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28 最高の贅沢

エリックはテントを張りながらプラチナに角度や布の張り具合、ピンを留める位置などを教えた。


世の中には便利なマジックアイテムとしての機能を持つテントもあるが高いもので天井知らず、どんなに安くても金貨20枚はする高級品だ。


おいそれと買えるものではない。

また、買う必要も感じてなかった。


プラチナはポーチに調合セットを仕舞うと、ポーションを詰めた試験管をベルトに挟み込む。


枝に吊るされた乾燥ネットをどうしようか、としばらく見上げていると焚き火の用意を始めたエリックが「テントに入れて、明日の朝までそのままだ。一昼夜干すと熟成するからな」と言った。


そろそろ日が傾きかけて、西の空が薔薇色に染まっていた。雲も空も、地平の向こうの山々も、この時ばかりは朱に染まる。


日中に活動していた鳥の一群が鳴きながら空を横切っていった。ねぐらに帰っていく群れの姿に、ふとプラチナは「鳥でさえも帰る場所があるのね…」と呟いた。


思わず口から漏れ出た言葉に、はっと口を押さえる。


そんな自分の声が聞こえなかったか気になって慌ててエリックの方を見ると、彼はテントを建てるのに集中しているようだった。


ほっと息を吐くと、ほぼ出来上がったテントに近づく。


「そっちを引っ張ってくれ」


テントの布を言われた通りに引っ張ってピンとさせると、すかさずエリックが留める。

それを何回か繰り返したあと、きれいな三角テントが2つ出来上がった。


入り口はファスナー式で大人一人しゃがめば入れる大きさだ。

中は絨毯が敷かれていて、この上で寝るのだろう。


少し離れた茂みに見慣れないものがある。


灌木の茂みに隠れるようにして目隠しの壁がそびえており、中には大きな木の桶が置いてある。

手拭いとたらい、石鹸、すのこを敷いた洗い場がついていて凄く寒そうなことを除けば素敵なお風呂だった。


「先に風呂に入っていいぞ」


やや離れた場所から声だけが響くとプラチナは桶に水を張った。

最後に小さい火を指先にまとわせて水にひたす。

そのままくるくると桶の中を指でかき混ぜれば、丁度いい温度のお湯になった。


普段からお風呂の準備はやり慣れている。…完璧だ。


プラチナは服を脱ぐと、水の塊を空中に留めてその中に入れた。

お湯をたらいに一杯すくうと石鹸を入れて溶かし始める。

ある程度溶けて泡立つ石鹸液を作ると、水の塊に注いだ。

指をくるん、と一つ回転させると脱いだ服が入った水も回転を始める。

それを見届けると、プラチナはお湯に手拭いを浸して石鹸をこすりつけ、泡立てた。


ごしごし、ごしごしと身体のすみずみまで洗う。

寒いけれど、だからこそ強くこすってまぎらわせた。


身体を洗ってかけ湯をすると、ちょっとだけ温かくなる。

その勢いで頑張って頭を泡まみれにして洗ってしまった。


すすぎは気持ちいい。

何故なら温かいお湯をかぶれるから。


もう寒い。本当に寒い。


我慢出来なくて身体がきれいになったらすぐにお湯に飛び込んだ。

寒くてたまらなかった身体が解れるように温まって、最高に気持ちが良い。

お湯に浸かりながらふと上を見て、プラチナの目はみるみるうちに見開かれていった。


「うわぁ……凄い」


プラチナと共に同じ空を覗いてみれば、きっと誰もがその感想に頷くことだろう。


あまりの光景に例える言葉が見当たらない。


空には夜を彩る六角座、赤くルビーのように輝く星を真ん中に抱くケンタウルス座、白い星がてんてんと長く続く根っこ座、南には不動の一つ星である神樹の星が瞬いている。


そして、名前も知らない小さな星がすき間を埋めるように輝いて、息を呑むほど綺麗だった。


今は失われた太古の昔、神話の神々を名前に持つ星々が春の夜の主役たちだった。













あとがき

お風呂の中から星を見ると、気持ちいいですよね。

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