護衛と調査
―――水無月 3ノ日 水魂日 午後2時01分―――
アレス達が浴場から脱衣場に戻ると、3人のメイドがそれぞれの服を持って立っていた
その服を受け取り着たが、つい先ほど脱いだにも関わらずまるで洗いたての状態だった
どうやら『洗濯乾魂機』で瞬時に洗い瞬時に乾かしたらしいのだが、3人が住んでいた所にそもそもそんなハイテクな『魂機』が無く、いまいちピンと来ない状態で脱衣場を後にした
脱衣場を出てミーシャ達が出てくるのを待つこと数分…なぜかグッタリとしたミーシャとスイ、そして真っ赤にして恥ずかしそうな顔をしているイェロンが女湯から出てきた
何があったのかジンビスが尋ねるが、イェロンは何も言わなかった
ミーシャやスイは逆に『凄かった…』と言うだけで、他に何も言わなかった
アレス達6人はゴルトに言われていた『第4客室』に向かい、そこでゴルトを待つ事にした
そして数十分後、『ハッハッハッ!』という言葉と共にゴルトがやって来た――
「…『護衛』…?」
シードが尋ねる
「その通りだ! 君達にやって欲しい『任務』…その1つが『護衛任務』だ!」
「『護衛任務』…私達がゴルトさんを守るってことですね?」
「ミーシャ君の言う通り、リプスや騎士団と共に我を護衛する…この『ラシシェル』から『オルヒトグス』までの間をな!」
「…もしかして…先ほどの『合同会議』のため…ですか?」
「なかなか鋭いではないかスイ君! 今回の『合同会議』は『オルヒトグス』で行われる! そこまで行く道中の護衛を頼みたい!」
「ですがゴルトさん…そもそも『護衛』が必要なんでしょうか?」
「イェロン君…残念ながら必要なのだ! 今しがた説明した『第二大陸の情勢』…そして『合同会議について』… この『合同会議』が円滑に進めば良いのだが、我々『レオンライト』に対して『敵意』を持つ者がやはり居るのだ… そんな彼等にとって、他領域内に怨敵が来るという状況は絶好のシチュエーションだろう! つまり…移動中は我の命が狙われるのだ! そこで君達には我の『護衛』を頼みたいのだ!」
「めんどくせーな…そんな事のために俺達を出したってか?」
「ハッハッハッ! ジンビス君、面倒ではあるが当然君達にはある程度の『自由』を約束しよう! …護衛開始まで牢屋で過ごしたければ断ってもいいのだが?」
「なんでもいいさ! 俺達にまかせてくれ! 絶対守ってみせるぜ!」
「アレス君は実に頼もしいな! 我の命…君に託そうではないか!」
「……」
「どうしたシード君? 随分と静かではないか?」
「……つまり、『護衛任務』はあの『犯罪者達』にもやらせるって事か?」
「…ほう…!」
ゴルトはシードに対して感心する
それはシードが『純黒』の思念を持つにふさわしい人格を有しているのもあるが、これだけの情報でそこまでの結論を出せる事に感心していた
「さっきの風呂で言っていた『別の用途』…あの時は何も言わなかったが、おそらく『それ』に近しいものじゃないかと予想は出来た… あんたの『目』で人格を視るってのと捕まっている人数から大体の予想は出来た…特にアレスとミーシャとスイは似たような経験がある…だから別に、それが珍しいものでもない」
ジンビスとイェロンを除く4人は、過去に中央大陸で『陸姫の護衛任務』をした事がある
公にもこの『護衛任務』の募集がかかり、一時期はかなり多くの人数が集まった
その募集にアレス達は間に合わなかった…が、特別処置でその護衛に加わる事が出来た
なのでシードは『正規の騎士でなくても護衛任務は出来る』という事が特に珍しいものでもないと言い切れた
よってシードの気になる事はもう1つの方である
「あんたが言った『その1つ』という言葉…ならまだあるって事だ…俺達に頼みたい『任務』というやつが」
「ハッハッハッ! 君は素晴らしい人間だな! まあどちらにせよ、当然君達には伝える必要がある…我の『調査任務』をな…!」
