16話 劇団員に強さって必要ですか?
二試合目、うちの団員。
「今日こそぎゃふんと言わせますよ、団長」
「ああ、そうだね」
結果、おれが勝ちました。はい次!
◇
三試合目、うちの団員。
「負けないっすよ」
「うん、頑張って」
結果、おれが勝ちました。はい次!!
◇
四試合目、うちの団員。
「もう諦めて良いです?」
「せめて戦え」
結果、おれが勝ちました。はい次!!!
◇
なんだかんだで、決勝戦。奇跡かなにかで、決勝までうちの団員としか当たらなかった。
いや、この言い方は語弊があるな。決勝も、うちの団員。いや一般人も参加できる闘技大会に出場したんだけども。なんでうちの団員としか当たらないの?今までこんな事なかったよ。おっかないよ。
「良いか?団長に近接戦は挑むなよ?」
「あの筋肉莫迦に近接戦挑んだら、君みたいなほっそい子は骨折じゃすまない」
「それ軽く私をディスってますよね」
何を隠そう、決勝戦のお相手は、勇者スミレ。そう、うちの団員。
「良いか?常に一定の距離を保つんだぞ」
「ウィさん」
「あいつに魔法はほぼ効かない。けど近接戦を挑むより可能性があるぞ。ってか、正直言って、あいつと同程度近接戦が出来なけりゃ、勝ち目なんてねえ」
「それって、私に勝ち目なくないですか?私、一応近接戦は出来ますけど、団長みたいに魔獣を圧倒できる強さは無いですよ?」
「そこだよなぁ。なあだんちょ、お前ハンデ戦にしておけよ」
「ん?ハンデ?なに?利き手は使ったらダメとか?」
「そうそう」
「でもおれ、両方利き手と言うか、クロスドミナンス、って言うっけ?あれだから、それは無理だぞ。他のハンデって、他に何かあったっけ?」
「じゃあ、そのしょぼい方の木の枝が折れる、それか燃やされたり一定以上のダメージを木の枝が負ったら、負けってのはどうだ?」
「うん、イイね。それは。スリリングな戦いが出来そうで」
まあしょぼい方の木の枝、って条件を付けられたのが痛いけど。だってこれ、どこで拾ったのか、いつ拾ったのか、何年ほど前に拾ったのか、更には雨風に曝されてるから、もう結構寿命なんだけど。
「うーん。せめて新しい枝を拾っても?」
「それじゃあてめえが本気出せるようなもんだろ。そのボロボロのを使え。じゃないとハンデにならんだろ」
「てもこれ、もう寿命だぜ?」
「だからハンデになるんだろ」
「じゃ、そういう事で良いかい、勇者スミレ、ぷッ」
「笑うなぁ!あなたが勝手にその名前で登録しておいて、その名前を笑うなぁ!」
いや、なんというか、スミレの二つ名が勇者だと思うと、ぷッ、面白くて仕方がないよ。ヤバいほどおもろい。
「で、ハンデはそれでいい?」
「別に良いですけど、そんなにボロいボロいって言ってるのに、ウィさんとの戦いでは折れないんですか?そもそも剣と打ち合える木の枝とか、理解不能なんですけど」
「そこはおれの腕の見せ所、って奴だ。それとウィには、こんなの使わねえよ。すぐに使い物にならなくなるし。あの魔術師相手には、こんなの使って勝てるはずねえだろ。だから創造樹イザナギの木の枝を使ってる」
「え、創造樹イザナギって、あの!?誰の立ち入りも許してない、聖域にあるあの!?」
「そ」
「え、なにしてるんですか!?そもそも聖域に入る事自体、シンプルにドが付く犯罪じゃないですか!しかも創造樹の枝を、え、取ってきたんですか?」
「そ。折角だから、新鮮なのが欲しかったら、折ってきた」
「余計ダメじゃないですか!せめて自然に折れて落ちた枝を拾ってきてくださいよ!大犯罪者じゃないですか!」
