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14話 曲芸はお好きですか?

 さ、南の町、ウマナーチに到着した。

 まあ、王都とは違い、しばらく滞在する予定だし、そもそも王都みたく大広場的なのが無いから、飛空艇を止めるのは町の防壁の外側だけど。つまり、演劇を披露する時は、皆町の外に出てきてもらう事になる。ま、言っても、防壁のすぐ近くなら魔獣が湧いて出てくる事ってのはほぼ無いから、結構安全な場所ではある。

 まあ小さい集落だとか村で披露する仕様の劇でも良いけど、やっぱり村とかに合わせて劇も小規模になってしまうから、やっぱり出来るのならば、飛空艇が舞台で演劇をやる方が良い。まあおれたちのエゴみたいなもんだけど。


「じゃ、今日はウィが留守番って事で。頼むぞ」

「お任せあれ」

「団長もそうですけど、ウィさんも普段からおちゃらけてますよね」

「そうですね。あの二人はこう、似てますよね」

「お前ら、買い出し忘れんなよ」

「あ、当たり前じゃないっすか」

「俺達が忘れるとでも??」

「前科持ちなんだよ、てめえら」


 そんな訳で、今からこの町に入る訳だけど。


「それで、ウィもエントリーしておけば良いんだな?」

「任せた。明日だろ、どうせ」

「だろうな。まあ任せておけ。おれが責任もって、お前のぶんもエントリーしておく」


 正直言って、おれが町に入ってやる事って、そんなにない。今日はまだ、明日の闘技大会のエントリーだったり、今夜の演劇の客寄せをするのもあるんだけど、他の奴等よろしく娯楽だったり買い物だったりをするわけじゃあないから、やる事がねえ。


「こりゃ明後日からは飛空艇の留守番かな」

「団長さんも、もっと自分の好きな事見つけたらええのに」

「ロインのように、買い物が好きな訳でも無ければ、あの男たちみたく女さんと遊ぶのが好きって訳でもないからねぇ。それに一番は、この平和な生活に一切関心が無いからねぇ」

「随分と物騒な事言ってるやん」

「ま、これがおれだから」


 基本は、ご存じの通りに、留守番なんて厄介事はやりたくない、ってのが普通だろう。なんたって町でやりたい事が沢山あるらしいからね。おれはそう、言ってしまえば、劇ができればそれでいい。だからそれ以外に関心が無いんだよ。


「ほれ、さっさと行くぞ。時間が勿体ないんだろ」

「そうやった。じゃ、団長。お先に失礼」





 闘技大会の受付は、まあ何てことない。何回もやってるからね。問題ない。


 それで客寄せ。これもまあ、慣れてるからね。何をどうすればいいのかわかってる。そう、一番は珍しい、客の目を引く事をして、通りすがりの人達の足を止めて、そこから今日は劇やるんで、良かったら見に来てくださいねー、的な事を言えば、良い宣伝になる。

 まあけど、こんな事言うのもあれだけど、こんな事しなくても、おれたちはもう立派に有名すぎるほど有名な劇団になっちゃってる。だからこんな事しなくても、一声今日は劇やりますよー、みたいな事を言えば、客は集まるっちゃ集まる。けどまあ、おれが楽しめる客引きの方法でやらせてもらう。

 それは一言で言えば、曲芸。いくら通りすがりの人の目を引く事って言っても、迷惑になる事をやっちゃ意味がない。だから人の迷惑にならず、それでいて興味ある事。やっぱり曲芸しかないだろ。


「わあ、凄い」

「あれって、あの有名なアリーズオーミネスの団長なんじゃ」

「あの人って、劇だけじゃなくて、こんな事も出来るの」

「凄い」


 いやー、有名人で済まない。おれがちょっと曲芸をするだけで、お昼過ぎたぐらいの時間だと子供たちの遊び場になっているであろう広場も、大量の人が集まってくる。

 

 因みに現在やってる曲芸は、平たく言えば、お手玉。詳しく言えば、ナイフ8本によるお手玉だ。ちゃんとこのナイフは、リンゴだとかオレンジだとかかぼちゃだとかをスパッっと切れるほどの切れ味を誇る、ちゃんとしたナイフ。


「じゃあ、そこの君。弧を描くように、こっちに投げてくれ」

「え、ぼく?」

「そう、君だ。そこのナイフを、ゆっくりと、それでいてしっかりとおれに届くように、弧を描くように投げてくれ」


 予備のナイフは6本ある。これ全部合わせて、14本、これら全部使ったお手玉も可能。けどそんなに多くのナイフでのお手玉だと、見ている側に凄いという感想を抱かせる前に、恐怖を抱かせてしまう。興味や関心より、冷や冷やしたり恐怖だったりが勝ってしまう。