「?? 『調査任務』…?」
アレスも頭上に『?』が浮かぶ
「『護衛任務』…それはここ『ラシシェル』から『オルヒトグス』への道中を君達が我を護衛する任務だ。 『オルヒトグス』を首都とする『狩獲猟』は我々に対して敵対心はそう持ってはいない…が、『ベアルランテ』の中には我々に敵対心を持つ者が居る… そんな彼等が、王都を離れる瞬間である今を見逃す事はしないだろう! そうした襲撃者から我を守る…それが『護衛任務』となる!」
「ですがそれは…問題無いのですか?」
イェロンがゴルトにそう尋ねる
「当然問題無い! …無論、『ベアルランテにとって関係無い』という意味でだがな! …今回の『合同会議』の場所は『オルヒトグス』…その道中で『ベアルランテの領域』は通らない…だからこそ、他領域内で起こした戦闘に関して、ベアルランテは関与しないのだ」
「…おかしくないか? 普通は他領域内で起こした戦闘だからこそ、ベアルランテが責任を取る必要があるんじゃないのか?」
「普通ならば、な! 他領域内…つまり狩獲猟、レオンライトの領域内でベアルランテの勢力が戦闘を起こせば確かに問題にはなる…が、そもそもな話…『ベアルランテの者達がベアルランテに問題を持ち込む事は避ける』のだ。 この第二大陸は3つの勢力がある…1つの勢力が挙兵しても、残り2つの勢力がそれを鎮圧する…つまり『2対1』の構図がどうやっても生まれてしまうのだ。 そこにどんな『思想』があろうとも、最終的にはベアルランテがこの大陸の王として君臨する必要がある…つまり自らの行動でベアルランテそのものの首を締める事は決してしない… 故に『自領域内での戦闘行為』等は当然せず、他領域内であったとしても『全て自分の独断である単独的行動』…そう言い切ってしまうだろう」
「…ハッ! ずいぶんと勝手な事すんだな…そんなヤツらとケンカするこっちの身になってみろってんだ…」
ゴルトは『合同会議』のために『レオンライトの治める領域』を通り、『狩獲猟の治める領域』を通る
どちらの領域にせよ、普段王城から出ない『陸王』が自分達の手が届く範囲にまで近づくのだ
…レオンライトに反感を抱く者達がこのチャンスを逃す訳がない
『自領域内で起こした自軍の戦闘行為』は、休戦状態である第二大陸では『宣戦布告』に値する
自らの治める領域で自ら指揮する戦力が攻撃する…
一見問題なく感じるが、『自分達には2つの敵対勢力がある』という事を考えれば、それをするメリットがまず無い
ベアルランテからすれば、自分の手のひらの上で起こした問題は誰が責任を取るのか?…そういう話になってくる
逆に言えば…その手のひらから出てしまえば、ベアルランテには責任がほとんど無くなる
自分達が『独断で行動した、レオンライトに不信感を持つ者達だ』と主張すれば、ベアルランテは責任そのものをその者達に押し付ける事が出来てしまう
…その証拠はどこにも無いのだから
よって『他領域で戦闘行為をした完全なる独立部隊』と名乗れば、『完全なる管轄外で行ったベアルランテが関与しない行為』と、ベアルランテは主張するだろう
そんな彼らを撃退してほしい…そうゴルトはアレス達に頼んでいるのだ
「…なんだかよく分からないけど…任せてくれ!」
「…よく分からない状態で引き受けたらいけない気がするけど?」
「大丈夫大丈夫! イメージトレーニングはバッチリだ!」
「…なんだよそのイメージトレーニングってよ…」
「ハッハッハッ! 頼もしい限りだ! 無論、君達以外にもあの『犯罪者』の諸君にも『護衛任務』はやってもらう…だが…」
「重要なのは…『調査任務』の方か?」
「ハッハッハッ…その通りだ…!」
ゴルトは意地悪く笑う
「君達には我々の『王国騎士団』の内部調査…完結に言えば、レオンライトの裏切り者を調べて欲しいのだ」
