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12話 子供との遊びは案外楽しい

「だんちょー、だんちょー。勝負しようぜ!」

「おれたちとあそべ!」


 朝、まあ朝食を食って二時間程度経ったぐらいの時間。子供たちがおれのもとを訪ねて来た。

 目的は、今さっき言った通り、おれと遊ぶのが目的らしい。まったく、これだから子供は。大人は子供たちが考えているほど、暇を持て余して無いんだよ。それこそ、遊ぶ時間なんて、それはそれは。


「じゃ、ドッジボールをしよう」





 人数は下は7歳で上は12歳までの子供5人。この数だけなら、チーム分けなんて、決まってるじゃあないか。なんたって、丁度偶数だぞ?チーム分けなんて、わかりきってるだろ。

 おれ対子供全員。うん。当たり前だろ。子供相手に大の大人が負けるはずも無くだな。おれ一人でも、楽々にお相手してあげましてよ、レベルで簡単に相手出来る。


「くっそー。当たらないよ」

「魔法をつかうのはずっこいぞ!ひきょうだ、ひきょう」

「良いか?遊びってのは、常に本気でやるからこそ、楽しいんだ。何かに妥協をした瞬間、いくら遊びだろうと面白くなくなってしまうんだ。だから子供のうちから、本気で遊んで、本気で楽しむ方法を知る必要が、君達にはあるんだよ」

「そんなのつごうの良いほうべんだって、ねえちゃん言ってたよ」

「あの子にも教えたはずなんだけどな、この教え。ま、男と違って遊びの楽しみ方が違うからな。何も体を動かせれば楽しいにならないから」


 そもそも自分でも自分の事が分かっていないんだ。いやまあ、それは当たり前の事かも知れないけど、そういう人が、同じ性別の人の相手をするのならばまだしも、いきなり異性、それも子供の世話をするってなると、それはもう手間取った。


 っと、話が逸れた。


「それに、おれは言ったはずだぞ。魔法なりなんなり、自分の持てるすべての力を使ってボールを投げろって。じゃないと魔法を使えるようにならないぞ」

「でも、だんちょーはこうげきに魔法をつかってこないじゃん」

「そりゃ、おれの魔法ってのは攻撃に向いていないからな。相手を誤魔化す為の魔法だ。現に、君達は一度もおれの本体を狙えていないだろ?魔法にはこういう使い方もできるって事。君達の発想次第で、魔法は凶悪な攻撃にもなれば、人を騙すいたずらな魔法にも、自分を守ってくれる強靭な盾にもなってくれるんだ」


 まあおれの魔法は、基本性能として、いたずら大好きな感じの魔法だ。ま、魔獣相手だと囮を簡単に作れるから、普通に重宝してるんだけどね。囮が無くても魔獣を倒せるようにはなってるけど。


「ま、細かい話は抜きにしてもだ。君達が全力で相手しない限り、おれはこうやって飄々と君達が疲れていくのを眺めるだけで終わってしまうよ」

「ふっふーん。たしかにオレたちのふつーの攻撃だとだんちょーには当たらないかもしれないけど。でもオレたちだってとっくんしたんだ!いくらだんちょーといえども、これをくらえばけがじゃすまなぜ」

「どこでそんなセリフを覚えたのやら。ま、攻撃に多様性が出るのなら、なんでも良いや。さ、こい」





「あの、団長。もうじきお昼ご飯なんですけど。何してるんです?」

「ん、見てわかんない?」

「はい、子供相手に大人げなくボールを当ててるって事以外、一切わかりません」


 既にドッジボールは、第五試合に入った。因みに四戦四勝と、見事に快勝している。ま、子供相手に勝っても、嬉しくは無いけど。まあ楽しいから良いんだよ。こういうのは勝敗じゃあなくて、いかに楽しんだのかが重要であって、結局のところは楽しんだもん勝ちだ。まあ大半の人は負けて楽しかったと言えないから、勝ちにこだわる訳だけど。


