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57 出血








エリックさんの先導でとこと歩く。


自分の後ろを歩くサミュエルは油断なく周囲を見渡し、警戒を解くことはない。


どこを歩いたのか、湿地帯に数本原木が生えてきたと思ったら、次第に地面は踏み固められ、鬱蒼とした木々に囲まれた山道になっていた。


歩いてもびちゃびちゃと靴が濡れることはなく、泥が一緒にべっちゃりとくっつくこともない。


しかし、深い木々の奥からどうにも野生の肉食獣が息を殺して隙を伺っているような、そんな気配を感じてプラチナはぞくり、と身を震わせた。


エリックもサミュエルも周囲を警戒している。

出来るだけ存在を悟らせず、静かに山道を立ち去りたいらしく、無言で進む。


プラチナはあまりの緊張感に生唾を飲み込むとエリックの後に続いて歩を進める。


原木のごつごつした樹皮と、くねってジメンカラ隆起した根っこに気がつかなかったのは彼女の経験不足故だ。


冒険者でも騎士でも、ここに生えている原木の根っこは素直とは言えない生え方で旅人の足元を掬ってくるということは常識として分かりきっている。


だから、まさか、プラチナが彼らからすれば常識中の常識として注意していることで、盛大に躓いて、挙げ句転んでしまうとは夢にも思っていなかった。


「きゃうっ!」


変な叫び声を上げておでこへ地面をぶつける。

きゃあっ、と叫ぶ途中で額をぶつけて、うっ!と呻いたというわけだが、プラチナは考えている余裕なんてなかった。


ごぉ…と風を切る音が聞こえたかと思うとプラチナの服に無数の細かい傷が入る。


足を抜こうと足掻けば足掻くほど木の根は足首に食い込んでプラチナを離さない。


半分泣きそうになりながら足をぐいぐいと引っ張るが、根っこが巻き付いている。


自分の前に二人の影が立ち塞がった。

サミュエルがプラチナをぐるりと囲うように線を引く。

風がプラチナ目掛けて吹き荒れたが目の前で金の光がドーム状に広がり、風を蹴散らした。


木々の合間を縫うようにして風が吹き起こり、真空が一筋、エリックの上腕に傷をつける。


その怪我をものともせずにエリックが風の奥に向かって大剣を振り下ろした。


プラチナは二人が戦っている隙に根っこを外そうとダガーの先端でガリガリと削り始めた。


樹液が乳白色に滲み出て、何だが木々に悪さをしているような気分になるが、首をふるふると振って作業に集中する。


この木に悪さをされているのは、自分の方だ。


プラチナが自分を拘束している木の根っこに対して、作業をしている姿を横目で目視すると、エリックはサミュエルに「奥が群れだ!」と叫んだ。


そして、二人木の奥へと足早に駆け抜ける。


そこには風狼と呼ばれる種族が群れを成して、久しぶりの生肉の味を想像してよだれをだらだらとこぼしていた。


ぐるるる、と唸りながら一呼吸ごとに纏う風の威力を強めていく。


ひときわ身体が大きい風狼がだだっ、と駆け寄ると目の前で跳躍する。

エリックの身体二つ分はある高さを飛び上がり、上空から真空の刃を放つ。

当然エリックが気合い一閃、凪ぎ払った。


サミュエルが「ふっ!」と息を吐き、同時に風狼の動きが一瞬止まる。


そこにエリックが駆け抜け、大剣を振り抜いた。


ビュンっ!と風を切る音が響き、狼の首が地面にぼとりと落ちる。

胴体が音を立てて横倒しに倒れ、両方の 切断面から血液が流れ出ていた。


今起きたことは、風狼の群れにとっては想定外だったようだ。何故なら、彼らのボスが出れば大抵の敵は手も足も出ない状態で切り裂かれていたから。


「くーん!」


可愛いとさえ感じる悲鳴を上げると群れは、回れ右をして駆け去っていった。


サミュエルが風狼の遺体を一撫ですると、切断面からだばだばと溢れていた出血がピタリと止まる。


腰に下げている、リネン生地に青い小花が刺繍された小さな巾着袋の口を開けると首をかざす。

吸い込まれるように消えて無くなった。


プラチナは必死に根っこを削り、やっと解放されたときには戦いは終わっていたようだった。


「大丈夫ですか、プラチナさま」

「……はい…ってエリックさん!」


プラチナは駆け寄ると、腕から血をだらだら流すエリックに駆け寄る。

エリックはプラチナに「俺の鞄をとれ」と指示した。


サミュエルは急いで簡易テントを建て、エリックとプラチナを中に入れる。


その間もエリックの腕は血まみれになっていた。


プラチナから受け取った鞄から色々な器具を出していく。

まず、自分の近くに引き寄せたテーブルの上に青緑のシートを敷いた。

その上に個包装された金属のトレイを置く。

中に、プラチナが見たこともない器具が次々と用意されていく。


「よし、準備はこれでいいだろう。プラチナ、俺を縫え」


エリックは当たり前のように、とんでもないことを言い出した。
















あとがき

連日更新が中断してしまい、すみませんでした。


あと、いつか絶対に縫合をプラチナにやらせたかったんですよね。次は縫合を調べて、書いてみたいです。

次話のタイトルは「縫合術」とか、いいと思うんですよね。

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