「…裏切り者…ですか…?」
「…あまり大きな声では言えないのだが、我々の中に『ベアルランテの敵対勢力に通ずる者』がいるらしいのだ」
「ベアルランテと…?」
「ただ単にベアルランテと通ずるならば別に問題は無い。 だが、我を抹殺しようとする『勢力』と通じているのであれば話は別なのだ」
「そりゃそうだな… あんたがどのルートを通るか先に知れれば、罠をはったり待ち伏せなんて当然やれるからな。 それにこっちの戦力も知る事が出来ればその勢力も戦力を整えやすいしな」
「…我も独自に調べたが、誰が裏切り者かは分からなかった… 君達ならばある程度、我以上に自由に動けるはずだ。 一応、我が怪しいと睨んだ人物達を伝えておこう」
ゴルトはあの浴場で『地図』を出現させたように、左手の人差し指の小さな『赤い宝石』の付いた指輪を淡く光らせ、紙を一枚出現させた
それをゴルトは見ながら、アレス達に話しかけた
「裏切り者の候補は数人居るのだが、今回我の護衛を行う騎士団は『剣戟攻戦隊』と『特殊殲滅隊』…その中で護衛に参加し、裏切り者と思われる候補者は3人… 1人目は剣戟攻戦隊三番隊副隊長『浦端ワーマー』、副隊長とはいえ戦闘能力は高い…だが、君達複数人で囲めば勝機はあるかもしれん。 2人目は特殊殲滅隊二番隊隊長『霧江シューメア』、どちらかと言えば参謀に近い人物ではあるが隊長だ…当然強い。 3人目は今回の護衛に同行する負傷者を手当する衛生兵部隊の隊長『モノバ・ドグニアン』、医師としての腕は確かだが黒い噂がいくつかある…要注意人物だ。 我は君達が手分けして彼等を調査すれば問題無いと考えているが…もしも他に怪しいと感じた人物が居れば、随時報告してくれ」
「…副隊長に隊長…あんたの部隊はどうなってるんだ…?」
「ハッハッハッ! 個性豊かだろう?」
「豊かすぎて散らかりすぎだ…整える事も重要だろう…」
そう言いつつも、シードは律儀にゴルトからそのリストを受け取り、懐にしまった
「ゴルトさん、調査って何をすればいいんですか?」
ミーシャはゴルトにそう尋ねる
「特に無い!」
「…ハァ?」
「実を言うと、調査も何も君達がこの城内を自由に歩き回る事が出来ない! 我が君達の自由を訴えたがリプスや他の者達に反対されてな…正直、君達は『不法侵入罪』に値する『犯罪者』…良いイメージが無いのだ… よってこの王城ではなく『ラシシェル』の宿にて3日間宿泊してもらう! そして6ノ日の早朝、我等と共に出発するのだ!」
「…つまりその日まで…いやむしろ、その日から調査しろ…って事か…?」
「その通りだ! その日まで、君達は『自由』に過ごしてもらう! 当然ながらこの『ラシシェル』からは出られず、街に居る『守備衛兵隊』からかなり軽微ではあるが監視される状態ではあるがな!」
ある程度の『監視』…それがあるだけで、かなりの『自由』が得られるのだ
この話を断る理由は無い
そもそも断れない
断ったら何をされるか分からないし断るという選択肢も存在しない
というかそれ以前に…
「よっしゃなんでもいいや! 俺が守るから安心してくれ! 調査とかよく分からないけど…なんとかするぜ! 俺にまかせろ!」
「ハッハッハッ! アレス君! 期待しているぞ!」
「…お前がいる限り…断るとかそんな選択肢が存在しないか…」
シードはハァ…っとため息をついて諦めた
それからあっという間に3日が過ぎた
獅子閃煌王都『ラシシェル』にある宿『寝ころび亭』にて2部屋を借り、アレス達はそこで寝泊まりしながら王都を堪能した
もちろん、ゴルトの計らいで宿代はレオンライト持ちである
この
獅子閃煌王都『ラシシェル』はやはり王都の名の通り、中央大陸王都『サニーライン』と負けず劣らずの広大な都市である
軒並み建つ建物は全て2階建て以上
