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03 冒険者ギルド


朝。

身支度を整えたプラチナは城下のギルドにいた。


なに食わぬ顔で受付に並び、ギルド登録の順番を待つ。

受付には猫の獣人が座っていた。


「次の方~」

「はい」


自分の名前を書いた紙を提出する。

すなわち、プラチナ・ディアス・エルドラと。


当然、受付嬢の目が紙を見た瞬間に真ん丸になった。

そして自分を穴のあくほど見つめてくる。


それに少し眉を寄せると、プラチナは「早くして下さい」と促した。


「にゃっ…にゃっ…にゃっ!」


既に「にゃっ」しか言えなくなっているが、そこはプロだった。


呆然としながらも書類を捌き、ギルドカードを発行する。

カードの縁に緑のラインが入っており、真ん中には大きく「F」と書かれていた。


「あちらで、カードの…説明を…ですにゃっ」


すっかり獣人語訛りになった受付嬢に軽く頭を下げた。

カードの説明を受けに人だかりへと向かう。


荒くれ者に混じって大人しくカードと説明職員を見つめた。


「以上が説明になります。質問のある方はいませんか」


お決まりの台詞を口にし、誰も手を挙げずに終わる。

パラパラと人だかりがはけていく流れに従って、プラチナも離れた。


曰く、カードのランクに応じて受理できるクエストも変わってくる。


ランクはクエスト成功に応じてランクアップ試験を受けられる。


Sランクで神樹の神殿のクエストを受けられる

Aランクで王家のクエスト参加資格が得られる

Bランクは各国からのクエスト参加が可能


…あとは上から各役職に応じての参加だ。

ちなみに一般人がクエストを出すと、その対象ランクはどれだけ高くてもEで、普通はFが請け負う。


プラチナは掲示板を覗きこんで首を傾げる。

自分でも受けられそうなクエスト…となると、やはりよろず屋が定期的に出しているという薬草採集だろう。


「よし!」


掲示板の紙を丁寧に剥がし、それを持ってカウンターへ並んだ。


「よう、こんなむさ苦しい場所に王立学院のお嬢ちゃんが何の用だ?」


並んだ後ろから野太い声がかけられる。

振り返ればそこには筋骨たくましいおっさ…お兄さん達が立っていた。


「えっ…と…あの…クエストを」


普段、侍女や侍従越しにしか話をしないし、直接口をきくのは大抵殿下くらいなものだったため、上手い返しが咄嗟に出てこない。


「ぁあん? 声が小さくて聞こえねぇなあ?」


お兄さんが筋骨を震わせて声を張り上げる。

プラチナは訳が分からず眉を八の字に寄せた。


何故なら、みんな自分に話しかける時は跪いて頭を垂れ、季節の挨拶から始めていたからだ。


…こんなに単刀直入な話し方は、初めてだわ。


どう返事をすればいいのか考えあぐねていると、お兄さんが一歩詰めた。


「おぅ、お嬢ちゃんよう、道楽なら他所でやってくれや。ここでしがないクエストなんざやらなくても、生活には困らねえだろ?」


……確かに、困らない。


プラチナは素直に頷いた。

お兄さんが心底うんざりした顔で吐き捨てるように言う。


「薬草採集のFクエストはな、スラムのガキが犯罪に手を染めずにすむように必ず残してあるものだ。無くなりしだい、次のクエストを掲示して絶対に切らさねえようにしている。最低の生活を強いられてる社会的に圧倒的な弱者がその日暮らしとは言え食って寝るだけの金を賄えるようにっていうギルド内で生まれたセーフティネットの一つなんだよ。金持ちの道楽や俺たちの小遣い稼ぎで手を出していいもんじゃねえ。さっさと戻して来やがれ!」


「……申し訳ありません。私が浅慮でしたわ」


聞いてて途中から恥ずかしくなった。

そんな事、知らなかった…何も。


とぼとぼと掲示板に戻ると、元の場所に張り直す。

これがそこまで大切なクエストだったとは、想像もつかなかった。


でも、いつまでもうつむいたままではいられない。

私も、いずれは邪神を討伐する身の上…今はまだ遠いそれを果たせるように日々成長しなければならないのだから。


顔を上げるとたくさんある掲示板のクエストから一つ、自分でも出来そうなものを見つける。


「Fクエスト・隣町への届けもの」


これを手に取ろうとして、プラチナははた…と止まった。

やや急いだ様子で先ほどの男のもとへと近寄る。


「あの、これは大丈夫ですか?」

「ぁあ?」


戸惑ったように声を挙げる男につられるようにして、周囲の男たちから笑い声が上がった。


「エリック、ちゃんと教えてやれよ!」

「お貴族様に手取り足取りよう!」


ぎゃははは、と下品な笑いが響いてプラチナはおろおろする。

何か間違っていたのだろうか。


「あ、あの…エリック…様?」


次の瞬間、ギルド内の隅々まで笑い声が巻き起こった。


「エリック様だとよ~」

「おいおいエリック、いつからてめえ、そんなに偉くなったんだよ?」


周囲のヤジにエリックは「うるせえ!」と怒鳴るとプラチナの持ってきた依頼をひったくった。


突き付けるようにして返すと「大丈夫だ」と返事をする。

プラチナはそれにホッとしてお礼を言った。


「ありがとうございます。これで私、依頼をこなせると思います」


心から安堵するように、へにゃりと笑う。

今だかつて、誰からも傷つけられたことなどないと言わんばかりの、その素直な笑みにエリックはふと胸騒ぎを感じた。


「おい、まさかとは思うが…お前、隣町のヤンバルには行けるよな?」

「いいえ、行けません」


いっそこぎみいいとさえ言えるその返事にエリックは唖然とする。


「じゃあ、どうやって隣町に荷を運ぶつもりだ? この依頼をちゃんと読んだのか? 根の国産のワインを樽で50だぞ。どこでどうやって仕入れて搬送するってんだ? やめとけ、無理だ」


プラチナはクエストをもう一度見直し、エリックの言葉を反芻する。


…ええ、無理。


「で、でしたらこちらはどうですか?」


「Fクエスト・野うさぎの駆除」


エリックにクエストを見せると、彼は私とクエストを見比べて「まあ、これなら何とかなるかもな」と呟く。

エリックが赤い髪の間から見え隠れする新芽のような緑の瞳が細められる。


「私でも出来そうなクエストがあって良かったです。エリック様のおかげですわ」


両手を胸の前で合わせると、ニコニコと笑った。


「…言っとくがまだ達成したわけじゃねえ。大体、あんたのパーティーはどこだ?」


エリックの突然の問いかけにプラチナは首を傾げる。

パーティー?と不思議そうに呟いた。


「………あぁ~クソっ!」


エリックが髪をガシガシとかきむしると、プラチナの手からクエストを奪い受け付けに提出した。


「俺とこいつで受注する。パーティー登録もしてくれ」

「かしこまりました」


えっ?えっ?と声を上げながら話に着いていけないプラチナを置いて手続きが進む。


「パーティー登録が完了しました」


受け付け嬢の冷静な声にエリックが「おら、行くぞ」とプラチナに声をかける。

とことことプラチナはエリックに続いて出ていった。






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