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21 パーティーはマリネと共に

憂鬱な夜会のためにパーティードレスに着替える。淡いクリーム色のドレスを身にまとい、瞳の色に合わせたアメジストの装飾品を首と耳につけて、黒のエナメルが輝くヒールの靴をはく。


髪をまとめてアップにすると真珠を散りばめたリーフつきのヘッドドレスを装着した。ほんのり化粧をして、姿見を覗きこむ。


そこには綺麗に着飾った、全然楽しそうに見えないお嬢様がぽつねんと立っているだけだった。


こうなると、早く明日が来ないものかと待ち遠しくなる。しかし、学院生活で単位を取ることはプラチナの義務だ。出席したくもない夜会に出るのも。


自分がやらなければならないことから逃げてギルドに行っても、自分は誰からも認められないだろう。

ここで挫けて引きこもったりしたら、絶対エリックは怒るはずだ。


姿見の隣にたたんでおいた冒険者の装備に視線を向けると、唇をきゅっと引き結び、頑張れ!と自分に激励を飛ばした。


プラチナはもう一度装備を確認する。自分にはまだまだ重たいだけのロングソードをいつの日か使いこなせるのだろうか。


ほんの少し不安がよぎるが今はエリックを信頼して筋トレに励むべきだと気持ちを入れ替える。彼女が自分の部屋に戻りしだいやったことは、やはりノルマの筋トレだった。


朝は結局、30回しか出来なかったのだ。しかしエリックはそれを3セットこなせと言っていた。つまり、あと60回ずつ残っていることになる。


プラチナは取るもの取り敢えず腕立て伏せから始め、日中のうちに何とか1セット終わらせた。


軽く昼食を食べて昼休憩をはさむ。装備を着込んで動いたのはそんなに多くないが少し自分に馴染んできたような気がする。


それは単なる気のせいだということは分かっていたが、革の匂いに混ざって自分が使うソープがほのかに香ってくるのは嬉しかった。


これから毎日装備して、早く自分のものにしたい。


プラチナは冒険者の姿のままで部屋の一角に据え付けられたテーブルへ優雅に腰を降ろすと、セルフ給仕をしてカップにハーブティーを注いだ。

お茶はアーサーから貰ったものを早速使う。



あの時、あの家で味わったあのお茶が飲みたかった。


セルフで用意した焼き菓子を一口つまむと口元を綻ばせる。我ながら焼き加減は絶妙でよく出来た方だと思う。

たっぷり3杯のアフタヌーンティーを楽しんだ後、ぐぅ~っと伸びをする。そしてプラチナは、いよいよ本日最後の筋トレに挑むのだった。





筋トレ後、当然セルフで入浴準備を済ませ、衣服を脱いでひやりとした浴場に入る。タイル張りの床と同じ広さ分は優にある浴室で身体を洗うと、クリームのような滑らかな泡が身を包み、幸せな気持ちにさせてくれた。


泡を落として湯船につかると疲れた身体を癒してくれる。

今日は塔周辺に咲き誇る深紅の薔薇の花弁をたっぷり湯に浮かべてみた。一つ一つ手摘みしたプラチナ特製薔薇風呂だった。

薔薇の香りに包まれて、プラチナはつかの間の幸せを享受した。







楽しい時間は終わり。

さあ、戦場だ…。


プラチナは心中とは裏腹に全く気負いのない様子で会場へと足を踏み入れる。誰もがその姿に道を開けた。


しかし、開けられた道の先には殿下とルイス嬢が仲睦まじく踊っている。

自分はそっと息をついて壁際へと下がった。


仕方がないので壁際にセッティングされたフードコートへと歩み寄る。すかさずバーテンがウェルカムドリンクを手渡してきたため、素直にそれを受け取った。


「プラチナさまよ」

「今日もお美しいわ」


ひそひそと潜められた声がそこかしこで聞こえてくる。当然、午前中に起きた事件についても噂になっていた。


いわく、プラチナさまは嫉妬深いため愛し合う二人を引き裂こうとしている…とか。


または、その地位を利用してルイス嬢を亡きものにしようと企んでいる、とか。


既に父親である男爵に圧力をかけて、二人を別れさせようとした後だ、とか。


よくもここまで根も葉もない噂話で盛り上がれるものだと呆れながらタイのマリネを盛り付ける。グリーンがかったオイルの照りとツンと鼻を刺激するビネガーの香りに主役の鮮魚が光り輝く一品だ。


無言でフォークを突き刺すと品よく口元へと運び、ぱくりと食べた。口一杯に広がる魚の旨みに舌鼓を打つ。同時に広がるレモーネの香りがこの料理の地域性を演出していた。


(う~ん…美味)


先付けにぴったりの爽やかな味わいにプラチナは幸せを感じた。

この調子で自分の噂をつまみに料理を制覇していこう、と決意する。


楽団が威信をかけて響かせるワルツに合わせて二人がくるくると踊っていた。

曲目が変わる度、パチパチと上品に拍手の音が響く。二人はそのたびに幸せそうに微笑みあって、周囲の生徒も拍手で祝福を贈る。


この夜会は、二人のお披露目を目的とした婚約成立の祝賀会としての側面をあわせ持つものだと今さらながら思い知らされた。


プラチナも微笑みを浮かべながら拍手で二人の未来を祝福する。


それが神樹の巫女姫に求められる役割だから。


(さ、料理をもっと食べましょう)


一見やけくそに見えるプラチナのこの選択は決して間違いではない。

これから毎日筋トレに励み、いずれは激しい戦闘にも従事していくのだから…。


(さあ、食べるわよ!)


巫女姫様は皿を片手に肉体作りにいそしむことにしたのだった。













あとがき

冒険者は身体が資本です。

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