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45 過去③



模擬剣を握りながらサムはひたすら襲いかかってくる見習い騎士の剣激を弾きかえしていた。


結局、自分はあれから兵士に突き出されてはいない。

あの男の考えなんて読めないし、読みたくもないが、それでも犯罪者にならずに済んでいる。


「オラァ、よそ事考えてんじゃねえよ!」

「うるせえ!」


サムは相手の突きを剣先でいなすと跳ね上げた。体勢を崩してたたらを踏んだところを肉薄し襟首を掴んで投げ飛ばす。


勢いのまま足元に放った剣を掴むと切っ先を喉仏にぴたりと当てた。


「勝負あり、だな」

サムの言葉に悔しそうな顔を歪めて「あー、くそっ!」と吐き捨てる。


「何回やってもお前に勝てない」


緑の髪をかきむしりながら呻く男、スチュワートに嘆息し、首を回した。

第七騎士連隊の見習い騎士であるサムとスチュワートは互いに視線をまじえてにやりとする。


「俺たちが来てからもう一年くらいになるよな…早いもんだ」


スチュワートのしみじみとした語りにサムもうなずく。確かに時が経つのは早い。


あの日、兵士に突き出されるかと思ったが、連れていかれたのは、あの男の執務室だった。


ぴかぴかに磨き上げられたオーク材の机、壁に埋め込まれるようにして配置されている本棚にはびっしりと隙間なく並んでいる。


高さは全く揃っておらず、小さい本の隣に見た限り一番大きい本が並んでいたりする。


執務机の後ろには羊皮紙で出来た一枚紙の地図が壁の地肌を隠すように貼られていた。


それを目にしたとき、サムは世界の形を初めて意識的に捉えることを知った。


自分を連れてきた男は椅子に座るとサムを真正面から見つめる。

正直、周囲の大人たちからそんな眼差しを向けられたことなどなかったために戸惑いが隠せなかった。


「お前は今日から第七連隊預りの見習い騎士にする」

「……は?」


涼しい顔と口調でそう告げてくる男に「勝手に決めるんじゃねえよ!」と叫ぶものの、それも悪くないかもしれない…と心の中で打算も働く。


何しろ自分達兄弟は食うに困っていたのだ。

正直、食えれば何でもいいというのも本音だった。


しかしサムはまだまだ幼い。エリックと離れるのも嫌だし、何より目の前の男から一時以上の施しをうけると思うと嫌だった。


「俺は帰る!」


執務室を出ようと男に背を向ける。一歩、二歩、と進み…急に体に力が入らず膝から崩れる。


指先まで痺れ、身動き一つとれない。

男が机から立ち上がると、仕上げていた書類を手に近づいてきた。


自分の目の前で止まると、黙ってしゃがみこむ。サムの指を摘まむと懐からナイフを取り出し傷つけた。


指先に一滴、ぷくりと赤い血液が浮かび上がり、指先から根元にかけて流れていった。

指と手のひらの関節部分でちょっとだけ溜まると、すぐに流れ落ちていく。


その手を無造作に掴むと血が滲む指先を書類に押しつけた。


「お前は今日から第七連隊預りの見習い騎士にする」


先ほどの言葉を再び繰り返すと、書類をひらひらと振った。そのまま紙の端から溶けるように宙に掻き消える。


「卑怯だぞ!」


わなわなと震えながら床を蹴り飛ばす勢いで立ち上がる。妙な体の痺れはすっかり消えていた。


男は涼しい顔でサムを見下ろすと「生かそうが殺そうが俺の勝手だ」と言った。

サムが尚も言い寄ろうとするのを、呆れ果てた眼差しを向ける。


「お前の命は俺が使うと言ったんだ。俺はお前より強いからな」


「おい!」と扉に向かって声をかけると、外から長身の騎士服に身を包んだ男が入ってきた。


「失礼します、ラズウェル大尉」


男、ラズウェル大尉に敬礼すると、室内を見回す。

ぐるりと視線を向けたところで、サムにぴたりとあてがった。

小さく嘆息し小声で「またですか…」と呟いた。


ぐっと乱暴にサムの腕を取る。

力ずくの対応に、顔を歪めるのも気にしない様子だった。


サムは再び引き摺られるようにして連れていかれたのだった。















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