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09 陽だまりの図書館


一方その頃、学院では単調な日常が続いていた。取り立てて目立った事件が起こるわけでもなく、学生は単位を取得するために勉強に励む。


学生が勉強に励む場所は主に学院図書館だ。その一角を常に占領している集団がいた。


「う~ん…」


頭から湯気が出そうな様子でうんうん唸っている彼女、ルイスにエルメスはククッと笑った。

それを聞いたルイスは頬を膨らませたて眉を軽く寄せると「笑わないで下さい~」と言って怒った。

彼女にエルメスは吹き出すように笑うとルイスは「あ~、また笑った~」とそっぽを向く。


そんな二人を見守るように3人の少年が隣のテーブル席に座っている。


彼らは彼らで自分たちの勉強に忙しくしていた。


「そう言えば、今日はプラチナさまを見かけていませんね」


ふわふわの金髪の間から愁いを帯びた眼差しをエルメスに向けながらルイスはぽつりと呟いた。

途端、今まで和やかだった空気がガラリと変わる。


「ルイス、君がプラチナの心配なんてしなくていいんだよ」


エルメスの怒りを圧し殺して無理やり優しい声を出したような、無理を感じさせる声に「でも、プラチナ様はずいぶんショックを受けておられましたし…傷つけてしまったのではないかしら」と返事をする。


「ルイス嬢、貴女も彼女にはずいぶん傷つけられたのだから、気にすることはない」


隣の席の3人のうち、黒髪の少年クリス・ロンバートが切り捨てるように言った。


「クリスの言う通りだな。俺も同感。エルメス殿下に愛されたルイス嬢に嫉妬して…って流れが見える分だけに胸くそ悪い」


「そうそう、ちょっとひどいよね」


クリスの隣に座っている2人、エドワード・シモンとアーノルド・マキシムも顔をしかめて同意した。


「大丈夫だ、お前は俺たちが守ってやる」

「エドワード…でも…」


愁い顔をそのままにルイスは物憂げなため息をついた。

エドワード・シモン、彼は王宮魔術師筆頭であるシモン公爵家の息子だ。

アーノルド・マキシムは騎士団長を代々勤めるマキシム伯爵家の息子。

そして最初に発言したクリス・ロンバートは宰相であるロンバート公爵の息子だった。


上に兄がいる者もいるが、弟である自分こそが殿下の取り巻きだと自負していた。


「でも、私心配だわ。私が以前、みんなに話したこと…覚えている?」


ルイスが眉を寄せてエルメスに上目遣いで見上げた。

その目に光る涙にエルメスはほんの少し顔を赤らめた。


「ああ、覚えているよ。確か君は前世の記憶を持っていて、そこはこことは全く違う異世界。その世界のゲームの中に私達が登場する…だったかな」


事細かにかつて自分が話した内容を説明するエルメスにルイスはそのまま頷いた。


「そのゲームの名前は「神樹の花に忠誠を誓う」と言いまして、乙女が好んで嗜む内容のお話でした。私は全てのシナリオをクリアしました」


しかし、とルイスは言葉を切る。その先の言葉はこの場の誰もが一度は聞いたことがあるため、ルイスが先を続けるのを大人しく待つ。


「いわゆる、メインヒロインと呼ばれる方は神樹の巫女姫であり、ルイス・ガルシアは簡単に言うと悪役令嬢なのです! 長らく巫女姫が不在だったこの国に突然どこからともなく現れるぽっと出の男爵令嬢という設定です。そして巫女不在をいいことに国に入り込み、乱れを生んだとされ、断罪されるのが…私、ルイス・ガルシアの辿る断罪イベントなのです。皆でプラチナ様を追い詰めたあの時、まさにゲームの中では私が巫女姫様の置かれていた立場にありました。そして、その後のスチルで私は世界を放浪するシーンが描かれ、エンドとなるのです!これは単に一つのルートですけど…だから、私は不安なのです!」


さめざめと泣きはじめるルイスの肩にエルメスがそっと手を置く。

そしてポケットから白いハンカチを取り出し、ルイスの目もとを丁寧に拭う。


「ルイス、ああルイス…心配しないで。僕が必ず君を王妃にしてみせる。何だったら、神樹の巫女姫を名乗ればいいじゃないか。君が本物ということになれば、僕らは堂々と結婚できるんだ、ね?」


エルメスの言葉にルイスは目を見開いてまばたきする。


「ああ、それがいい。今やプラチナ様…いや、プラチナには何の権力もないのだから…王宮の一室にでも閉じ込めて鉄格子と鍵で一歩も出られないようにしてしまおう」


アーノルドが爽やかに笑って提案する。


「ただし、その案はエルメス殿下が王位を継いでから…だな」


冷静に発言するクリスにエルメスも「そうだね」と返事をした。

正直、自分には何一つ自由らしい自由はなかった。

皇太子として産まれたその日から学問漬けの日々。

食べたいものも、やりたいことも、何も出来なかった。

好きな子に、好きだと告げることなどもっての他。

瞬く間に国際問題へと発展するのが見えている。


そうまでして得た権力も、結局は神樹の巫女のためにある。


自分は、いつまでも巫女に忠誠を誓う者でなければならないのだ。


(もううんざりだ…僕が王位を継いだら、僕の好きに生きていきたい)


「でも皆さん…不思議です。何故そこまでプラチナ様を排除したいのに殺すという案は出ないの?」


ルイスの一言に誰もがギョッと目を見開く。

アーノルドなど青ざめて唇を震わせていた。


「な、何を言っているの? 巫女姫を殺すなんて、ありえないよ。監禁すれば彼女は好き勝手できないし、衣食住は与えられる…ルイス嬢はまさか、彼女を殺したいの?」


怯えたように言うエドワードにルイスは首を思い切り左右に振る。


「まさか!そんなわけないじゃない…ただ、そうですね、そうする方が自然なのになって。だって、私が巫女になるなら、正統な後継者は邪魔でしょう?」


ルイスの言葉にエルメスは「そこまでだよ、ルイス」と止めた。


「その方が確かに効率はいい。でもそれは、彼女の名前も、姿も忘れ去られた頃合いにもう一度話そうか」


にこりと微笑むエルメスにルイスも「はい、殿下」と頷く。

早く貴方の妻になりたいです、と耳元に囁くと穢れを感じさせない可愛らしい笑みを浮かべた。
















あとがき

私も異世界転生?ってものを書いて見たかったんです。そして、悪役令嬢で「ざまぁ」な展開を書いてみたいと思っていたんです!


しかし、どうもプラチナ目線だけでいくと、うさぎと食べ物とエリックにばかり意識を向けて、王道にはいつまでもたどり着けないと思いました。

そこで、政治、経済、軍事の力を利用した国盗り物語りは上記の方々にまかせてみようと思います。


「国主になりたいものだ」

冒頭のこのセリフしか知りません(汗)

いつか読みたいです。



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