13 晩飯は奢り
辻馬車に揺られて王都に戻った二人は馬車待合の人混みを抜けてから舗装された目抜通りを進む。
まずはギルドにクエスト終了を報告しなければならない。
王都は正円形をしており、中央には神樹の神殿、隣に王宮が建っている。
神殿敷地内には信者であれば誰でも入れるが、奥の院と呼ばれる場所へと続く一本道には厳重に鉄の大扉で閉ざされている。
そこは交代制で5名の騎士が常駐していた。
一人一人が神樹とその巫女に忠誠を誓った聖騎士であり、彼らこそが神殿の私的に有した武力と言える。
その数は100名ほど。軍部の総数が近衛、指揮官合わせても3万前後であることを考えると、巫女の国における重要性に比べて極端に少ないものだった。
だが、軍部の忠誠の先にある王家こそが神樹とその巫女に忠誠を誓った存在であるため、全く問題なく運営されてきたという歴史がある。
聖騎士の人数が100名だろうと0名だろうといざとなれば軍部は全て巫女の力になるのだから、同じことだというのが現在まで続いている伝統だった。
「だけどそれはちょっとまずいんじゃねえか、っていうのが今の状況なわけだ」
奥の院の聖騎士たちは確かに強い。100人いれば民間人の侵入なぞ絶対に許さないほどには。
プラチナはエリックの言葉に頷く。
平日とは言え通りはいつも人混みでごった返している。
時々ぶつかりそうになる人混みからプラチナを引き寄せ、激突を防ぐと「ありがとうございます、エリックさん」と言われた。
それに対してエリックはぶっきらぼうに「別に礼を言われることじゃねえよ…前を見て歩け、前を見て」と返す。
するとプラチナは照れ臭そうに「はは…」と笑った。
「大体、今までは洗脳がしっかり効いて誰も巫女に手を出そうって奴はいなかった。だがそこに婚約破棄する王子様が現れたわけだろ?どうもおかしな話じゃねえか」と言った。
プラチナも考えこむように唸ると「…もしかして」と言った。
「邪神の力が働いているのかもしれません」
まじめな顔で唸るプラチナの台詞にエリックもまた、目を見開く。
「お前…邪神って…ふっ…ふはははははっ」
次の瞬間、腹を抱えて爆笑しているエリックの姿がそこにはあった。それを見てプラチナはむぅ…と眉を寄せる。
涙を拭いながら「悪い悪い、ただお前があんまり真面目腐って冗談言うもんだからよ」あんまりむくれるなよ、と頬を引っ張った。
「でもお前、邪神はねえよ。あれは神殿が作った神樹の書に出てくる創世記の神じゃねえか。まだこの世界に神樹も巫女もなく、ただ一柱のみあった…から続くおとぎ話の存在だろ。それがこんな所にほいほい干渉なんかするもんかよ」と言った。
しかし、それにしたってプラチナは納得できない。
神樹の洗脳は、洗脳と呼んでいるがその性質は祝福なのだ。
神樹とその巫女を守るように存在するということは、すなわち自分たちの立っている地面を守るということ。
大気を、水を、大地を、風を、火を、星を…命を守るということ。文字通り、自分を守ること。自分自身を守るためにある加護に近い働きが、そう簡単に失われるとは考えにくい。
「だいたい、私は一番最初に当代様より邪神討伐の命を受けたって言いましたよね?」と食い下がる。
しかしエリックはてんで相手にしてくれなかった。
「そう聞いたけどよ…でもよく考えると、お前が討伐ってのも無理があるよな」と言った。
だってお前、うさぎ一匹狩れないんだぜ?と続ける。
エリックは言ったついでとばかりにプラチナのおでこを指でビシッと弾いた。
手加減されているのが丸わかりの、全然痛くないやつだった。
無性に腹が立ってきて、おでこを両手で押さえると唇を尖らせる。
確かに…確かに自分は弱い。弱いどころか最弱の部類だ。しかし、当代様からの討伐依頼まで疑われるなんて、あんまりだ。
「じゃあ、エリックさんは何が原因だと思うんですか?」じっとりした目つきで上目遣いに睨みつつプラチナは尋ねる。
「ぁあ? そりゃお前、権力を実際に握りたい奴が現れたんだろ。今までだと、どこまでいっても巫女の犬だからな」
権力なんざ、そんなもんだ…と呟くエリックにプラチナは尚も食い下がる。
「それにしたっておかしいじゃないですか。みんな、今まではエリックさんの言い方で言うところの巫女の犬で満足していたんですよ。婚約破棄するんじゃなくて、された巫女姫なんて前代未聞なんですから!」
エリックは顔を真っ赤にして噛みつくプラチナをいっそ憐れみの目で見ると、その頭をわしゃわしゃと乱暴に撫でた。
「…本当になぁ? そうだよな…? 納得出来ないのも無理ないぜ。大丈夫、お前は十分可愛いさ」
どうやら婚約破棄されたことに深いショックを受けた結果、訳の分からない理由をでっち上げてごねている………と思われているらしい。
「だからそうじゃないんですって!」とプラチナは吠えるがエリックは一人で納得したようにうんうん、と頷いた。
「よし、今日の晩飯はお兄さんの奢りだ!お前のことだからな、旨いメシでも食ったらあっという間に吹っ切れるさ」と慰めてるのか貶してるのか分からないセリフを吐いた。
そんな話をしている間にギルドの看板が揺れている入り口につく。
「まずはギルドで金を受けとるぞ」と言って中に入っていく。
これ以上の話は無理だと悟ってプラチナは深い溜め息を吐いた。
あとがき
とてつもなく眠いです。
あと、話が矛盾していたので加筆修正しました。




