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62 社会人







引っ張られて連れてこられた場所は食堂だった。

プラチナの、と言うよりはセドリックの姿を見た途端、がやがやと煩い中でも視線を向けられてくる。

一人、また一人とスプーンやフォークを持つ手を止めずに、ちらちらと自分達を盗み見ていた。

その中の一人にセドリックが「おい」と声をかける。振り返った男の顔にさすがのプラチナも頬がひきつりそうになった。


「お前の所で面倒を見てやれ」


セドリックはどうやら誰かに命令出来る立場の人間だったらしい。確かに大尉クラスにも面通しされている兵士などいない。

つまりあの大尉は、外部との接触を自分の直属にやらせているということだろう。


一番フレッシュな情報をフレッシュなままで入手できる立場が城門の兵士という見立てだと言いたいのか…。


下っ端になればなるほど、情報そのものである国民に近くなる。


プラチナはそこまで考えると、この組織に潜り込めたことは幸運だったとあらためて思った。


セドリックは後は任せた、とだけ言うとさっさと食堂を出ていく。後には男と自分、周りを囲む男たちだけだ。


「お前、名前は何て言うんだ?」


自分の面倒をこれから見てくれるであろう男に名を問われ、プラチナはにっこり笑う。

文字通りの愛想笑いだ。


「プラチナ・ディアス・エルドラです。よろしくお願いします」


「ぁあん? もっぺん言ってみろ!」


男が名を聞いた途端、額に青筋を浮かべてプラチナの胸元をグッと引き寄せると凄んだ。


「プラチナ・ディアス・エルドラです!」


途端、ストレートで拳が飛んでくる。唇の端が切れて口の中が血生臭い。

どさっ、と床に体を伏せたプラチナに冷ややかな眼差しを向けている。


「神樹の巫女姫様のお名前を軽々しく名乗るとは……不敬にも程がある!!」


「だったらなんだってんだよ!」


売り言葉に買い言葉。

プラチナは口の中に溜まった血反吐を床に向かって吐き捨てて叫んだ。


こんなこと、一ケ月前の自分なら想像すらできなかったことだ。まだ学園で殿下とガルシア嬢相手に馬鹿みたいな嫉妬をしていた。


裏でどんな陰謀が渦巻いていたかも知らず、やれ私は孤独だだの、やれ私には巫女姫としての価値しかないだの、誰にも愛されていない、だの……。


巫女姫じゃなければ、それも青春と、許されただろう。


ただの貴族、ただの平民なら!


こんなことにはなっていなかったはずだ!


「神樹の巫女姫ぇ!? あんなの、ただの……バカ女じゃねえか!!」


「きさまぁ!」


腰のサーベルを引き抜くと激昂に任せて首を薙ごうと振り抜いてくる。

プラチナはその軌道を目に納めながら一歩たりともその場を動かない。

微動だにせず、ただ、自分の首に向かって鉛色の軌道を描く刃を視線の先に捕らえ、睨み付けるようにして見据えていた。


「やめろ!!」


一喝。

あわや首が飛ぶかと思われた、まさにその時だった。食堂に響き渡るほどの声量で叫ぶ声に刃がびたり、と止まる。


「立て」


仲裁に入った男が腕を引いて立たせる。


「お前も、やり過ぎだ。こんなガキ相手に熱くなる奴があるか」

「でも、ブラッドさん! このガキ、巫女姫様を!」


尚も言い募る相手にブラッドと呼ばれた男が嘆息する。プラチナの方を向くと「おい、お前から謝れ」と言った。


「……何故ですか」


ブスッと顔をしかめるが、それにはてんで取りあってもらえない。ただ、一瞥されただけだった。


「何故? 軍だからだ」


それ以上でも以下でもない。


あまりにあっさりした返事にプラチナがグッと言葉を詰まらせる。


不本意だ。不条理だ。不平等だ。


そして、理不尽だ!


「……すいませんでした」


プラチナは言いたい台詞を全て呑み込んで頭を下げた。












あとがき

グリック→ブラッドに変更しました。

どこかで見た名前だと思ったんです(焦)

エリックの一字違いだと後から気付きました


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