「いやぁ、楽しいぞ。君もやる?」

「結構です。というか、いつもよりテンション高くないです?」

「おっと、君達、話してる時に狙ってくるとは何事だよ」

「だんちょーのおしえどおり、ゆだんしている隙をねらったまでです!」

「うん、イイね。勝ちに貪欲なのは最高にいい。でも隙を狙ったのなら、それこそ最大最高の一撃をぶちかまさないと勿体ないぞ。せっかく火で勢いを増して、更には取るのを躊躇う熱さを持たせているってのに、魔法を弱めちゃ、格上相手には通用しないぞ」


 うんうん、こういう風に、自分の魔法の活用法を、自分で見つけ出すのは良い事だ。想像力を豊かにしてくれる。


「団長って、こんなに明るい人でしたっけ?」

「それは代わりに俺が説明しよう!」

「え、ウィさん、どこから現れたんです?」

「団長はな。普段は団長として振舞ってはいるものの、あれが素じゃないんだ。簡単に言えば、皆が思う団長って言う像を演じているんだ」

「は、はぁ」

「さらに言えば、彼は成長途中に少々難あって、見た目は少年、思考回路は子供、その強さはバケモノ級と、色々難アリ状態に成長した、訳あり男だ。だから子供と遊んでいるように見えて、実際は自分も子供と一緒に遊んで、一緒に楽しんでいる、ただの子供と同じだよ」

「そうだったんですか。それにしても、団長の事に詳しいんですね。まだここ来て時間はあまり経ってませんけど、これだけ団長に詳しい人って他に居ないような」

「あったり前だ。俺とあいつは、この劇団を始める前の仲だからな。あいつの人生の半分は、俺も同じく見て来た、まああいつには珍しく友人と言う訳さ」

「それだけ長く一緒に居たら、親友って言うような、」

「ま、それは些細な問題さ」


 なんか向こうは会話が盛り上がってる、っと。この幻術での回避も簡単じゃあないんだ。

 一人一人別の幻術を見せて、それに合わせた動きをする必要があるんだ。幸いな事に、見せてる幻術ってのはおれが二人いる、ってだけの簡単な幻術だから、動くのも簡単っちゃあ簡単だけど。いちいちおれ本人の方に攻撃が来たら、世界を騙して幻術の方におれが居た事にして、本来おれが居た方を幻術にするって言う、ちょっとばかし厄介な手順を踏んでいるんだ。子供相手に、みっともなく逃げて躱す場面なんて見せられないし、大人の意地として格好いいところを見せたいじゃあないか。


「ほれ、まだまだ攻撃のチャンスは残ってるよ」

「そっちからこうげきのチャンスをゆずるなんて、こうかいする、ぜっ」

「うーん。風によって超高速でボールを投げ、更には風の暴風壁、風のはいらなかったか。暴風壁のおかげで、普通ならキャッチする事はできない、って寸法か。んー、良いね。良いけど、おれには生憎と、そのレベルだと攻撃にならない」

「ボールが当たるようになったとおもったら、こんどはずっとキャッチされるよ」

「でも、ボールが当たるようになったら、こうげきのチャンスはきっとある!」

「うんうん。諦めずに攻撃を続けなさいよ」


 おれの攻撃は、言ったらまあ、鎌鼬が発生するレベルの攻撃だから。流石に抑えているとは言っても、子供たち相手だと攻撃力としては十分だ。

 だからまあ、子供たちにチャンスを与える為にも、前半戦はこうやって、おれがキャッチしてもすぐに相手にボールを返している。

 本当なら防御、もといボールを受け取る時の魔法の使い方、ってのも覚えて欲しいし、体感してほしいんだけど。それはまあ、攻撃が一流になってから教える事にする。防御は攻撃とは違って、工夫が難しいからな。今はまだ、様々な攻撃方法を見つけ出してもらう、って方が先決だ。


