16 プラチナの装備
確かに私は、エリックさんに追い付くと他ならぬエリックさん本人に誓った。そのために必要とされるであろう、いかなる努力をも惜しむつもりなど毛頭ない。
いつか来るその日まで、日々のたゆまぬ努力を積み重ね精進に次ぐ精進を怠りなく継続していくつもりだ。
でも…ここは、負けられないのだ!
今、プラチナの前に色とりどりの布があった。
「私が選んでいいですか!」
プラチナは精一杯の声を張り上げたのだった。
目抜通りにある鍛冶屋に二人はいた。冒険者御用達の廉価なものから騎士の装備まである程度のものは揃う。
プラチナの前には数々の鋼鉄の塊が並んでいる。どれも大した装飾などない武骨な鋼だ。その中からエリックは自分が腰から下げているタイプの剣を選んでプラチナに手渡した。
ずしっ…と腕に響く重さにぷるぷる震えながら両手で抱える。それを見たエリックが片手でひょいと取り上げて鞘から刀身を抜く。光にかざしながら鋼の照り返しと鋭い刃先にニヤリと笑いながら「こいつを貰おう」と言った。
次にやはり装飾など施されてもいない武骨なダガーを並べる。エリックは今度は丁寧に一本ずつ手に取ると念入りに選ぶ。
何本もある中から一本を選ぶと「これも10ほどもらう」と言った。
最初に選んだ剣…ロングソードをプラチナの背中に背負わせる。そして腰に革ベルトを巻きつけると10本のダガーを吊っていった。
プラチナは装備のせいでぷるぷる震えながらもしっかり立つ。その姿に満足したのかエリックは防具を選び出した。
ああでもない、こうでもないと話す単語にはプラチナの聞き覚えのある言葉もチラホラ出てくる。
「俺としちゃ、ドラゴンのブレスにも余裕で耐えられるミスリル製の防具なんかがあればいいと思っているんだが」
「お前、馬鹿じゃないのか」
店主の冷静な突っ込みに案外真面目な顔でエリックは首を横に振った。
「いやいや、半分くらいは本気だ。こいつは歩く無防備みたいな奴でな、おやじさんの最高傑作が欲しいくらいだぜ」と言いながらプラチナをちらりと横目で見た。道端のスライム一匹にも余裕で負けるか、辛勝する様子が目に浮かぶ。
エリックはスライムにぷにぷに跳ね回られながら泣きべそをかいているプラチナを当然のように想像できてしまい、思わずこめかみをぐっと押した。
「まあ、嬢ちゃんにはこの辺りが妥当だろう」
おやじさんと呼ばれた店主が店の片隅で埃をかぶって陳列されていた防具の一つを引っ張りだす。
なめした革で作られたレザーアーマーだった。
「まあ、仕方ないか。よしプラチナ、これを着けてみろ」
さっき装備した剣とダガーを外すと、つき出された革の防具を装着する。なかなかしっくりくる着心地に、体をよじって見回した。
壁際に立て掛けられた全身映る姿見を覗きこむと、いよいよ冒険者らしくなってきたと思って嬉しくなる。
一緒に武器も先ほどの見よう見真似で装備するとさすがに全身にずしっと来た。仕上げとばかりに昨日エリックさんから渡されたローブを羽織る。
「よし、まあ…弱そうなのは変わらんが、それなりにはなったな」
エリックさんが頭の先から足先まで全身じっくり見て、頷いた。
「じゃあ、今度はお前の長けに合うローブを身繕うか」
いつまでも俺のを着てるわけにもいかんだろう、と口にして厚手のローブの中から選び始めた。
「装備はしっかりさせたいが、さすがに年頃の女の子に枯れた色はちょっとな…あまり派手なものも困るが」
「こいつなんかは嬢ちゃんにはいいんじゃねえのか?」
二人であれこれと意見を交わしながらプラチナを見ては布を当てていく。
しかし、プラチナにだって意見というものがある。
「私が選んでもいいですか?」
その道のプロを二人も相手どっての発言にちょっと緊張する。しかし、ここで引くわけにはいかない。
そして冒頭に戻る。
「私が選びます!」
エリックと店主をおしのけて、たくさんのローブが並べられている前に立つ。ある程度の選別が二人により終わっていたものの、10枚以上残っていた。
ラベンダー色、クリーム色、煉瓦色、若草色、水色、他の物から少し離れた場所にあるのは黒に縁が金糸と銀糸で軽く装飾された、ちょっとだけ豪華なものだったりして、種類は豊富だ。
「……どれもいいですね。ですが、私が一番着たいローブは、これです!」
プラチナは何も手に持たず、バッと両手を広げた。
エリックが「ぁあ?」と眉を寄せ、店主が「あっはっは! こりゃ懐かれたもんだな、エリック!」と豪快に笑う。
「じゃあ、嬢ちゃんは今着てるエリックの汗臭いローブをそのまま着りゃあいい。俺だったら金積まれたってお断りだがな!」
豪快に笑いながら言う店主に、エリックが「…くそ」とぼやいた。
あとがき
プラチナは楽しいですが、エリックはローブを取られてちょっと機嫌が悪いです。ところどころほつれて、よごれも染みこんでいますが、実はエリックが初めて冒険者になった時からずっと大事に使っているものなので。
この設定、どこかで使いたいです。




