつけるばかりです。

 こういうときはなにも考えずに、天井を眺めるのが良いと聞きました。耐えがたいことから逃げるのは恥ではありません。至極当然です。


 ……窓から光が差しこんでいます。ようやく朝が訪れたのです。死んでしまいそうなほどに退屈な夜を超えました。あと一刻ほどで彼女は目を覚ますでしょう。この溜まった鬱憤を晴らすためにも長話でもしてみましょうか。

 ――なにやら遠方から激しい音が聞こえてきました。体にひびく音から太鼓を打ち鳴らしているのでしょう。


 やがて屈強な船乗りが発するような体の芯が、痺れてしまうこえが響きます。それはペルセパン屋のカセラという人物が、ウグルに襲われてたことを伝えていました。あまり信じたくないお話です。

 なぜなら夜の退屈を昼も味わうのです。もし一週間以上もウグルが拘束されなければ、わたしは一週間もこの部屋に拘束されてしまいます。その全てが退屈ではないにしろ、苦痛に満ちた日々を送るに違いはありません。


「最悪の目覚めね。まだガンガンと耳のおくで音が響いてる。もう少しだけ静かにできないのかしら」


「おはようございます。これでわたしは、数日間も外に出れません。仕方がないことですね。しかし、本当になにをしましょう」


「……そうね。私は、外を見てまわるわ。勘違いしないで。あなたを置いて楽しもうとしているわけじゃない。またふたりで楽しめるように見学するだけ。それに早く帰ってくるつもりよ。大丈夫、人通りには気をつけるわ。それに土産話に期待しなさい」


「ええ、わかりました。わたしはここで大人しくお留守番をしてますね。念を入れていいますが、暗くなるまえに帰ってきてください」


 わたしでも、彼女をウグルから逃すことぐらいはできるでしょう。しかし、彼女がひとりで襲われたら一溜まりもありません。それこそ話に聞くように、ブチブチと筋肉を噛み切られて、無残に殺されてしまうでしょう。

 本当はこの部屋から出ていかないで欲しいと思っています。しかし、今後もおなじことがないとはかぎりませんので、慣れる機会にしましょう。それに人通りが多いところで襲うことなどありえません。おそらくは裏路地やらの大衆の死角でパクパクしているはずです。


 それからほどなくして、ドアがノックされました。驚いたのですが、以前に宿の一階にいた白髪の女性はここの職員でした。エプロンを着て、朝食を運んできてくれました。

 奇妙なことに怯えた小動物のように体を小さく震わせており、料理の皿とそれを載せたお盆がふれあい、カタカタと音を刻んでいます。パンなどの固形物は揺れても問題はありません。ですが、並々に入れられたスープは揺れで器の外へと溢れています。


「ありがとうございます。ところでなにかふくものはありますか? わずかに器が汚れていますので、拭き取りたいのです」


 彼女はエプロンのポケットから布巾を取り出し、それをお盆のうえに置きました。何度もペコリペコリと頭を下げて、そそくさと部屋から出て行ってしまいました。強く言ったつもりはありません。しかし、怯えられてしまいました。


 味ですが、とても好ましいものでした。いまとむかしでは味付けの濃さや使われている調味料がわずかに異なっています。

 かつてとおなじ名前の料理といえども差異を感じずにいられません。むかしよりも人々にとって美味しいと感じられる味付けに変わったと言い換えられるでしょう。しかし、わたしが食べたいと思う味とは合致しませんでした。

 しかし、この料理はどうでしょうか。かつてセカティアとセイレー漁村で食べた質素ながらも味わく、千年もの時を超えてふたたび堪能できるとは思いませんでした。

 詳しい味付けを、これを作ったであろう老婆か、シェフにレシピをぜひとも伺いたいものです。


 カルアさんは食後にポーチを持って町へと出かけて行きました。それで退屈が彼女とすれ違いざまに入ってきました。渋々と話し下手な退屈の相手をします。なにを話しても無言でも、ほんとうに退屈です。おなじ給仕のかたが食器を取りに来ました。

 ただ体は震えておらず、またオドオドともしていません。複数人と接するのを苦手としているのでしょうか。


「お客さんの相方はどちらに?」


「彼女でしたら町へ観光に行きました。彼女は好奇心旺盛なかたですので、ここでじっとしているのは呼吸をするなと言われているのと同義なのです。夕方まえには帰ってくるはずです」


「わかりました。夕食は変わらずにいると。それで先ほどは妹が失礼しました。妹は人見知りなもので、お客さんをまえにすると体が震えてしまったりするのです。彼女の性分ゆえにどうかご了承ください」


 驚くべきことに今朝の給仕のお姉さんでした。横に並べても姉か妹か、ハッキリと区別できないその写身のような容姿から双子でしょう。しかし、性格から割ることは容易にできます。そう大した問題ではありません。ハッキリとしたほうが姉、オドオドとしたほうが妹です。


「腹を立てたりなどしていませんよ。それよりも今朝にパン屋のカセラという人物が亡くなったと聞きました。その人の親戚にカルモという衛兵はいませんか?」


「はい、います。話に聞く限りですが妊娠していたそうですから、本当に痛ましい限りだと思います」


 神さまはとても悪趣味なのでしょう。人が楽しさや心地よさ、また喜び。清い感情の絶頂にいるとき、また汚れた感情からそれの麓に到達した瞬間に、すべてを嘲笑うかのように不幸の底に引きずり込むのですから。そしてわたしたちは狂楽の対象とならないことを、その神に祈ることしか出来ないのです。運悪く選ばれたもの、もしくは自らを主張してしまったものは、神の雷に裁かれるか、神さまが罰として永遠の旅人としてしまうのです。

今回の文章、少し読みづらいような。ごめんなさい。それで宣言通り、夜にも投稿しますので気が向きましたらぜひお越しください。


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