14 ご飯の前に
ギルドで金を受けとると、エリックはロビーで全額プラチナに渡した。
「数えてみろ」
豆金貨3枚の報酬からギルドに手数料を1割取られる。プラチナの手には豆金貨2枚と銀貨7枚が握られていた。
「ギルドを介したクエストに従事した者は手数料として必ずその1割をギルドに支払わなければならない、ギルド規定第2項に記されているものだ。これは報酬がどんなに安くても高くても関係なく1割だからな、覚えておけ」
エリックが手のひらを出してプラチナから金を取り上げた。素直に手渡すプラチナに再びエリックが新芽のような瞳をすがめる。
「金を渡すように要求されたら、必ず抵抗の意思を示せ。何故渡す必要があるのか、自分が管理したいから嫌だ、これは自分の金だ…言い方は色々あるが、要求されたことを素直に聞くんじゃない。金と…体に関しては特に注意しろ」
エリックには、阿保のように素直なプラチナが悪党に言葉巧みに誘導されて、逃げ道を全て塞がれた挙げ句に変態に売られたり、もてあそばれたりする未来が見えるようだった。
そんな事にならないよう、一つ一つを丁寧に教えていく。エリックにとって、もはやプラチナは弟子のようなものだった。
自分の言葉一つ一つに対し、理解しようと考え、頷く姿には少なからず好感が持てるが。
エリックが今まで付き合ってきた連中とは全く別種の生き物に見えてくる。
「じゃあ、そこで何か食うぞ」
ホールにいくつか置いてある簡素なテーブル席を指してエリックが向かう。差し向かいで座ると適当にメニューから選ぶ。
「あらエリックじゃない。ここで食べてくの珍しいわね」
ギルド酒場の看板娘ベティが艶やかな黒髪を揺らして近づいてくる。ウェイトレスの体型をくっきりと視覚化させる服は、なんというか、胸元が涼しげだった。
「今日はちょっと食っていこうと思ってな。これを頼む」
「注文、うけたまわりました(はぁと)」と語尾に話してもいない記号が付きそうなくらいの甘えた声で返事をすると、何と! エリックにしなだれかかった。
「ねえ、エリック…この後はヒマ?」
エリックは何ともないような顔で「まあ、ヒマだな」と答える。
「じゃあさ、今夜久々にゆっくり飲まない?」
甘い女性の声が頭の中にざらりと響く。プラチナは眉間に皺を寄せて女性を睨んだ。
「注文したんですから、早く持ってきてもらっていいです?」
きっ!と睨みながらツンツンした声で言うと、ウェイトレスの女の人はちらりと視線を向けてきた。そして、ふふ…と艶っぽい笑みを浮かべて見せると「可愛いわねえ…嫉妬しちゃったのかしら?お嬢様?」と言う。
「嫉妬って何のことですか?私は、早くご飯を食べたいだけです!」
ムキになって言い返すと、エリックの肩にしなだれかかったまま女の人は「何だったらお嬢様も一緒にどう?お姉さんが色々教えてあげるわよ…イロイロね」
ふふっ…と笑ってエリックのシャツに手のひらを這わせると赤い唇の間から濡れた舌をちろりと見せた。
そのまま見せつけるように、ゆっくり自分の唇に舌を這わせる。
プラチナの顔がみるみる真っ赤に染まり、「な、何を、」と声にならない言葉が唇から漏れ出た。
「おいベティ、あんまりからかってやるな。こいつは純粋培養なんだ」
ベティの手を取るとやんわり自分から引き離す。乱れたシャツのボタンを開けると、ふぅ…と息を吐いた。
「あら、つれないわね。残念だわ」
口で言うほど残念でもなさそうに言うと、エリックの耳元に顔を寄せて「またね、」と息を吹きかけた。
エリックのテーブルを離れた途端、あちこちのテーブルからベティを呼ぶ男たちの声が聞こえてきた。
プラチナは最後の最後まで色気を放つベティの存在に顔が真っ赤なままだ。ベティはと言うと、あちらのテーブル、こちらのテーブルで愛想と色気を振り撒いている。
「ま、良くも悪くもこの界隈の酒場なんてこんなもんだ」
さっさと慣れろ、と素っ気なく言い放つエリックにプラチナはとりあえず水を一杯飲み干した。
あとがき
色気を書くのは難しいですね。