 けどこういう、投げ入れたりって言う、参加型にすれば、またちょっと関心が強くなって、更に客は興奮する。


「じゃあ、いくよ」

「いつでもどうぞ」

「えいっ」

「っと、良いね、ナイススロー」


 仕込みでは無いけどね。こういう風に客からランダムで選んで、パフォーマンスに参加させると、その人もそうだけど、見ている側もまた、盛り上がる。人は準備された規則的な事よりも、なんの準備もない不規則的な事の方が興奮する。現に、客は大盛り上がりだ。


「ま、この辺りで良いかな。今日、演劇をします。良かったら是非、来てください。それと君、これ、大切に使ってくれよ。果物を切りやすい、良いものだからね」

「あ、ありがとう」


 こういう時にナイフをあげるのは変だとは思うけど、こう、思い出の一品としては、まあいい代物だおう。それにナイフだって、使い道さえ間違えなければ、とても便利なものだ。貰って損をするようなものではない。


「じゃ、失礼しますねぇ」





「さあさあ、お集まり頂きました、観客の皆々様。どうも有難うございます。今宵演じるのは、『鼠小僧』です。初公演となります故、是非とも見逃さないで頂きたい」


 さっそく、スミレの知恵を生かした劇。なんでも鼠小僧は、大昔に居た義賊だそうで。面白そうだったから演じさせてもらう。


「それではどうか、最後までお楽しみください」


 まあ劇にする以上、色々と脚色させていただくけど。まあスミレの世界の知恵だから、こっちでどれだけ脚色されようが問題無いだろう。





 劇は大成功を収めた。

 人はやっぱり平等ってものに憧れがあるようで、逆に貴族だけが得をするような状況が許せないようで。

 鼠小僧の話が絶妙に皆の生活にも関係が無いとは言い切れないような設定だった事もあって、かなり終わった後の評判が良い。それどころか、『こういう感じの義賊が現れて、傲慢極まった貴族をばしっと懲らしめてくれないかね』ってな感じで、それはもう大成功だったと言える。


「団長さん団長さん、おいらは明日、誰と試合ですかい?」

「まだ決まってないな。まあおれたち以外にエントリーする人が居ないのであれば、案外おれとウィは最初の方で戦う事になるかもしれないな。おれのすぐあとにウィの分をエントリーしたし」


 試合はトーナメント形式で、優勝者には賞金も出たりする。で、出場するにはエントリー料金を払う必要があって、まあそんな大金でもないから、結構一発逆転を狙って出場しようとする人は多い。

 で、トーナメントの決め方だけど、基本はエントリー順で対戦相手が決まっていく。けど一定数以上集まっちゃえば、ランダムで決める。くじ引きだ。それで、しっかりとした事は知らないけど、確か8人ごとだか16人ごとだか忘れたけど、その人数が集まり次第、くじ引きでトーナメントを決める。つまり36人いるとしたら、少なくとも二回くじ引きによるランダム選択、あとの四人は来た順によるトーナメントが決められる。

 で、おれたちがどのぐらいでエントリーできたのかわからないけど、おれたちより後に何人もエントリーしたのなら、すぐに戦う可能性は低くなって、逆におれたちの後にほとんどエントリーする人gあいなかったのなら、おれとウィは初戦で戦ってもおかしくない。つまりはそういう事。


「はぁ。こういうのは、試合前日までが締め切りの時もあって、既にトーナメントがわかってるのもあるだろ?」

「まあ今回はちょっとばかし規模の大きい試合だそうで。ギリギリまで人を集めたいんだろ」

「なるほどねぇ。人数が集まるほど、賭けの種類も増えて、運営の儲けが増える、って訳かぁ。そりゃあ人を集めたいわな。その分エントリー料も貰えるんだし」

「そういう事だ。だから明日のギリギリまで、トーナメントはわからん」


 ま、前日にトーナメントがわかったところで、劇団員以外の人との対戦だったら、対策のしようがないからな。別に今知っている必要はない。


「じゃ、明日を楽しみにしておくか」

「決勝で戦えれば良いけど」

「いやぁ、どうかなぁ?スミレさんも出るらしいし、決勝の前におれたち二人とも、勇者様の前に敗北を期す可能性もあるぜ?」

「ハハハ。そりゃねえわ。スミレはまだまだ勇者として未熟よ。コーヨー達もそうだけど、まだまだ若造だぞ、負けるはずない」

「そうだと良いな」

「だな」


 このあと、笑い合って、笑い疲れ、ちょっと死にかけた。

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