木造、石造り、レンガ…石と鉄を混合させ『ソウル』により強度と軽さを両立させた灰色の建設素材『コンクルート』と呼ばれる物で出来た家々…全てが2階建て以上である
これはこの世界では珍しく、王都ほど栄えていないと見られない光景である
街中を数は多くはないが『自動魂車』が行き交い、歩行者も自動魂車も問題なく通行出来るように設備が整えられている
王都以外の町ならば通常は馬車、しかも舗装されていない土の道を歩く
だがこの街は石や炭を主原料に『ソウル』を混合させて作られた道路舗装用材料『アスファウル』により、『自動魂車』が走行出来る環境がきちんと整えられている
歩行者用の道も同じくそうなっている…つまり、歩きやすく通りやすい環境が完全に整えられているのだ
そんな道を歩いた事がほとんど無いアレスやジンビス達はそんな王都に驚きつつ、充実した3日間を過ごした
服を見たり食事を堪能したり、とにかく自由に過ごした
―――そしてその日がやって来た
―――水無月 6ノ日 土魂日 午前6時22分―――
「………おいおい…こんな大量の『犯罪者』と向かうのか…?」
シードは内心不安だった
これから何が起こるのか全く分からないのもあるが、どう見ても『騎士団員』よりも『犯罪者』の方が多いのだ
――早朝、シード達は用意を前日の内に済ませて早めに起床、チェックアウトを終えて指定の場所まで移動した
それが王都の外、広く周囲に何も無い、土の地面の荒野に集合した
だがシード達が移動した時には、すでに相当数の『人』と数台の『自動魂車』が並んでいた
個人で所有する乗用車ではなく、装甲車に近い『自動魂車』…明らかに軍用である
そして全体の比率で言えば『7:3』…パッと見ただけでも『犯罪者』の方が多い
「…周りには騎士…俺達の心象も当然ながら悪い…居心地は良いとは言えない…不安要素しかない…」
シードは頭を抱える
シード達が居るのが騎士団が多く集まる側…明らかに浮いている
そしてシードの隣にはアレス…
「シード…みんなどこに行ったんだ? はぐれちゃったみたいだけど…とりあえずここで待ってればいいのか?」
「…不安要素しかない…」
周囲には赤色と黒色の隊服を着た騎士が大勢居る
…その気になれば、現状『犯罪者』である自分達が始末されるのというのもあり得る
「…とにかく目立つ行動はひかえとけ…特にアレス、お前は『余計なこと』をペラペラと喋るから
「『余計なこと』…とは何だい?」
突如シード達の背後から聞こえたその声は、妙に透き通っていた
高めの透き通るような声…威圧的だとか安心するとかそういったものではない…中に入り込むような…そんな声だった
バッ!…っとシードとアレスは振り返ると、そこには1人の男が立っていた
身長は178センチ程度の男性…黒い軍服のような隊服を身に着けており、見た目に獣の要素が無いため『人間』であると予想出来る
黒い髪の毛は首あたりまで伸びたショートヘアー、体格は細身のほっそりとした人物だった
目は少し細め…顔が整っており、中性的と呼べる顔をしていた
左の腰には細い『レイピア』のような剣を携えており、彼の体格と相まってどのような戦術・戦い方をするかどうか一目で分かった
…彼はその細い目でアレス達を見ながら、続けざまに言葉を掛けた
「君達が噂の…『犯罪者なのにお気に入り』の子達かい? 今の陸王サマ代理は何を考えているのか分からないねぇ…」
見定めるような視線をアレス達に浴びせながら、透き通るような声で言う
「……」
シードは睨むような目で彼を見る
逆にアレスはハッとした表情を見せた
「あっ! もしかしてあのムグゥっ!!?」
シードはその瞬間にアレスの口を塞いだ
アレスが何を言おうとしたか瞬時に理解したからだ
「…あんた何者だ?」
警戒心高めなシードの声に対し、彼はため息混じりの声で返した
