15話 勇者って肩書って格好いいよね
いやー。闘技大会の会場は、まだ試合も始まってないってのに、それはもう大盛り上がりだ。なにせ大金を稼ぐ事ができる可能性があるんだから。
まあ、おれみたいな出場者は賭けには無縁だけど。代わりの優勝賞金だ。まあ誰でも参加できるって点だと、やっぱり賭けの方が難易度は低いかな。流石に子供にさせるのは倫理的にどうなの、って事から、15歳以下は投票券の購入ってのを禁じてるんだけど。まあ運営的にも未成年的にも、どちらにも利益がある訳だから、結局年齢関係なく投票券は購入できるようになってる。
「どうだった、ウィ?」
「俺と団長、一回戦で戦う」
「わぁお。そりゃあびっくり。運営としても、いつもいつもおれたちの決勝が飽きたのかな?」
「そりゃねえ。団長は毎度毎度名前を変えてるんだぞ。名前が無いとは言っても、毎度変えてる人物なんて、誰一人としていねえよ」
「でも今回は一番使ってる、アリーズオーミネスの団長って言う、とても特定しやすい名前にしてるだろ」
「まー、波乱ってのを演出したかったんだろ」
でも、珍しい。名前にもレパートリーがとても少ないせいで、結局おれだってバレちゃうんだけどね。だからまあ、ウィとおれ、優勝候補同士、最初の方に当たらないように毎度毎度調整されてたんだけど。
「ま、良い機会じゃん。お互い全力で戦える」
「馬鹿言え。俺もお前も、そこらへんにいる奴等相手だと、呼吸一つ乱さないんだから。いつだって全力だろ」
「それを言われたらなにも言い返せない」
だって、冒険者協会に居るような奴等だったり騎士団協会だったり、まあそういうところに所属している人達なら兎も角だ。こういう闘技大会って、実力者大歓迎!!ってな訳で、誰でも参加できるのよ。まあおかげでおれたちも出場できてるんだけど。まあ無所属の人は、そんなに強くないし。
そしてまあ、おれとウィは格別と言って良いほどの強さを誇るからね。冒険者協会に居ようが騎士団協会に居ようが狩人協会に居ようが、まあ相手にならないというか。そりゃあ別格な強さを持ってる人が居れば話は別だけど、まあそういう人ってのはそうそういないからね。
「団長!」
「どった、スミレちゃん。顔真っ赤にして。折角の美人な顔が台無しよ?」
「あなたの、せいで、こうなってるんです!」
向こうから、皆大好き、『勇者スミレ』さんがやって来た。
「どうして私の名前の前に、勇者って付いているんですか!!」
「そりゃあウィと相談の結果」
「皆の印象に残る、良い名前を出したんだ」
「ウィさんって、昨日は留守番してたでしょ!」
「いやぁ。残念ながら、君が出場するのは、前からの決定事項だったんだなぁ。折角強そうなんだし、それで良かったろ?」
「確かに、大会に出場するまでは良かったです。ええ、事実、昨日はそう言われて仕方がなく出場を決めましたから。ですが今言いたいのは、そこじゃないんです!名前の事ですよ、名前!!どうして勇者なんて要らない名称を、私の名前の前に付けたのかどうかを、聞いているんです!」
そうは言われても。面白そうって以外の理由は存在しないし。
ウィとも相談したけど、無駄に長ったらしい名前より、簡潔かつ分かりやすい名前にしようって事で、スミレの名前の前に、勇者が付く事になった。
それにまあ、勇者である事は事実だし。勇者らしい実績は何一つ無いけど、勇者召喚の儀で呼び出されたんだから、勇者である事は間違いないじゃあないか。だから付いたんだよ。
「ま、良いじゃあないか。勇者なんて称号、欲しくて手に入るものじゃあないんだから。いやぁ。おれも欲しいなぁ、勇者って称号」
「馬鹿にしてますよね」
「いやいや」
「それに勇者って付けたせいで、私が王様の下から逃げ出した、って言うのがバレるじゃないですか!」
