若き獅子との出会い
―――水無月 3ノ日 水魂日 午前11時05分―――
「ようやく……到着したな……」
「ついに来たぜ第二大陸!!」
「ていうか…私達ここで何するのかしら?」
「…とくに目的は…ないと思います…」
「よーするに第四大陸に行ければいーんだろ?」
「目指すは港…『第四大陸に船を出す港』に向かえばいいんですね?」
アレス達は港ではなく、砂浜近くの陸地に船を停めて上陸した
「荷物は『ルテイク』に全部収納済み…キャンプキットは一応あるが、肝心の食料が無い…さっさと近くの街に向かうとしよう」
「…野宿だけは勘弁してちょうだい…宿屋のベッドでゆっくり休みたいわ…」
「…ですがシードさん…この時間帯でよかったのですか…?」
スイがシードに質問する
「…どちらにせよ…だな… 欲を言えば、夜のうちに上陸した方が良かったんだが…おそらくもう発見されている可能性が高い… 急ぐぞアレス…これから嫌というほど大陸を移動するんだからな」
「よっしゃ! じゃあさっそく出発する
「そこで止まって貰おうか」
「「「「「「!!!」」」」」」
シード達の伸ばした足がそこで止まる
しっかりとした声がその場に響く
声の聞こえた方向に、赤色の隊服を上下に着た男達が立っていた
数にしておよそ13人前後…
『人間』も居れば『獣人』も居る
声をかけてきた人物は少なくとも『人間』である
帽子もかぶっていて、顔はよく分からない
「お前達は何者だ? 正直に答えれば、大怪我はしなずに済むぞ」
そう言うと腰に付けた鞘へと手を伸ばし、剣の柄を握る
「チッ…!」
「なんだ!? やるのか!? 俺達のじゃまをするな!」
ジンビスは背中に携えた自分の身長と同じぐらいある大きな『十字架』に手を伸ばす
アレスは体にソウルを纏い始める
「『ドライブビー
ゴンッッ!!
ずぁっ!!?』」
アレスの後頭部を、強い衝撃が襲う
それはシードが殴ったからである
そのままアレスは前のめりで地面に倒れる
「うぐぅっ……」
アレスは後頭部を両手で押さえる
「あ〜…こいつは気にしないでほしい」
シードはコホンと咳払いすると、ある程度謙って話しかけた
「俺達は隣の大陸から逃げてきた旅行者です… つい先日、大きな戦争が始まると聞き、港を経由せずに入手した船でここまで逃げて来ました… 決して怪しい者ではありません…ただ自分達は第四大陸へ向かいたいのです…見逃してくれませんか…?」
シードは軽く頭を下げる
すると、話しかけてきた人物達がザワザワし始める
どうやら仲間達内で話し合っているようだ
「オイ…オイシード…! こんなヤツらさっさとブッ倒して先に行こうぜ…!? なんでそんな態度とってんだ…?」
「ジンビス君…! あの人達…『王国騎士団』だよ…!? 戦ったら絶対ダメ…!」
ジンビスとイェロンは小さな声で話す
「んなの関係ねーだろ!? ここでアイツらに捕まるぐらいなら戦ってブッ倒せばいいだろーが! 何もしねーで捕まるのはゴメンだぜ…!」
「ちょっとやめなさい…! 話せば分かってくれるわよ…!」
「…ご主人様も…問題はおこさないほうがいいです…」
「ぐぐっぅ…! でも…!」
「手を出すなよ」
小声で話していたミーシャ達は、シードの声で静かになった
「相手は大陸の正義『王国騎士団』…戦う事自体が無謀ではある…が、ジンビスの言う通り、何もしないで捕まるのは大きなタイムロス…ならこいつらを倒して、問題が起こるより先にこの第二大陸を駆け抜けた方がいい… だが相手が悪い。 4つに分類される『王国騎士団』の1つ、赤い隊服の『剣戟攻戦隊』…それがあいつらだ… 拠点防衛を主とする『守備衛兵隊』と違い、対人対物を主とする『剣戟攻戦隊』が相手なら分が悪い…確実にこっちが負ける… 『戦闘』ではなく、『逃げ切る事』が出来ないだろうな」
「…!!」
シードの言葉に言い返せないジンビス
シード達の目的は『港に行く事』…それはつまり、このまま街を渡り歩いて港を目指す…騎士団に追われながらそれを実行していくという事…
彼らに戦いを挑めば、それが不可能だとシードは言っている