「…冷たいねぇ…せっかく僕が話し掛けたっていうのに…もうちょっと喜んでくれても良いんだよ? この僕が君達なんかに会ってあげたんだからさ?」
「……」
その言葉だけでも彼の性格がすぐに分かってしまった
「…それなら遠慮しとく…あんたに会って喜ぶなんて趣味は俺は持ってない。 むしろ犯罪者と仲良く話してる姿を他のやつらに見せていいもんじゃないと思うが?」
「…ふぅん…君、良い性格してるね?」
「…あんたほどじゃ無いと思うがな?」
「「………」」
…2人は睨み合い、お互いの腹黒い部分を探り探りで当てて行こうとしている
それに巻き込まれたアレスは半笑いが止まらない
さすがのアレスも雰囲気がヤバいのは察している
「モゴ…ちょっ…とりあえず名前教えてよっ…!」
シードに口を塞がれたアレスは無理矢理その拘束から逃れ、声を出す
「…まあ…君達に名乗る必要は無いと思うけど…一応自己紹介ぐらいはしておこうかな? これからお世話になるんだからね…? …あ、むしろお世話するのが正しいのかな…?」
彼は薄ら笑いを浮かべながら自己紹介をした
「僕の名前は霧江シューメア。 特殊殲滅隊ニ番隊隊長だよ。 ああ…君達の自己紹介は必要無いよ。 君達はある意味『有名人』だからね…知りたくなくても知っているのさ… …これから宜しくね? アレス君…シード君…?」
手をひらひらと振り、どこかへと去っていくシューメア
その後ろ姿を見ながら、シードはこう思っていた
(『霧江シューメア』… あの性格の悪さもそうだが…ゴルトに対する…いや、レオンライトに対する忠誠心の欠如が目立つ… 裏切り者の候補者の1人なだけあるな… だが…それよりも… 『お気に入り』『名乗る必要も無いと思う』…つまり…『俺達がシューメアの事を知っている』という事を、なぜ知っているんだ? どこからその情報を仕入れた…? ゴルトと話していたあの時の会話を聞いていた…? 情報が漏れた…どこから…どうやって…?)
シードは色々考える
だがそんなシードの思考をアレスが遮る
「ん〜…あの人…あんまり悪い人じゃなさそうだけどな〜…」
「…本当か?」
「うん、本当」
シードはそこで一旦考えるのをやめた
アレスの『目』は正直、シード以上の観察力を持っている
アレスがそう言うのであれば今は放っておいても良いだろう…そうシードは割り切った
「…とにかく、今は他の候補者も見る必要がありそうだ… はぐれた他の連中を探して一度合流するぞ」
「わかった…じゃあ
「大声出すのはやめろよ」
「……わかった…」
「…チッ…マジで護衛っつーのをやるみてーだな…」
「しょうがないよジンビス君…『犯罪者』の私達は拒否権ないんだから…」
「…あぁ…そうだな…」
ジンビスとイェロンも同じく騎士団の中に紛れて立っていた
周囲には赤と黒の隊服を着ている騎士ばかり…特にイェロンは修道女のシスター服を着ているため余計に目立つ
周りの騎士達はチラチラとイェロンを横目で見ている
「クソッ…! どいつもこいつもイェロンをチラチラ見やがって…! イェロンは見せモンじゃねーぞ…!」
「…多分私がこの服を着てるから…」
「いーや関係ねー…ここにゃ男しかいねーからイェロンをくだらねー感情で見てやがるんだ…! コイツらが騎士じゃなかったらブン殴ってんだがな…!!」
「ジンビス君気にしすぎよ…大丈夫、私は気にしてないから」
「…つーかイェロンもその服で良かったのか? 別にもう教会にいるわけじゃねーんだから違う服でも…」
「…ジンビス君、これは『私の為』なの… 『私』が『私』になるために…常に私の身体は浄化しなくちゃいけない…ジンビス君も分かってるでしょ…?」
「………」
ジンビスは静かにうなずいた
イェロンは『人間』の姿をしているが実際は『獣人』の『サキュバス』…修道女服に隠れてはいるが腰下から悪魔のような『尻尾』が生えている
