キスツスの花
セミが騒々しく鳴き、いくら胸元のネクタイを緩めてもその体に突き刺す暑さは変わらない。
俺は通い慣れてしまった病院へと向かう。受付の看護師さんにもお見舞いにきたというと見知った顔ということもあり簡単に通してくれた。
その時の俺を見る顔は看護師の顔は少し複雑そうだった。
やはり病院は涼しく、あまりの温度差に外とはまるで異世界のように感じた。そんな下らない事を思いながら長い廊下を右や左と歩き、『309』という部屋番号の前に止まり、一応ノックをする。
「開けるぞ」
返事を待つが、返事がないため勝手に入ることにした。
中はいつもの変わらない白い壁に白いカーテン、白いベット。三十度ぐらいに立てられたベットに寄りかかりながら、彼女はどうやら外の方を眺めていたらしい
歩いて近づくと彼女はゆっくりとこっちを向く
「……」
だが、こっちを向くだけで彼女は何かを言う様子もなかった。俺は近くの椅子に座り一息つく
「なんだ元気そうじゃねぇか。なんだ?なんかあったのか?」
「……」
「いや、声小さすぎ、なに言ってるかわかんねぇ」
と俺は笑い飛ばすとさっきの無表情からやわらく少し怒ったかのような表情する
「あっ、そうだ言われた通りのりんご!お土産つったらリンゴだよね」
と言い、お土産に持ってきたリンゴを取り出す。
「……」
「あはは、やっぱそうだよな!!じゃぁ、ここに置いとくからな」
後ろの所に置こうとすると一つの花瓶が置かれている。中には一輪の綺麗な花が刺されていた。俺はこれを弟切草と知っていた。
こっそりと花瓶から花を取り出して持ってきといた別の花を入れる
その間彼女はすごく優しそうに自分の少し膨れたお腹を優しく撫でる。それを見てるとくるものがあった。
「……頑張ろうな」
俺はギュッと彼女の手を握りしめる。彼女は少しびっくりした様子だったが、彼女は俺の頭を優しく撫で包んでくれた。
「……うん」
彼女から離れると少し寂しそう顔をした気がする
「キス……」
「……あぁ、いいとも」
俺は彼女の首裏に手を回し少し引きつける。
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俺は病院を出て行く。彼女は少し名残惜しそうな顔をしていたが、又来るよっと言い残し病室を後にする。
相変わらず外は暑苦しくセミの鳴き声が耳障りだ。だけど、彼女のため、家族のためにと俺はエンジンをつける。
空はまだ青いままだ。