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あなたとの約束を忘れた  作者: もちもちもも
二章 海の町セイーレ
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幸せな夢

「……カルモさん、昨日今日のお付き合いでしたが、良くしていただき、ありがとうございました。とくに彼女の好きなリコの実を持ってきてくれたことに、なんとお礼をいえばよいのでしょう」


「良いんだよ。詰所で暇をつぶすための道具を持ってきただけだ。リコの実だって知り合いから多く貰いすぎたからだ。俺も遊びに混ぜてもらった。ちょっとした愚痴を聞いて貰った。明日の明朝には出ていくんだ。メルルもはやく寝るんだな」


 明日、この閉鎖的な部屋から出られます。わたしからすればそこまで大した感動ではありません。しかし、さきほど寝付いたカルアさんは、その事実に胸が高鳴って、なんどもなんども眠れない眠れないと訴えてきたほどに嬉しそうでした。

 わたしの話もありましたし、われわれの世話をしてくれた兵士のカルモさんとも仲良くなりました。退屈ではありませんでした。カルモさんが持ってきてくれた玩具には、わたしの知らないようなものも含まれていました。


 彼女が一番喜んだのはリコの実でした。しかし、彼女の好きな甘酸っぱい味わいのものではなく、わたしの大好きな芯まで甘いものでした。

 すこしだけ肩を落としていました。それでも自分のぶんをシャクシャクと食べ終えると、オオカミに狙われたことを思い出すほどのするどい眼光で、こちらのリコの実を見てきました。

 平等にいただいたので、分けたりする必要はありませんでしたが、カルモさんに頼んで切ってもらいました。ちょっと食い意地が張りすぎているような気もしますが、誰であろうと好きなものをまえに我慢などできません。

 そのことで、この狭い牢屋でぴょんぴょんとおさない少女のようにとび跳ねるすがたには、愛らしさを感じずにいられませんでした。


「そういえば、どこかおすすめの宿を知りませんか? なるべくやすく泊まれるところがいいのですが、わたしの見た目を受け入れてくれる場所ならどこでも大丈夫です。せめて安心できる場所を、カルアさんに」


 わたしの見た目は不死の化けものとおなじです。宿などの安全を提供する場所で、火元を泊める店主は少ないでしょう。わたしは外の路地裏で寝泊まりしても問題ありません。死にませんから。彼女はかんたんに死んでしまいます。それに、ウグルが路地裏にいると、よからぬ噂が立つかもしれません。それもなるべく避けたいところです。もしものことで、不死性が露呈したら神官さまに貫かれてしまいます。


 じっさいに不死を殺せる武器が間近にあると考えると、すぐにでもそこへと向かいたくなってしまう衝動に駆られます。わたしは死という光に誘われた蛾のようなものです。

 それが眉唾なポンコツではないのを祈ります。古来より人は、自身と他者の空想と現実をつなぎ合わせて、壮大な物語を作ってきました。そのなかには当然というべきか、ひとの夢である不死が登場することも多くあります。そのたびにあらゆる場所で、不死殺しの武器が作られました。蛾は作りものの光であっても誘われてしまうのです。なんど騙されたことでしょうか。


 いまは旅の案内をしている途中です。知識が古いために完璧な案内はできません。経験などから道標にはなれるはずです。

 旅が終わったら、セカティアに出会えるかもしれません。ヘアメセスという心に住んでいるかた。あなたと会えば、セカティアとはことなる幸福感を味わえるのでしょう。彼女らと会うときが、旅の終わりになるのでしょうか。


 話がそれてしまいました。カルモさんに宿を紹介していただきました。ニュースという名前の老婆が経営している宿だそうで、こぢんまりとして質はお世辞にもよくないそうです。ただ格安で泊まれ、食事だけはしっかりとしているそうです。

 彼女が起きたらこのことを話しましょう。もしかしたら、べつの宿をさがすことになるかもしれません。この旅は彼女のものですから、可能なかぎりは頑張りましょう。


 彼女の横で目を閉じるとしましょう。眠りにつくわけではありません。べつにかれが荷物を盗んだり、われわれに乱暴するかもしれないのを警戒しているわけでもありません。かれはすでに家族の待つ家へと向かいました。

 単純に眠るのが嫌いなだけです。三大欲求とさえ呼ばれているものをきらうのは、変な話と思われるかもしれません。不死となって不要になったこと。またくわしく覚えてはいませんが、寝ていたら淡いピンク色の蛇が体を這い回っていた出来事と、許すことのできない怒りを抱いたことがあるのです。

それに見たくもない巨大ななにかを見ることもあり、睡眠に良い感情を持てません。


 しかし、寝なくとも横にはならなければなりません。夜間は兵士が見回りを行なっており、われわれの牢屋のまえを横切るからです。そこでわたしが堂々と起きていては不自然でしょう。

 初日はそのことを知らず、静かな吐息をたてて眠る彼女を見守っていました。すると、ちかくで金属同士がぶつかり合ったような高い音が聞こえ、慎重にベッドに横になりました。なにがあったのか知りませんが、奇跡的と言わざるを得ないでしょう。


 彼女に寄り添っていると、安らぎにも似た気持ちが芽生えてきます。じつはセカティアとなんども寝たことがあります。誤解しないでください。さきほど語った感情は嘘ではありません。


 ですが人が生きていけない灼熱の砂漠にも、人を祝福し、うるおいの恵みを与えてくれるオアシスがあります。それのように睡眠に安らぎを感じる面も存在するのです。

 ……ひさしぶりに眠るのも悪くはないのかもしれません。一度、静かな世界に旅立つのも悪くはないでしょう。


 ……やはり、たまには寝てみるものです。若々しく生い茂る木々のもとで、セカティアと過ごせるのですから。むかしも、彼女の膝を枕がわりに使わせていただいていました。

うでを伸ばして彼女のほほをかるく引っ張ると、嫌がる素振りをしてから、それを解くのではなく、わたしの髪の毛をぐしゃぐしゃとして抵抗の意思を表現してきました。本当の彼女です。

 夢とはどうしてこれほどまでに不思議なものなのでしょうか。つよくつよく求めるものを与えてくれるのは、どうしてなのでしょうか。ときとして悪戯心が働くのか、見たくもない悪夢を見せてきますが、ほんとうにどうしてなのでしょうか。

 セカティア。またともに眠りましょう。良ければわたしの横になってください。そして、その首のアザを隠さないでください。それだけがあなたに返せたものなのですから。

一通り読んでから投稿しているのですが、少し甘く見ているためか誤字がどうしても出てきてしまいます。せっかくの時間を割いていただいているのに申し訳ありません。なるべく減らせるように努めます!

読んでいただきありがとうございます。


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