そしておそらくそれが…『サキュバスなのにシスターの姿をしている』事が、『私が私になるために』…という言葉の意味を持っているのだ
…ジンビスはとにかく今の状況を素直に受け入れ、とりあえずはぐれてしまったメンバーと合流する事にした
「…とにかくあーだこーだ言っててもしょうがねー…他のヤツらと合流して何がなんでもイェロンを守らせるように言わねーと
「なんと美しい女性ッ!! さながら戦場に咲く一輪の花…ッ!」
急に気品あふれる高めの声がジンビスとイェロンの背後から響き渡った
「…!?」
「あぁ!?」
「戦場に彷徨う孤独なる魂を浄化せんと舞い降りた女神…ッ! おぉッ! 私は貴女に出会えた事を…神に感謝するッ!」
両手を合わせ、イェロンに対して片膝立ちの体勢で祈る『人間』の男…
身長は180センチ後半の高身長、赤色の隊服を着ていた
金色の肩まで伸びた軽くウェーブのかかったロングヘアーをなびかせている
まつ毛や眉毛が長くて整えられており、大きめの目も相まって女性のような顔立ちをしていた
一言でいってしまえば『美形男子』…体格も少し細めなのもあり、本当に彼が戦闘出来るのかと思いたくなるぐらいだった
しかし彼の『得物』は、彼が『剣戟攻戦隊』であるのを物語っていた
大きな大きな『斧』…彼が背中に背負った『両刃斧』…彼の身長と同じぐらいある黒い大きな両刃斧が、彼の戦闘スタイルを現していた
「えぇ…っと…?」
「テメー…誰だ?」
警戒心高めにジンビスが彼に問いかける
「おおッ! これは申し訳無いッ! 自己紹介がまだだった…大変失礼したッ!」
彼は膝立ちの状態からスッと立ち上がり、まるでオペラでも歌うかのように声を響かせながら答えた
「私の名は『浦端ワーマー』ッ! 剣戟攻戦隊三番隊副隊長であるッ! 美しく気高き我等が王を守護する為に…私と、私の『ナルシスアックス』がここに居るのだッ!」
「「………」」
クルリとターンをして大きく手を広げるワーマー
彼を白い目で見るジンビスと呆気にとられるイェロン
「フッフッフッ…私の美しさに見惚れているのかい? 心配せずとも、君の美しさには敵わないさ…」
白い歯をキラリと見せながら笑うワーマー
彼をより白い目で見るジンビスと呆気にとられるイェロン
(こ…この人ってもしかして…?)
(あぁ…間違いねー…あの『裏切り者リスト』の1人じゃねーか?)
ジンビスとイェロンは小声で相談する
(…とにかく、『自分が何かしらで疑われている』って気付かれないようにしなきゃ…!)
(そうだな…変にめんどくせー事になってもめんどくせーしな…)
サッとイェロンは顔をワーマーに向ける
「は…はい…ありがとうございます…! ワーマーさん、よろしくお願いします!」
ニコッとイェロンは笑顔を見せる
するとワーマーは目をキラキラと輝かせる
「おぉッ…! 笑顔も美しい…ッ! やはり君は女神…ッ! 私の女神…ッ!」
そんなワーマーの態度にジンビスが若干苛つく
「オイオイ…大げさすぎじゃねーか? だいたいイェロンはテメーのモンじゃねー… 女神って言うのは勝手だが、イェロンに近づいて困らせるようなマネはすんじゃねーぞ…!」
ワーマーはそう言われてハッとした表情を見せた
「おお…これは申し訳無い…ッ! 女神には既に『騎士』が居たとは…これは済まなかった… 君は彼女の『騎士』なのだな…?」
「そーだ…文句あんのか?」
「いやいや…ッ! 何も問題無いッ! 君の様な強く、たくましい『騎士』が居れば女神も安心だろう… ………さながら『悪魔の騎士』とでも言うべきかな…ッ?」
「「!!?」」
突然ワーマーが言った『悪魔』という言葉にジンビスとイェロンは目を丸くして反応する
「フッフッフッ…それでは私は、私の部隊と合流せねばならぬ故失礼するよ… さらばだッ! ………『悪魔の女神』と『悪魔を護る騎士』殿…ッ?」
