04 お金の使い方
エリックの後ろを歩きながら、プラチナはきょろきょろと周囲の景色を見回した。今までは馬車や神殿の階の上からしか見たことのない景色が目の前にある。
どこからか食欲を刺激する匂いが漂ってくると思い鼻と目をやればそこには「焼きたて」と書かれた札が下がったパン屋があった。
「美味しそう」
ぽつりと呟く声をエリックは耳聡く拾って「ぁあ?」と返事をする。
「何だ、パンが食いてえのか?そういや腹が減ったな…おい、行くぞ」
プラチナに声をかけ、エリックはすたすたと店の中に入った。
適当にトレーへパンを並べてレジへ並ぶと、入り口で佇んでいるプラチナにいぶかしむような目を向ける。
「おい、何してやがる。さっさと選んでレジに並べ」
「は、はいっ」
プラチナは見よう見まねでエリックがしたようにトレーにいくつかパンを乗せていく。乗せ終わると急に不安になってエリックの後ろに並んだ。
エリックが会計を済ませると次はプラチナの会計が算出され、合計金額がレジのお姉さんによって提示された。
「640クルです」
「……」
無言で動かないプラチナにいぶかしむようにしながも営業スマイルで「640クルですが…?」と返事をした。
不穏なものを感じてエリックがプラチナの顔をまざまざと見つめる。
ふと、プラチナの銀の髪がふわりと舞い、鮮やかな紫の瞳がエリックを捉えた。
その目は困ったように揺れている。
「…金、ないのか?」
「お金、ですか…何故必要なのですか?」
本気で言っているのが伝わって、エリックは唖然とした。黙ってレジに金を払い、パンを受け取るとプラチナに「来い」と告げて店を出る。
噴水広場のベンチに腰掛けると、紙袋からいくつかパンを取り出した。残りをプラチナに渡してさっさと食べ始める。プラチナも慌てて袋の中からパンを取り出して食べ始めた。
「お前、プラチナだったか。金は触ったことあるか」
前を向いたきり、エリックがぼそりと尋ねた。プラチナはその問いに当たり前のように首を横に振った。
「今まで欲しいものや必要なものはどうやって手に入れていたんだ?」
「欲しいものは…ありませんでした。必要なものでしたら与えられましたが…」
エリックは頭を抱えて呻いた。
どこかで納得している自分もいるのが腹立たしい。
「本当に、根っからの貴族なんだな…」
ため息を吐き出し、エリックは財布から何種類かのコインを取り出す。
「1クルが豆銅貨1枚、10クルが銅貨1枚、100クルが豆銀貨、1000クルが銀貨、10000クル豆金貨、100000クル金貨、1000000クル豆白金、1000000クルで白金貨だ。覚えたか?」
「はい。でも私は、お金がわからないわけではなく、使い方…でしょうか、それが分からないのです」
あーそういうことか…と呟くとエリックは「何かしたい時は、大体金がいる」と答えた。
「エリック様は…」
「あと、その様付けはやめろ。エリックさんでいい」
言いかけて止められた。エリックが苦い顔をしているのを確認し、プラチナは少し慌てた。
彼に見捨てられたら自分は右も左も分からないということくらい分かっている。
「ま、習慣だからな。別に怒ってるわけじゃないぜ。さあ、行くぞ」
「はい、エリックさん」
さっそく教えられた呼び名で呼ぶと、エリックはニヤリと笑い「それでいい」と言った。
あとがき
エリック様→エリックさんへ
慇懃な言葉使い→丁寧語くらいへ