「…じゃあどーすんだ? アイツらがこのまま逃してくれるとは思わねーぞ?」
「…『隙』がどこかに必ずあるはずだ… このまま連行されたとしても、必ず逃げる『隙』が出来るはず… 馬のような移動手段さえ手に入れば、そこで逃げ切れる可能性が必ず見えてくる…! ここは耐えて…流れに身をまかせて
「何をしているんだお前達…?」
ザワザワと騒いでいた騎士団達が、一瞬にして静まった
「た…隊長…!」
ザザッ!…っと、団員達が敬礼をする
現れたのは、同じく赤い隊服を着た、少し身長の高い人物だった
身長はおよそ190センチの高身長
赤い隊服や帽子を着ているのは他の団員と同じだが、団員は軍隊の帽子に似た形に対して、彼はコック帽の様なしっかりとした形の赤い軍帽を被っていた
少し茶色がかった黒髪が帽子の下から伸び、肩より少し上まで伸びたロングヘアーなのが分かる
顔も随分と整っており、アゴに生えた短い無精髭も相まってイケメンと断言出来る
黒い手袋、黒い靴、瞳も黒い彼だが、服と武器だけは違った
金ではないが、金色に装飾された大きな『大剣』をその背中に背負っていた
彼の身長の3分の2程の長さを持った両刃剣…そこら辺の木であれば簡単に真っ二つに出来るだろう
(…こいつ……)
シードは一目見て分かった
(…強いな……)
『隊長』と呼ばれていた事から分かる様に、シードは直感でかなりの『実力者』だと理解した
そんな彼が、低めの威圧感を放つ声で団員達に尋ねた
「一体どうした? お前達は巡回中の筈だろう?」
「隊長! 彼らが例の『不審な船』の乗組員です!」
「ああ…報告にあった船か… 確か第三大陸方面の海から来たと『監視部隊』から報告を受けていたな…」
「どうしますか隊長…!? 今すぐにでも捕まえて
「その前に……『行動を起こす前に必ず報告しろ』と言っていた筈だが…どうしてしなかった…?」
「ハッ…!! 申し訳ありません…! 予定到着時刻よりも早く到着したので…ご報告する時間がありませんでした…! 申し訳ありません…!!」
団員達は微かに震えていた
『恐怖』…おそらくそれによりそうなっているのだろう
「……まあそれは不問にしよう…今は非常に忙しいのは俺も知っている… だが、『巡回ルートから外れた部隊がいる』と監視部隊からの報告を受けた俺の対応も理解してくれ… 追加の巡回部隊の補充、各部隊への異常報告、王都の防衛配置の変更…一部隊が規律を乱せば、その補填に入る部隊や人物が存在するという事を忘れるな」
「……! 大変失礼しました…!」
「……さて…」
くるりと顔をシード達に向ける
そして『品定め』するかの様に全員をまじまじと見る
「………」
そしてチラッと船を見る
「……なるほどな…」
やがてその視線はシードに向けられた
「先に自己紹介をしておこう…王国騎士団剣戟攻戦隊一番隊隊長、『敷間寝リプス』だ。 …簡潔に言おう…取り敢えず君達の身柄を拘束し『王都』に連行する。 話はその後ゆっくり聞くとしよう」
「………質問が『2つ』ある… 1つはどうしてあんたは『隊長』と呼ばれているのか…もう1つはどうして俺にそれを言っているのか…簡潔に答えてもらいたいね」
「ならば簡潔に答えよう。 4つの内の1つの『隊』をまとめる人物が『団長』と呼ばれるのに対し、1つの『隊』を複数の『部隊』として分割しそれを率いる人物を『隊長』と呼ぶ。 俺は『剣戟攻戦隊』の『一番隊』を率いる『隊長』だ…『剣戟攻戦隊』自体をまとめる『団長』では無い。 そしてそれを踏まえた上で『君』にそれを伝えれば…自ずとその『意味』が理解出来ると思ったのだが…理解出来なかったか…?」
「……いや…今、ようやく理解出来た…礼を言う…」
シードの頬に冷や汗が流れる
「……ぅがあぁぁっっ!!」
そんなシードを尻目に、倒れていたアレスが勢い良く起き上がる
そしてビシッと指を『敷間寝リプス』に差した
「なんだかよく分からないけど…俺達は旅の途中なんだ! こんなところで捕まってたまるか! じゃまするなら…手加減しない!! 『ドライブビ
ゴンッッ!!