「ところで、これって、ドッジボールです、よね?」

「そうだな。ボールを使って、相手の体にボールを当てて、先に相手チームを全員当てた方が勝ちってルールの、簡単なゲームさ」

「いや、確かに私の知ってるドッジボールでもあるんですけど、私の知らないドッジボールが繰り広げられているんですが」

「ん?……ああ、魔法で攻撃してるからかな。さっきから団長が言ってる通り、これは遊びだけど、歴とした訓練でもある。まああいつの事だ。訓練にも使用されてるってのは知らず、遊びの延長でやってるっぽいけど。まあそこがあいつらしい」

「あの、訓練、ですか?」

「そ。魔法のな。俺達が魔法を使いこなすようになるには、主に二種類の鍛え方がある。優秀な師の下、教えを乞い伝統を継ぐか。はたまたこういう風に、遊びや実践の中で、自らの魔法を生み出すか。まあ魔法を生み出すってよりかは、その使い方を生み出す訳だけど。どっちも似たようなもんさ。で、この二つの違いと言えば、まあ、独自の魔法か伝統の魔法か、ってな違いかな。まあどっちにも良さがあるから、どっちがどうとか言わないけどな」


 うんうん、雷と氷を組み合わせて、放電しっぱなしのボール。氷はボールの周りに針として何本も付いている。


「こりゃ、子供が使うにしては、ちょっとばかし危険すぎるかな?」


 これをおれが受け止めるって考えると、全然良い。おれはそもそも子供たちと魔力の質が違うから、多少なら魔法が当たったって、ちょっと手を切るとか、その程度の怪我で済む。

 けど子供同士でドッジボールだとかで遊んでいて、これを使ったら、ちょっと想像したくない大惨事になりかねない。


「うん。この技は、おれ以外には使わない事、OK?」

「どうして?」

「君の友達が傷つくから。君が傷つける意思がなくとも、魔法には人を傷つける能力も持っている。危険な能力と優秀な能力ってのは紙一重で、なんとも言えないけど。今のは、自分の好きな人や大事な人を傷つける力になる。だからおれ以外の人には使っちゃダメな技だ」

「わかったよ。うーん、せっかく編み出した技だったのに」


 その気持ちは、まあわからんでもないよ。折角自分で考え出した技だってのに、一回しか使わないで、もう使うな、なんて言われたら落ち込むよ。

 それでも、やっぱり危険なものは危険だと知らせるのが大人の役目、って奴だ。嫌われ役を引き受けないとな。


「ま、ああやって独自の思考を思うがままに発揮できる、球技は重宝されているんだな。ボールと言う核があるおかげで、子供でも簡単に魔法を使える。大人でも魔力の消耗を抑えられるから、訓練の時間を引き延ばせる。そりゃあ、訓練に使われるよね」

「確かにそうですね。じゃあ、団長も同じように、こんな風に魔法を覚えたのですか?」

「んー。団長の子供時代は見てないからなー。そこは本人に聞く事だなー」

「……なにか知ってますよね?」

「さー。俺の口からはこれ以上言えないなー。じゃ、おさらば!」

「煙を出して消えた。……忍者?」


 でもまあ、子供たちは純粋だからな。また別の技を思いつくさ。


「団長、さっきの私の話聞いてました?」

「え、ウィと楽しくおしゃべりしてた奴?あれ、二人の会話じゃあなかったのか?おれも参加してたの?」

「そうじゃなくて、もうじきお昼ご飯だって言いましたよね?いい加減遊びはやめて、こっち来てくれます?忙しいんで、配給も」

「あ、そうだったそうだった。じゃあおれは仕事だから、ここで抜けさせてもらうよ」

「勝ち抜けかよー」

「ま、時間があったらまた遊んでやるから。機嫌損ねんなって」

「やくそくだよ!やくそくのやくそくだよ!」


 子供たちは、こういうところは扱いやすくて助かる。


「じゃ、スミレ、行こっか」

「団長が仕切らないでください」

「団長が仕切らないで誰が仕切るって言うんだい」

「少なくとも、配給の時間を忘れて遊んでいた人ではないです」

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