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#7 血の惨状

やっと話が動きます。

 (あぁ…福間が何か言ってやがる…。ウゼェな。耳障りだ…)



陸はスタンガンの電流を浴びた後も、一応意識はあった。


 しかし心臓に電流を浴びたせいで不整脈を起こし、身体中を激痛が駆け巡る。呼吸しようにも呼吸困難に陥っていたので、息をいくら吸っても肺に酸素が回らない。視界は明暗し、周囲の音も上手く聞き取れない。



 福間が近づいて来て、何かを言って笑った。そして鉄パイプを振り上げるのが見えた。



(あぁ…俺死ぬのか…)



 そう思うと視界がモノクロに染まり、今まであった出来事が次々と思い出された。


(これがよく言う走馬灯ってやつか…。マジで見えるモンなんだな…)


 死する直前に人の新たな神秘を垣間見た陸は、妙に納得してしまった。


(あ〜あ。呆気ないねぇ。俺の人生。あぁ、せめて童貞は捨てときたかったなぁ。…………………………………………………………………………ん?つーか、モテモテステキライフは??フラグ立ちまくりのハーレムは?退屈な日常からの脱出は…?…………………………………………………………………あれ?俺まだ何一つやりたい事やってねぇぞ!!まだ死ねない!!死ねるはず無い!!!何妙に納得してんだ俺!!!馬鹿か!?)


顏を上げると福間が鉄パイプを振り下ろす姿がスローで見えた。


だがその一撃すら霞むモノが福間の右斜め上空にあった。













 昼間に見た化物がいた。




濁った赤い目を陸に真っ直ぐ向けて、静かに見下ろしている。




 陸に福間の一撃が到達するその刹那、化物が福間の背後にいた。










 俺の目に映ったのは、切り飛ばされた福間の肘から先。続いて鮮血。


福間の両腕から吹き出す鮮血が俺の顏を、身体を朱に染めていく。




「あ゛…?」


福間は自分の身に何が起こったのか理解出来ず、肘から先の無い腕を見つめて呆然としていた。


数秒して福間はやっと現状を理解したみたいだ。


「う…ぎゃあああぁぁぁあ!!!!俺の腕があぁあぁぁぁぁ!!!!」


悲痛な叫びを上げる福間。周囲の不良は化物と福間を交互に見て立ちすくんでいる。


福間がバランスを崩して化物の方に倒れ込んだ。


化物は福間の血を見てギチギチと音を立てて口を開いた。




俺には笑っているように見えた。



福間が化物に持たれ掛り、化物は事も無げに福間の首を撫でた。






 福間の頭が胴体と分離し、陸の足元に転がった。涙と涎でベタベタの顏は驚愕の表情で止まっている。







「う゛っ…おぇ゛ぇえぇ……」


 陸は思わず吐いた。血の海に吐瀉物が跳ね、気持ちの悪いマーブル模様を描いていく。







「に…逃げろぉおぉ!!!!!」


不良の誰かがつんざく様な叫びを上げる。各々がバイクへと駆け寄り、その場からの逃亡を試みた。







 陸は化物を見た。化物は逃げようとする不良を見て、羽を広げて中腰になっていた。


ブウゥゥン…と、羽音を立てて飛び立つ。



時速100kmは軽く越えていそうな速度で格納庫の入口に飛び、不良の退路を絶った。


「突っ込め!!!!」






 不良達は化物を撥ねて逃げる気なのだろう、更に速度を上げて化物に突っ込んだ。


 化物はバイクに向かってただ腕を振り回しているだけだ。しかし…




まるで見えない鋭利な刃物で切り裂かれたかの様にバイクや人が切り刻まれていく。血飛沫が飛び散り、バイクが爆発した。


突っ込もうとしていた他の不良はバイクを止めて、ただ呆然とその光景を眺めていた。



(ヤバい…ここにいたら間違いなく殺される!!)



