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42魔法



プラチナを背中に背負って歩けば、すぐにくぅくぅ、と寝息が聞こえてきた。

しれっとした顔で隣を歩くサミュエルに「おい、」と低く声をかける。


「サムお前、何でプラチナのことを言わなかったをんだよ」


その台詞にサミュエル…サムは心外だとばかりに眉を引き上げた。歩くたび、足元の草がさくさくと踏みしめられていく。


「別に説明なら合流してからでいいと思ったから。そっちこそ、知り合いだなんて知らなかったよ」


たしかに、事が事だけに説明は合流後にしようと思うだろう…少なくとも顔を合わせずする話ではない。

自分が同じ立場ならそうする。


「……まあいい。ところでお前、これからどうするつもりだ?」


「あまり考えてないけど、今の王宮はもうダメかな」


至極あっさりと自分が忠誠を誓ったはずの王族を切り捨てる様にさすがのエリックも苦笑いを浮かべる。

これで国王夫妻に騎士の誓いを立て、剣を捧げたというのだから、とんだ不忠者だ。


「今の王宮は皇太子妃殿下と呼ばれる魔女が全権を握ってしまったんだ。俺は本来、巫女姫を幽閉するか…抵抗するなら殺せと命令されてた」


ちら、とエリックに背負われたプラチナに視線を向ける。平和そのものの顔で寝こけている様子に眉をひそめた。

この状況で眠るとか、ちょっと信じられない。


「でも俺は、別に皇太子妃殿下の騎士じゃない。俺は俺のための騎士なんだ。それに巫女姫を塔に幽閉するなら、命までは取られないと思ってたけど…今となってはそれもどうだろうね」


よく考えてみれば、幽閉したらいつでも殺したいときに、殺したいように、殺せる。


塔の中で冷たくなっていても誰も気にしないなら…。


「塔に行ってたら、確実にプラチナは死んでただろうな」


間一髪で今、彼女はここにいる。

エリックは背中にかかる重みと温もりに、ほっと息を吐いた。


追っ手はもう、とっくに放たれているだろう。

どんな奴が来ても、剣の錆にすることはエリックの中で決まっていた。






森の中にある小屋が今日の寝床だ。

この小屋は森で日が暮れた冒険者や旅人の避難小屋でもある。

この世界には、そういった設備があちらこちらに残されていた。

誰がいつ頃発案し、どういうきっかけで実用化に至ったのか定かではないもの。


……言うなれば知識の偏りによる政策のブレから生じた理解に苦しむ産物が点在しているのだ。


知識の偏りとは何か、とは古来より人が追い求めてきたものだ。


時に異世界人、転生者、大賢人など、それぞれの背景に合わせて好きに呼ばれていた彼らも知識を保存することを目的に、各貴族や王族が大切に囲っている。


そうして栄えた国や富を得た貴族は跡を絶たない。


そもそも今の時代でも、無償で宿泊できる場所を作る政治が発生するかと言えば、それは絶対にないと言える。


異世界人以外は。


そんなものがはるか昔に完成していたなんて、異世界とはどんな場所なのだろうと思ってしまう。


エリックが小屋に先に入り、内部に異常はないか、侵入者が紛れていないかチェックする。


その間にサムは木の枝を拾うと小屋をぐるりと囲むように線を引く。

始点と終点が結び合わされて、始まりも終わりもない一本の線が出来た。


「相変わらず、密度の濃い魔方陣だな」


中を見廻り終えたエリックがサムに軽口で喋り出す。


たった一本引いただけの装飾のかけらもない魔法だがそれだけで界を隔てている。

地続きのように見えて、空間が全く異なる異世界だ。

サムが引いた線を見ながら指でなぞって、うん、とうなずく。


「古来、魔法とは、飾らない日常にひっそりとあるものだった。水の流れは音の集合が作り出し、燃え盛る火柱は木の吐息で出来ている。杖を振ったり呪文を唱えたりする魔法は二流、三流だ」


そう言うと、枝に息を吹き掛ける。ぼぅ…と青い炎が燃え上がった。


熱を持たない魔法の炎を枝ごと地面に放ると、油を染み込ませた綿に火が一気にまわるように線に沿って炎が走る。


派手に燃えていた火は次第に落ち着いて、地面をゆらゆらと陽炎が立ち上るにとどまった。


「うん、いい出来だ」


サムは満足そうに頷いて、エリックに続いて小屋に足を踏み入れた。










あとがき

ものすごく眠たいです。

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