そう言うとワーマーは背を向けてどこかへと去って行った
「「………」」
ジンビスとイェロンは黙ってその後ろ姿を見ていた
「…オイ…イェロン…」
「…もちろん言ってないよ…私が『サキュバス』だってこと…誰にも…! 『尻尾』だってちゃんと隠れているし…!」
「んじゃ…なんで知ってんだアイツ…!? 知らなかったら…見てなかったら『悪魔』なんて言葉出てこねーだろ…!?」
「…分からない…けど…だからこそゴルトさんはあの人を『裏切り者候補者』にしてる…んだと思う…」
「…チッ! …近づかねー方がいいな…いや…近づかせねー方がいいな…」
「………とにかく皆さんと合流しよう…? 2人のままよりは安全だと思う…」
「…だな…行くぞイェロン…」
「う〜ん…はぐれちゃったみたいね…」
「…ご主人様…」
ミーシャとスイもはぐれて騎士団に紛れていた
周囲には騎士がたくさん…2人は完全に浮いていた
それでも準備に忙しいのか、2人を見る者はほとんど居なかった
「…忙しそう…やっぱりこの大陸の王様がどこかに行くっていうのは大変なのかしら…」
「…ですが…騎士の数が少ないですね… 赤と黒の服を着ている人以外にも…『白衣』を着ている人が多いですね…」
『白い隊服』を着ていれば『魂理工学隊』なのだが、『白衣』を着ている者達が多くいる
それこそ全体の3割程度だが、それでも普通は多い
戦地に赴く部隊ならば医療部隊が多く居てもおかしくないのだが、これは『護衛部隊』…そもそも医療行為そのものが多くあってはいけないのだ
「白衣…ゴルトさんの言ってた衛生兵かしら?」
「…たぶんそうですね…そして…おそらく…」
「じゃあここの中に居るってわけね…『裏切り者候補』の1人が…!」
ミーシャは周りを見渡す
しかしそれっぽい人は居なかった
「たしか…隊長だったわね? みんなと合流する前に一目見ておきたかったけど…居ないならしょうがないわね…」
「…それではここをはなれて、みなさんと合流しま
「ウフフフフフ…可愛いじゃないの…♥」
わしゅっ
「!? きやぁぁああぁっっ!!?」
ミーシャは大きな悲鳴を上げる
それもそのはず…背後から誰かが自分の胸をわしゅっと両方掴まれたのだから
「ああぁあっ…いいわぁ…こんな男だらけの場所にこぉんな可愛い子が居るなんて… あぁ…可愛い可愛い可愛いぃぃ…♥」
「にやぁぁぁああぁ……!!」
もにゅもにゅと揉みしだかれるミーシャ…
その様子を見て、スイはあ然として動けなかった
ミーシャを辱めるその声は、甘ったるい少し低めの声をしていた
その声の主はパッとミーシャを離すと、手をワキワキさせて興奮していた
「ウフフフ…この感触…最高よぉ…♥ ハァァ…この護衛に参加して良かったわぁ…♥」
「…ミーシャさん…大丈夫ですか…?」
フラフラしながら尻もちをついたミーシャに駆け寄るスイ
「ああっ…ああああなたはいいったい…?」
ミーシャはろれつが回らない状態だが尋ねた
なんでこんな事をするのか、なんで自分がこんな目にあっているのか、ていうか誰なのか…一刻も早く知りたかったからだ
「そうね…先ずはお互いを知る事から始めましょうか…?」
ミーシャを弄んだその人物は女性だった
身長は160センチ前半、赤みがかったキャミソールの上に白衣を着ており、下は膝下ぐらいまである黒いロングスカートを履いていた
髪の毛は茶髪の肩まで伸びたパーマのかかったロングヘアー
黒縁のメガネをかけ、瞳が茶色の丸い目がその奥から覗いていた
少し尖った鼻と少し尖った歯を持った彼女は、いわゆる『犬』の『獣人』だった
頭頂部に小さいモフモフの耳を生やし、さらに腰下からも小さなモフモフの尻尾を生やしていた
毛色も茶色…体格もほっそりして小さめのため、小型犬のような感じがしていた
しかしその性格は決して小型犬のような大人しさはなかった
