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あなたとの約束を忘れた  作者: もちもちもも
二章 海の町セイーレ
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宝石

 旅の醍醐味は多種多様にあります。たとえば、その地の広大な自然を体で感じること。この町ならばもう何度も味わっていますが、地平線の彼方まで、ずーと広がる青い宝石のような海は圧巻の一言です。

 また海が長い年月をかけて掘り出した、自身をより美しく見せるための洞窟にも目をむけてみましょう。この町では海神の家と呼ばれる洞窟があり、案内人を雇い、そこに訪ねました。すると、海中に太陽がありました。

 ありえないと思いになるかもしれません。本来は透明なはずの海が、濃い青の絵の具のような色になりつつも上品さ、気品を失わぬ姿でわれわれを迎えてくれました。洞窟の天井ではユラユラと光が駆け、言葉を失ってしまいました。


 また漁業が盛んゆえの魚の美しさを忘れてはなりません。魚に美しさを求めることをおかしいと思うかもしれません。しかし一度、魚の鱗などに光を当ててみてください。普段は捌くときに煩わしいと感じるだけかもしれません。ですが、種によって輝きかたから色合い、全てが異なります。それをあれやこれやと試すと時間を忘れてしまうでしょう。もし余裕があれば確認してみてください。自然の美の一端に触れることができると断言しましょう。


 それらの自然の美だけありません。やはり、その地にある文化を楽しまずしてなにが旅でしょうか。

 たとえば、この地ならば漁でしょう。あの豊漁の祭りです。むかしよりも儀式的な色合いが薄れて、お祭りとしての側面を強めた経緯。それらを知る喜びはなかなか心地のよいものでした。貿易の拠点ですので、この地の文化と海外の文化が混じったりしてもいました。料理にそれが色濃く出ていました。


 彼女はカナヅチではありませんでした。彼女はセカティアの子孫です。海に入ったとたんに、足に鉄球をつけられたように海の底へと沈んでいくものとばかり思っていました。ですが、波に苦戦するもののキチンと泳げていました。もう数日の練習すれば、魚を捕まえられるようになるでしょう。


「あの屋台の串に刺さった赤くてブツブツがいっぱいのやつはなに?」


「あれはタコの足ですね。海の生きものですよ。足が八本で、目はヤギのように横長。全身があの串に刺さってるやつのように真っ赤です。近づくと墨と呼ばれる黒い液体を吐いてきます。味はコリコリと弾力がありまして、結構美味しいですよ」


「あれが美味しいの? というか嘘ついてない? 足が八本もあるってありえない。なんで魚なのにヤギのような目なのよ。普通はまんまるよね」


「嘘などついていません。全部本当のことですよ。漁師さんにでも聞いてみてください。せっかくですので食べましょう。ここ以外ではなかなか食べられませんよ。むかしから一部地域を除くと、タコは悪魔と呼びれて嫌われていますからね」


 ……イメージしづらいものに恐々としながらも、気になって仕方がないようです。とてもかわいらしいですね。早速、ふたつ購入してきました。

 恐る恐る口に運び、おいしいのが分かると、串ごといってしまいそうなほどに食べていきます。どこにも逃げないというのに、もう一本だけ買っても良さそうです。

 むかしの知り合いの……誰か、そう、はて誰でしょうか。彼女のように、普段は食べないものを恐る恐るで食べて美味しいと言っていた人がいました。詳細が目に水が入っているかのようにぼやけています。まぁ気にしなくてもいいでしょう。タコは美味しいです。


 約束の日記をつけるための本を見に行きました。技術が進歩したらしく、むかしよりも安くなっていました。それでもなかなか手出しできない金額でした。これはまだまださきになりそうです。


 宿に戻ってきました。みょうに店内がピリピリとしています。それに昨日は大勢いたわたしと似た容姿の人々がひとりとしていません。夕方ですし、皆部屋に戻ったのでしょうか。


「こんな時間まで何やってんだい。早く部屋にお戻り。アイツらが居ないから察しているだろうが、ウグルがいるなんて噂が立ってんだよ。死告人が騒いでないから噂ていどだが、火のないところに煙はたたないんだよ」


 大人しく部屋へと移動しました。時折、根も葉もないような噂が流れます。ただ多かれ少なかれ噂にはもとが存在します。なかなか警戒をしていたようですが、明日の朝は騒がしくなるかもしれません。

 死告人とは、その名のとおり人の死を告げる仕事だそうです。ウグルの出現や流行病の流行など人が死ぬことが増えたため、各地で自然にできた職業です。誰が死んだのかを明らかにすることで、町の循環を滞りなくさせ、人々に警戒心を芽生えさせる力を持ちます。


「最悪ね。これじゃあ、あなたと町を回れない。私たちが今日のうち巡ったのなんて、山の麓でしかないでしょ。もっと高く登りたいわ。ひとりで真昼間に巡るのもいいけど、あなたの解説が無いとまったくもってさっぱりだわ」


「わたしも色々と話したいのですが、最悪、その店の主にでも聞いたらどうですか? わたしも結局は長い長い旅で得たことを話しているだけです。答えが的確ではないかもしれません。なんでしたら、最新のことには疎いです」


「ちょっと違う。私はむかしをふかく知りたい。それにあんたに今を見てもらいたい。ほら、あんたって引き篭もってたわけで今時に疎いわけよ。ならさ、むかしはご先祖さま以外に、夢中になれるものを見つけられなかったかもしれない。けど今はどうかしら。いろどりを与えてくれるものが、生まれてるかもしれないのよ?」


 今を見てほしいですか。セイレー漁村が滅び、この町が生まれました。それは紛れもない変化。もうわたしが過ごしている時代はとうのむかしに滅び去ったのです。ゆえに約千年もの年月をたった今の世界を感じてほしいと。


「ええ、ありがとうございます。そうですね。……今回の旅はあなたのためだけではなく、わたしのためでもあるのですね」


 この旅は我々が我々を見つけるための歩み。彼女だけのものではなく、わたしのためのものでもある。今のわたしにとってなによりも輝きを放つ、あなたとは違う宝石を見つけるための旅。

 ですが、あなたを超える輝きをもつ宝石など想像すらできません。海を筆頭とした広大で、底すら知れぬ自然、そのなかを悠々と己の道をいく生命、また数多の人々の意思の積み重ねによって生まれたあらゆる文化。そうした何事にも変えがたく、美しいとされる宝石すらあなたと比べたら、それこそただのありきたりな粒でしかありません。

 もしもあなたとおなじ輝きを掘り起こしたのなら、はたしてどのような選択を取るのでしょうか。おそらく何も決められずにグズグズと行ったり来たりを繰り返すはずです。ゆえに見つけることはできるのでしょうか。そして、あなたを砕く苦しみに耐えられるのでしょうか。

昨日のアクセス数、天元突破してました。何があったのでしょうか。なんだか、とても気持ち恥ずかしくなります。その頑張っていきます。

拙い文章ですが、今後もよろしくお願いします。

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