全く、創造樹だなんだって、人の立ち入りを禁ずるほどの物なのかねぇ。そんな保護されないといけない物だったなら、創造樹ってのは大した物じゃあないだろ。だから別に、枝一本ぐらい折っても、全然問題ないだろ。
犯罪?そんなもん、今更人攫いだとかしている人種だぞ?今更そんな、犯罪がどうとかって、今更すぎるだろ。
「じゃ、ハンデはそれで良いね。まー、お互い勝負を頑張ろうね」
「なんか、とても腹立つんですけど」
「そうだぞ団長!女相手なんだから、負けちまえ!」
「女に華を持たせるのが男ってもんだぞ!」
「てめえらおれの味方をしないのは別に良いが」
「「良いのかよ!」」
「せめてフェアであれ!そしておれが居る場でのおれへの悪口はやめろ!」
「でも団長、一切気にしないよな」
「そりゃあ、どうでも良いからな」
悪口なんて、気にするだけ無駄だろ。これはおれじゃあなくても、気にしないだろ。だって悪口を気にするなんて、時間の無駄じゃん。まあ気にするのが人ってもんだけど。
「じゃ、お先に失礼」
「これが強者の余裕ですか」
「まあ、団長はそういう珍しい人種だからねぇ。それと、ちょいとこっち。耳を貸しな。老人のアドバイスは凄いぞぉ」
◇
試合開始、5分。大体スミレの戦い方もわかった。
と言うか、スミレって強いのね。やっぱ勇者として呼び出されただけはあるのね。やっぱユニーク魔法が強いわ。
ユニーク魔法、『アクション魔法』。動きに応じて、様々な魔法を使う事ができる。魔力の籠め方によっても魔法が変わる。正直、これと言った、特徴的な戦い方ってのが無い、どんな戦い方でも出来る優れた兵士、ってな感じ。
「やー、強いね。羨ましい限りだね」
「団長こそ、馬鹿みたいに強いじゃないですか。ってか魔法一切使って無いですし」
「そりゃあ、ハンデ戦だからね。おれからのサービスハンデ。魔法を一切使わない。どう、嬉しい?」
「確かにこれで善戦している以上、ハンデとしての役割を果たしてますけど、魔法すら使わないで良いって判断される私の実力が、嬉しくないですね」
「おや。喜んでもらえると思ってたけど。ま、良い加減試合を終わらせようじゃあないか」
今までの5分は、言っちゃあまあ、ファンサービスと言うか、観客の為のパフォーマンスと言うか。そういう時間だった。
あとはまあ、おれがスミレの戦い方を把握したかったってのもある。折角うちの団員が戦うって言うんだ。強さの把握は、団長の仕事だろ?まあ明らかに劇団に必要な能力では無いんだけど。
「ホントに来た」
「ん?」
「はいっ!!」
「うをっ」
魔法が、スミレとおれの超近距離で魔法が飛んできた。それも爆発系統の魔法。
「それじゃ、団長。おとなしく喰らって」
「マジか」
自分だけ離脱しよった、あの小娘。だからか。序盤は軽いパチパチ、レベルの爆発だったの。
この爆発、まさかの連鎖式か。一つ一つの破壊力は無いけど、全部一気に爆発したら、それこそ木だったりをなぎ倒す事ができる威力を誇る、ってな訳ですか。
「こりゃ一本取られたなぁ。ウィの入れ知恵ってずるくないか?」
「なんであれで無傷なんですかね!!」
「そりゃあ、あんなので傷ついてたら、魔獣を相手に生き延びれないさ」
「ウィさんに言われた通り、殺すつもりでやるべきだった」
「うちの子をそんな物騒に育てた覚えはありません!」
「あなた誰ですか?」
まあ、うん、君の所属する劇団の団長だね。
「じゃ、おとなしく降参してね。それとも木の枝でぶたれて気絶する?」
「後者にとても興味がありますが、おとなしく降参します」
ってな訳で、優勝だぁあああああああああ!わああああああああああああい