「はじめまして…私は『モノバ・ドグニアン』…犬の獣人よ… よろしくね…ミーシャちゃん…♥」
「よ…よろしく…でででも…どうしてこんな事をを…?」
「私は可愛いものが大好きなの♥ ミーシャちゃん…あなたは私の『可愛い』にストライク…♥ あぁぁ…もっと…もっとぉ…からみあいましょう…♥♥」
「そ…そういうのはもう大丈夫よ…!! 私にはそういう趣味はないの!」
ジリジリとモノバがミーシャに近付いていく
「大丈夫大丈夫大丈夫…すぐに…とぉっても気持ちよくなるから…気持ちよく…感じるからぁ…♥♥」
「ひいいぃぃっ…!!」
「…ちょっとまってください…」
スイがミーシャとモノバの間に立ちふさがる
「あら…スイちゃん…大丈夫よ? あなたも後でじ〜……くり遊んであげるから…♥」
「…そうです…わたしは『スイ』です… だからこそ…なぜ知っているんですか…? わたしが『スイ』で『ミーシャ』さんが『ミーシャ』さんだということを…」
「あっ…!」
ミーシャはハッとした表情をしたが、モノバはキョトン顔をしていた
「…ウフフフ…知ってて当然よ…? 私は衛生兵…全員の顔と名前は知ってて当然じゃない?」
「…いいえ…わたし達はもともと『犯罪者』… 今回の護衛に参加するのも特例であるため…名前ぐらい知っていてもおかしくはありません… ですが…わたし達の顔までは知らないはずです… なぜなら…知る機会がそもそもありませんでしたから… だからおかしいんです… ミーシャさんをミーシャさんと呼ぶことが…!」
「そ…そうね… 私達はずっと街中にいたから顔なんて合わせた事ないし…それに今、『はじめまして』って言ったから間違いないわ…」
「………ウフフフ…鋭いわね…?」
モノバは不敵な笑みを見せた
「そうね…どうして私があなた達の事を知っているか…それを教えて欲しかったら…」
そしてモノバは右手の人差し指を自分の唇に当てて、色っぽく言った
「私のトクベツな人にあなたがなってくれたら…私の全てを教えてあげるわ…♥♥♥」
「…!! ぅぅ…それは…」
「………」
ミーシャは若干涙目になりながら目をグルグルと回す
スイは少し威圧的にモノバを睨む
「ウフフフ…そんなに嫉妬しないで…スイちゃんも一緒でも良いわよ…? …それじゃ…またね♥」
手をひらひらとさせながら後ろを向いてどこかへと去るモノバ
その姿が見えなくなったあと、声を震わすミーシャが言った
「はぁぁ…なんなの…あの人… スイちゃん…私どうしたらいいの…?」
「…当然ですが…近づかないほうがいいですね… あの人の提案にのる必要もないです…」
「…よね? そうよね…? ナニされるか…分からないもんね…?」
「…はい…これからあの人を観察して…本当に裏切りものかどうか…しっかり見ていきましょう…」
「うん…それよりも…」
「…『どうしてわたし達の顔と名前を知っていたか』…それが気になります…」
「………正直言うと、こういう『考える事』はシードの方が適任よね… とにかく全員と合流して、これからどうしていくか考えましょ?」
「…はい…わかりました…」
ミーシャは足をガクガク震わせながら立ち上がり、ゆっくりと歩いて行った
―――ザワザワとざわつく犯罪者達と騎士
その声がピタッと止まる
「――静粛に! …私が陸王様に代わり、お前達に説明してやろう!」
犯罪者達の前に、ゴルトの側近であるリプスが後ろに腕を組み立ったからだ
リプスの低めの威圧感を放つ声が、およそ全員に聞こえる程の大声で響き渡る
「これからお前達『犯罪者』共が何をし、何を成さねばならぬか…それを理解して貰おう。 …お前達の頭では理解出来るか定かでは無いがな」
リプスは少し嘲笑う様に言う
だが犯罪者達は無闇に何か言えない
先日のような事態に成りかねないからだ
「…さて、それでは…」
「今回の『護衛』について、説明する」
更新遅っ