「えー。折角その悪いイメージを書き換えようと、この名前でエントリーしたのに?」
「余計な迷惑です」
「ま、試合を楽しんでくれたまえよ。うちの団員達は案外手強いぞ。まあ魔法主体の戦い方をされちゃ、成す術なく負ける欠点持ちだけど。つまりまあ、君の敵じゃあないって事だ」
「どうして私の戦い方を知っているんですか」
「そりゃあ君について調べてる時に、そういった情報も手に入ってるさ。それに君、どう見たって近接戦をするタイプじゃあないじゃん」
「それを言うのなら、団長も近接戦が出来るほど筋肉質じゃないと思うんですけど」
「それはほら、本当に必要な筋肉しかついてないから、細い体系を維持してるんだよ」
まあ、この細い体は、おれの願いの結果だと言えるけど。やっぱ劇なんてする以上、若い体って言うのは、最高だからね。だから願った訳ですよ。若さを維持できるようにしてくれ、って。
「ほら、準備ができたのなら、さっさと控室に向かいますよ。まああそこにいないといけない理由も無いけど」
「こうなるのなら、大会に出なければ良かった」
◇
さーて。初戦はさっきの通り、ウィとだ。初戦から決勝カードの勝負が見れるなんて、お客さんついてんねー。
「すげぇな。初戦だからここの他にあと二か所で試合してんのに。ここに観客の全員が集まっているんじゃあない?」
「やっぱり、俺と団長の試合ってのは、皆から期待されてるんだろ。やー。腕が鳴るなぁ」
一応、闘技場だから、観客席ってのがあって、そこを見ればどのぐらい人気かどうかってのはwかるけど。おれたちの試合は、奇跡かな、ってぐらい人が集まってる。こう、一つの客席に二人~三人ぐらい集まってる感じ。もう全員座ってないよ。子どももいるんだから、せめて子供にはちゃんと座らせてあげろよ。座ったら試合見えないと思うけど。
「ま、せいぜい手加減してくれ」
「ほざけ。だ~れが最強って言われてる団長相手に手加減なんてするか」
まあ、試合は順調におれペースで進んだ。まあいつも通りとだと言えるけど。
ウィは前にも言ったかな?元ランプの魔人。いくら力が制限されているとは言っても、人の願いを三つまでなら何でも叶えてしまうほどの凄腕魔術師。そりゃあ強くないはずない。
けど、魔術師特有の、近接戦は苦手って言う弱点を持っている。まあ言っても、並大抵の者なら、ウィに近接戦を仕掛けたところで、近接戦で敗北するのがオチなんだけどね。
けどおれは、とことん近接戦に強い。馬鹿の思考回路だろうけど、魔術だ遠距離攻撃だなんだかんだ言っても、結局は本体を叩ければ、試合は決する。
だから近接戦が強けりゃ、最強って言っても過言じゃあない。
「うーん。せめて木の枝以外の得物を使わせたいところだけど」
「毎度のことながら、まああああああ、底が見えない魔力量を保有しているようで、末恐ろしいねぇ。まだ本気出してないんじゃあないの?」
「団長こそ、まだまだ本気じゃあないだろ?」
「本気を出したら、闘技場が真っ二つになるわ」
「そりゃあ俺も同じだな。闘技場が地獄絵図になる」
「じゃあ、このまま決着にしようか」
まあ、そういう事だ。おれたちってば、力が強すぎて、本気を出して戦えない。まあ別に、本気を出して戦いたい、とは思わないんだけどね。
「せいっ!!」
「っと、参った。首を斬られるのは御免だ」
「チっ。せっかく良いところだったってのにねぇ」
「団長ってば、やる時は本気で殺ろうとしてくるからな。早めに降参しておかないと、こっちが痛い目を見る」
「そりゃあウィだけさ。お前が強いから、やらないとこっちが負ける。だからだな」
ウィとの戦いの時は、本気ではないとは言っても、ほぼ本気状態で戦えるから楽しいんだよね。
「うーん。じゃ、控えに戻りますかね」
「だな」