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29 おやすみなさい


お湯に浸かりながら服をすすいで乾燥させる。

熱と風の合わせ技で温風を作り、制服をふんわりさせて脱衣場に置いた。


まだ湯船からあがるには少し早い。

指先に火を灯すと底からかき混ぜるようにして温める。


しばらく追い焚きすると、プラチナはほぅ…と息を吐いて目を閉じた。


満天の星空の下、自然の中で満喫するお風呂は本当に贅沢だと思う。

時折吹き抜ける夜風が火照った顔を冷ましてくれる。


星の数を600ほど数えたころ、プラチナはそろそろお湯からあがろうと思った。


洗っていた時のような寒さは感じない。

身体が芯まで温まって、出てからもほかほかしている。


あらかじめ用意してくれていたのだろう。

寝間着がきれいにたたまれて置いてある。

プラチナは身体の水滴を拭き取ると着替えた。



「お先にお風呂、頂きました」

そう言いながら寝間着にローブを羽織った格好で挨拶する。


夜営の準備は自分が入浴している間に整えたのか、テントの近くで火を焚いている。


魔法の火だ。


木の枝がパチンと音を立ててはぜるたび、火の粉がぱらぱらと舞う。

それは蝶や妖精の姿になって小さな笑い声をあげながら空の彼方へ消えていった。

ときどき変わり種でとんぼの姿になったりもする。


踊り遊ぶ火の粉に照らされてエリックさんが夜闇の中からぼうっと浮かび上がっていた。


「出たか。じゃあ今度は俺が入ってくるからお前はこれを食ってもう寝ろ。自分のテントに薬草を入れるのを忘れるなよ」


言いながら立ち上がると昼間の保存食を懐から出して手渡すと裾についた土汚れを払って、お風呂に入りに行った。


言われた通り乾燥ネットとカップを持ってテントに向かって歩こうとしたが、いかんせん両手が塞がっている。


夜の暗闇は月と星が頼りだ。

昼間と違って今は小さな石ころ一つでさえも転びかねない。


慎重に進むと、テントの入り口にやっとたどりついた。

ファスナーを開けると身体を半分ほどにかがめてごそごそと入っていった。


中は暗くて何も見えない。

プラチナは一旦手に持っている荷物を下に置くと、指先に光を集めてテントの上部に浮かせる。


足元の絨毯に使われている毛羽立った毛足の一本までくっきり見えた。


敷かれた絨毯はごわごわしていて毛羽立ちが目立ち、お世辞にも立派なものではない。

そんなところにさえ、プラチナは無性にワクワクしてしまって大の字で絨毯にゴロンと転がった。


ひとしきり、ゴロゴロと意味もなく右に左に回転すると、ふと冷静さを取り戻して起き上がる。

すっかりくしゃくしゃになってしまった髪の毛を手櫛で整えた。


我ながら子どもじみた振る舞いだったと思う。


プラチナはエリックに見られなくて良かったと、つくづく思った。


気を取り直してテントの中を見回し、奥に丸めて置いてある寝袋を見つける。

開けるとミノムシのようにくるまるタイプの布団があった。


掛け布団と敷き布団に分かれていないタイプの寝具を初めて見た。

不思議な使い方をするなあ、と寝袋をひっくり返したり触ったりしながら、さんざん見回すと下に置く。


テントの骨子に出っ張りを見つけて乾燥ネットをそこに引っかけ、その下に制服と装備をたたんで置いた。


ようやくすっぽり布団の中に足を入れると、もらった保存食でリゾットを作りお腹に入れる。

器をきれいにしてから寝袋にいよいよ入って横になるがまだ眠くない。


つまり、寝るにはまだ早いけれど何かをするにはちょっと遅い時間だった。


迷った結果、ポーチから薬草辞典を取り出すとぱらぱらめくる。


今日教えてもらった薬草はもちろん、目につくページを流すように読んでいく。

挿し絵を眺めるだけでも十分楽しい。


プラチナは眠くなるまで薬草辞典を眺め、気づけばぐっすり眠っていた。











あとがき

初めてのことばかりで興奮しています。体はくたくたに疲れてるのになかなか眠れない状態です。

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