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23 恐るべき辞書の性能

王都は東西南北にそれぞれ一つ出入り口がある。


そこでは門衛と呼ばれる番人が日夜番をしていた。その門の一つである南門を出てすぐの草原地帯には薬草の群生地がある。そこを抜けると森林が広がっており、さらに森の奥はモンスターの生息地域にも近い。


エリックは草原にまばらに生えたブナの木の根元に腰を降ろすとプラチナに「薬草を取ってこい」と言った。

木肌に背中を預けると、ごつごつとした感触が伝わってくる。根っこの一部が土から盛り上がるように顔を出していた。

青々と茂る葉も秋になれば色づくのだろうか、そう何とはなしに思うと木陰の中から太陽を見上げた。


日の高さからおおよそ今の時刻を割り出すと、プラチナに視線を向ける。彼女は草原の中ほどまで進むと、いざ薬草採集とばかりにしゃがみこんだがすぐにこちらへ顔を向けてきた。


「エリックさん、私、薬草の見分けがつかないです」と草原の草木に覆い隠された状態で報告するプラチナに座ったままエリックはこくり、と頷いた。


「鞄の中に辞書があるからそれを使え。一緒にかごも出すんだ」


鞄の中を見ても何もないのは経験済みだったが思わず覗きこんでしまう。

見れば今度はちゃんと鞄から辞書がはみ出ていた。本を手に取ると、木の枝を編んで作った背負えるかごが出てくる。


「え、エリックさん! 本が勝手に!あとかごも!」


あんまり驚いたので、目が点だ。


エリックさんはうるさそうに「ああ、そうだろうよ。いいから早く調べろ」と言った。


マジックポーチ、恐るべしだ。

こんな凄いものをくれたエリックさんは凄い!


凄い、凄いと言いながらポーチをひとしきり撫で回すと、さっそく辞書のページをめくった。


最初の口絵のページには、大きめの紙を折り畳んだものが挟み込まれており、広げてみればこの国の地図だった。そこには王都を中心としたヴリクシャ国の地図が載っている。我がヴリクシャ国は綺麗な円形をしており、王都ゴークラはその中心にあってやはり円形をしていた。


その中心から外周に向かって扇形に土地を6つに分け、それぞれの地域を領主が治めている。そして、各領地を「国」と呼んだ。名称が重複しているため、ヴリクシャの外から来た人々が戸惑う部分の一つだ。


それぞれ6つの領地を、根の国、幹の国、枝の国、葉の国、花の国、実の国という。


つまり、根の国ダイティス領とは「ダイテス領主が統治しているヴリクシャ王国の中にある根の国という領地」の意味だ。


初めてそれを聞く外国人の多くは「ワケがわからない」とぼやく。


地図にはここ、ヴリクシャの中心ゴークラの周囲も詳細に載っている。よく見ればそこには小さな文字で数字が書いてあり、辞書のページに該当しているようだった。


自分がいる場所を見つけて書かれているページを開くとそこに生えている植物群が表記されていた。

その中から「薬草」の項目を引くと見開き一ページに一つの薬草が記されていた。


「凄いですね、この辞書」


プラチナがページをめくりながら目を輝かせて言った。


エリックは「それもマジックアイテムだからな。書き込んだり紙の切れ端をはったり、付箋をつけて本を閉じると次に開けた時は情報が付け加えられたものになる。ついでにたとえ走り書きであろうと校正し、内容を深めるためのリンク機能もついた自動追記型薬草辞典だ。もちろん自分で付け加えた情報と元から書いてある情報は一目でわかるように色別に記される。使えば使うほど知識と理解が深まるようになっている俺の愛用しているシリーズだ。この出版社は辞書の革命を果たしたとも言われているからな」と一気に説明してくれた。


…驚くほど饒舌に語るエリックは、よほどこの辞書を愛用しているらしい。


そんな素晴らしい本をもらえたことにプラチナは幸せを感じてクスクス笑った。


「本当にありがとうございます。私、これで頑張ります!」


よしっ!と気合いを入れ、辞書を片手に薬草を探しはじめる。


最初は本と現物を見比べて首をひねっていたプラチナも、やがてすいすいと採集できるようになってきた。

数時間後、かご一杯に摘んだ薬草がプラチナの手元にはあった。


「よし、かごを持って一度こっちに来い」


木の根元でプラチナの作業を見ていたエリックが声をかけた。











あとがき

国名なんかはサンスクリットです。異世界な感じで昔から好きでした。

ハイパーな辞書を貰ってプラチナは喜んでます。私も欲しいです。


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