 陸は痛みに軋む身体に鞭を打って鎖を外し、這って積まれたコンテナを目指した。陸の右足は折れていて、あらぬ方向を向いている。窓から逃げる手もあるが、這うことがやっとの陸には難しいだろう。だからせめてこの身だけは隠そうと思ったのだ。



幸い先程のバイクの爆発で起こった煙が、陸が移動しているのを隠してくれている。


(ぐあ…痛ってぇ…)



ズルズルと這う陸の背後でまた大きな爆発音と人の叫び声が聞こえてくる。




 やっとのことでコンテナの陰に隠れた陸は、コンテナとコンテナの間の隙間から息を殺して一連の光景を見ていた。



逃げ惑う不良達。それを見えない何かで引き裂く化物。至近距離でバイクが爆発しても、羽をはばたかせて爆炎を吹き飛ばす。格納庫の入口付近は血の惨状であった。


切り裂かれた首や腕、身体を縦一閃にされている者も。



さっきまで陸を取り囲んでいた不良は全員、化物に殺された。



 陸は込み上げる吐き気を必死に抑えて、化物が取る次の行動を待った。






化物は陸に背を向ける形で立っていた。不良の一人の腕を拾ったが…何をしているかは陸には見えない。




(…ま、まさか…な)









だが陸の予想を裏切るかの様に、ボリン、と何かが折れる音が響いた。そして、クチャクチャと何かを咀嚼する音が…。









 化物は殺した人を喰っていた。


パチパチと爆発の残り火が弾ぜる以外は静寂が支配する空間の中で、ボリボリ、クチャクチャと肉と骨を咀嚼する音だけが響き渡る。



 陸は目を剃らし、喉元まで競り上がるモノを留めようと必死だった。



(今吐いたら気付かれる!!!気付かれたら…死ぬ…!!!!音を立てるな、音を…)


 気付いたら咀嚼する音が止んでいた。


陸が顏を上げ、隙間から向こうを覗き込むと







こちらをハッキリと見据える、口元を血で染めた化物の姿が。







 (ヤ…っバ……!!!)


陸は何故自分の存在が気付かれたか分からなかった。分からなかったが、今すぐ逃げ出さないと死ぬ事だけは理解出来た。



軋む身体を引きずり、少しでもその場から離れようと這った。




 化物はゆっくりと歩きながら陸に迫る。陸が這って逃げる速度より化物が近づいて来る速度の方が速く、陸が5m這う間に化物は陸の隠れていたコンテナの前まで来ていた。







 化物は右腕を大きく横一閃に振り、左脚でコンテナの側面を蹴った。



ガゴオォオォォォォン!!!!!と凄まじい音と共に、陸と化物を隔てていた幾つかのコンテナの上半分が吹き飛ぶ。


耳をつんざく様な音に陸は耳を塞ぎ、反射的に目も瞑った。




 陸は目を開けたが、土煙が立ち込めていて視界はゼロだった。




ブウゥゥン…という羽音と共に視界が晴れ、初めて化物が目の前に立っている事に気付いた。




「あ………な、…んだ…お前…」


恐怖で身体は強ばり、カチカチと歯を鳴らしながらもなんとか声が出せた。







暫く動かなかった化物の口がギチギチと音を立てて開いた。


「我ハ…闇ヨリ出ヅルモノ。ヌシカラ甘キカホリガ漂イテ来タ。久カタブリノ上物ナラバ、喰ラフノハ理ナリ」


「は……ふ…ざっ…けっ…んな!!!!何で…お……俺…が…?」



「ヌシニ罪ラアズ。然レドモ我ラガ糧ハヌシラ人カ、同胞ノミナリ。此モ理ナレバ、イガシカタナシ」


(待て、今コイツは『我等』って言わなかったか!?って事はこんなのがうじゃうじゃいるのか??何でこんなヤバい事がニュースや新聞で報道されてない??)






 陸は直ぐにその理由に思い至った。


(…隠蔽か。そうだよな、こんな事が報道されたら日本はおろか世界中がパニックに陥る可能性もある。政府が絡んでいる可能性もあるな…)




「お前は……一体……」




「会話ハモウ不要。アレ程度デハ我ガ腹ハ満チヌ…」


おそらく福間達の事だろう。



 化物はゆっくりと右腕を上げて、目にも止まらぬ速さで振り下ろした。



(死ぬ…死ぬ、死ぬ死ぬ…死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!?)


(死にたくない!!こんな所で!!!!何か無いのか!?何か………この現状を打破する何かは!!!!)



陸は涙を流しながら、化物の一撃を見据えた。













 陸の頭に化物の死の一撃が到達する瞬間、全ての刻が、止まった。


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