6話 思わぬ放課後デート
読者の皆様、作者の大森林聡史です。
この度は、この小説を気にかけていただきありがとうございます。
よろしければ、内容もお読みいただけると幸いです。
宜しくお願い致します。
「あれ? 西島さん?」
香川に名前を呼ばれた、女の子は、ビクッとして、振り向いた。
彼女の名は、西島奈々美といい、香川のクラスメートだ。
黒い髪が肩まで伸びており、顔が小さく、色白で、眼鏡をかけていた。
身長は159㎝程で、胸は小振りでスカートから伸びる足は、細くて綺麗だった。
特徴的なのは声で、小さくて、細くて、弱々しく、自信が無さそうに聞こえる声だった。
「よ、よく、私って分かったね……」
「そりゃ分かるよ、クラスメートじゃん」
「……」
(わ、私の事知ってる人いたんだ……)
西島は、黙ってしまいうつ向いたが、少し口角が上がっている。
「お、俺、なんか変な事言った?」
「えっ? 違うの……う、嬉しくて」
「そ、そう」
香川からは、西島の笑顔は、ぎこちなくみえた。
「あ……」
「このバス? 俺もなんだ」
「そ、そうなんだ……」
バスが来て、2人は乗り込んだ。
バスに乗ると、2人がけの席が1つ開いているだけだった。
「あそこ、空いてるね、西島さん座りなよ」
「あ、ありがとう。 よ、良かったらあなたも……」
「うん? ありがとう」
西島が窓際、そのとなりに香川が座った。
「……」
「……」
西島は、黙りこくっている。
香川も、黙っていた。
そのまましばらくバスに乗っていた後、西島が口を開いた。
「わ、私って目立たないじゃない?」
「そ、そうかな? おとなしい人だなっては思ってたけど」
「そ、そうだよね……私、いつも1人でいることが多いから、誰も私の事気付いてないって思ってた……」
「さすがにそれは無いと思うよ、俺は知ってるし」
香川は気さくに答えた。
西島は、固い表情が少しだけほころんだ。
「あっ……」
「西島さんもここなんだ?」
「うん……」
2人は、チャイムを押そうと手を伸ばしたのだが、タイミングが同時で手が触れた。
思わず西島は手を引っ込め、香川はそのままチャイムを押し、2人はバスを降りた。
「あれ? 西島さんもこっち?」
「うん……」
2人は、同じ方向に歩き始めた。
その後は、2人は黙って歩いていて、香川が少し早く歩いていた。
「ま、待って!」
「ん?」
西島が、弱々しい声を少しだけ張って呼び止めると、香川は振り返った。
「どうしたの?」
「も、もう少しだけ一緒に帰ってくれないかな……?」
「ああ、いいよ」
香川は優しく答えた。
西島は、少しだけ口角が上がった。
しばらく香川は、西島の歩調に合わせて歩き、沈黙の時間が過ぎていく。
(なんかしゃべった方が良いんかなぁ? けど、西島さんおとなしくて少し話しかけづらいんだよな……)
そんな風に香川が考えていると、西島が急に呟いた。
「ここ……」
「ん?」
「もう少しだけ一緒に……」
「うん? 大丈夫、俺もこの道なんだ」
「そっか……」
西島は、ホッとした様子で表情も和らいでいたのだが、声が細く、夜で暗いため、香川にはそれが分からなかった。
この先の道は、人気が少なく、街灯も少なく、夜は暗くて
怖いと感じやすい道だった。
「じゃ、行こう」
「う、うん……置いてかないでね……」
「置いていかないよ」
香川は、西島に笑って答えた。
(うぅ……やっぱり怖い……)
2人は、この道を歩き始めた。
西島は、瞳の奥が潤んでいた。
だが、香川は気付いていない。
「そうだ!」
「な、何!?……」
「西島さん、俺の後ろ歩きなよ、ゆっくり歩くから、西島さんはただ俺の後についてくればいいよ」
「そ、そうだね、ありがとう……」
香川のすぐ後ろを西島が歩いて行った。
(この人の背中、広い……)
香川は、身長167㎝で足が短く胴長なだけなのだが、普段はコンプレックスなこの体型が、役に立っているのに、気がつかなかった。
「きゃっ!」
「おっ!」
香川は、かなりゆっくり歩いていたが、西島は、いつの間にか、歩くスピードが少し早くなり、香川の背中に顔をぶつけたのだった。
「ご、ごめん……」
「いや、大丈夫」
「も、もう少しだけ早く歩いても大丈夫だよ」
「分かった」
(私ってドジだなぁ……)
西島は、そんな自分にクスッと笑った。
そのまま歩き、やがて、暗い道を通り抜けた。
「……」
暗い道に、車のライトが辺りを照した。
香川には、黙っている西島の表情が綻んでいるように見えた。
「西島さん」
「はい?」
「俺こっちなんだけど、西島さんは?」
「私はあっちなの」
西島は、香川の行く方とは違う道を指した。
「そっか、じゃあここでいいかな?」
「うん、ありがとう」
西島は、ニコッと微笑んだ。
その笑顔は、口角があがり、とても可愛らしかった。
(西島さんってこんな風に笑うのか……)
「じゃあ、また明日学校で」
「うん」
香川は、西島に別れを告げ、去ろうと背中を向けた。
「あ、待って!」
「ん?」
西島は、何かを思い出し呼び止めた。
「あなたの名前……教えてくれないかな?」
「あ、ああ……香川聡示って言うんだ」
「香川くん……ね。 私は西島奈々美」
「うん、もちろん知ってるよ」
「あ、そうなんだありがと……」
「うん、じゃあね」
「うん、今日はありがとう」
香川は、西島に背中を向け帰り道を歩き出した。
(俺、クラスメートに名前も覚えられて無かったのか!? うーん……俺こそ目立たないんじゃ……)
香川は、少しだけショックを受けて、帰り道を歩いた。
西島は、帰り道を歩きはじめたが、すぐに振り返り、香川の背中を見つめ、やがて見えなくなると、帰路についた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
長い文章に、お付き合いいただき、心より感謝申し上げます。