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43 サムの見たもの


室内はがらんとしており、人の気配はなかった。小屋周辺に乱立する樹木と同じ素材で出来た壁や屋根は長年の使用によるものなのか煤けていた。

木がはまった窓の取っ手部分にうっすら積もった埃が客をどれだけ迎え入れていなかったか物語っている。


暖炉に火をくべると、一瞬、妙な煙が立ち上った。積もったクモの巣や埃、虫の死骸などが燃え上がり、ちりちりと小さな音とともに火の粉になっていった。


埃を巣にして夜露をしのいでいた昆虫たちは、広がる火に巻き込まれては大変とばかりにあわてて暗がりへと消えていく。


暖炉の火が室内を柔らかく照らし、パチンと火の粉がはぜた。


炎の熱が届く距離に3つ並べて寝袋を用意する。プラチナを真ん中にエリックとサミュエルが左右を固める配置にすると、プラチナの肩を軽く揺すって起こした。


「ん…」


まだまだ眠いと言うようにぼんやりと自分を見上げてくる。

そのまま、また自分の膝を枕に眠り始めるプラチナに「風邪をひくぞ」と言うと、無理やりにでも寝袋に押し込んだ。


すぐにすやすやと寝息が聞こえてくる。

エリックはしばらく寝顔を見ていたが、赤い目元に気がつくと手をかざした。


手のひらから仄かな光が漏れる。

手を離すとすでに目元の赤みは引いていた。


「うわ…過保護」


「明日の朝、腫れ上がっちまうだろ。お前がチビの時もよくやってやったじゃねえか」


サムの呆れたような声に返事をしてやると「ふんっ」と拗ねたような鼻息を漏らしていた。

弟は、騎士になってから可愛いげってやつがなくなったんじゃないかと思う。

昔はリンゴをあんなに美味そうに食ってたってのに…。


時が経つのは早いもんだ、としみじみ感慨にふける。いつかプラチナも俺を邪険にする日が来たりするのだろうか…。


自分の傍で何の疑いも持たず、すやすやと寝息を立てる少女が女性になった時のことを思ってちょっと寂しくなった。


鞄からブリキのカップを取り出すと数回揺らす。カップの中の空気が混ざり、琥珀色の液体が縁を舐めた。

ふわふわと湯気を立てる液体、がまの穂茶に懐から取り出した目薬のような容器から一滴、二滴落とす。


たちまちシャイニーの深い香りが漂った。


サムがカップを受け取りながら、美味そうに一口すすった。

同じものを用意してエリックもすする。

しばらく二人とも無言だったが、何回目かの火の粉のはぜる音につられるようにサムが口火を切った。


「まず、魔術師長がやられた」


もともと、神樹を介して魔術は発展した。

しかし、魔術を研究すればするほど、魔術単体で事象の変異…つまり魔術の発動ができないかを知りたくなった、らしい。


魔術師長は、人知れず神樹に頼らない魔術の発生にのめりこんでいった。


表向きは有事の際に、独立した組織として神樹の巫女を守るためだと偽りながら…。


「そんな話が妃殿下の耳に入り、頻繁に出入りするようになったのはもう3年以上前のことだ」


学院の魔術を深めたいと皇太子殿下とともに、よくいらしていた…と呟いた。


そこまで話し、少しの間瞑目する。やがて、思い出すようにぽつりぽつりと語りだした。




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