ーずぁああっっ!!?」
再びシードがアレスの後頭部を殴った
アレスは倒れはしなかったものの、その場にしゃがんでうずくまる
「い…いでぇぇっ…!! なにするんだシード!?」
「こっちのセリフだアホ… よく考えてみろ…あいつは『隊長』…あいつをたとえ倒したとしても、『自分よりも強い存在である団長が、お前達を追いかけて捕まえるだろう』…そういう意味が、さっきの言葉に込められているんだよ… つまり『抵抗は無意味』…そう言ってるんだ」
「じゃあ…じゃあどうするんだ…!? 俺たちこのまま捕まるのか…!?」
「まあ待て…お前達も、何もせずにここはあえて捕まれ。 戦おうとするなよ」
「ハァ!? オイシード何言ってんだ!?」
「私もイヤよ!? 何もしてないのに捕まって牢屋に入れられるなんて…!」
「落ち着け…あいつはこうも言った…『君達の身柄を拘束し『王都』に連行する。 話はその後ゆっくり聞くとしよう』と… つまり『話を王都で聞いてくれる』…こっちとしてはありがたいだろ? そもそも犯罪を俺達はしていない…王都に行けて罪もかぶらない…理想の『コース』じゃないか…?」
シードは意地悪そうな顔を見せる
それを見て、ジンビスとミーシャは不安かつ心配そうな表情をする
((大丈夫かしら……))
――その予感は的中する
「その船を見る限り『出港状』も持っていないだろう…有ったとしても不審がられるのが当然だが…加えて『子供だけの船』の理由も気掛かりだ… ここで言い争う理由も必要も無い…やはり一度、王都に連行するべきだな… ただし途中で暴れられても困る…痛みは全く感じない…だからこそ何も抵抗するなよ」
リプスはそう言うと、ひじを曲げて手のひらを上に向け、腕を少し前に突き出した
その手のひらの上に、淡い桃色の『風』が巻き起こる
やがてそれが渦を巻き、球体状へと形を変えていく
「!? 何を…!?」
シードはとっさに、背中に携える槍に手を伸ばす
…が、直ぐに止められる
「もしもこれを防ごうとしたり避けようとした場合は…防ぎも避けも出来ない状態にしてから喰らわせる…意味は理解出来るな?」
「っ…!!」
シードはピタッと手を止め、苦虫をかみ潰した様な顔をする
「……ていうか…『出港状』ってなんだ?」
アレスがキョトン顔で問いかける
「あ? んなことどうでもいいだろ?」
「だってそれがあれば俺たち許してくれるかもしれないだろ? あの船の中を探せばあるかもしれないじゃん!」
「…確かにそうだな… 『出港状』ってのは………何だ? イェロン?」
「ジンビス君ごめん…私は知らないの…」
「…わたしも分かりません…」
「ふふんっ♪ いい? 『出港状』ってのはね…」
なぜかミーシャが得意気に語る
「一般的な船がどの港から出港したのかが分かる様に、港から発行される書状の事よ! 積荷の内容や目的地、細かくなれば乗員の人数や船の規格まで書いてあったりするの。 発行される目的は、『船がどんな目的でどこに行こうとしているか』と『船が何者かを識別するため』よ。 その船が旅客船なのか、商船なのか、はたまた『海賊』なのか…それを識別するためにその書状が必要なの。 …まあ、普通の旅客船や商船は船にそれと分かる旗を掲げたりしてるんだけど。 到着した港に『出港状』を渡せば何も問題なく済むんだけど…私達のあの船には、それっぽいものはなかったし…」
アレスは少し考える
「目的地や船の規格…あ、それって
「お前ら話は後だ…何が起きてもいいように構えとけ」
シードは警告する
…そして数秒後、球体状になったそれが動きを止めた
安定した渦を巻いた球体…ちょっとした『玉』と呼べる物だった
それを浮かべる腕を少し前に出し、彼はこう言った
「『痛み』も『苦しみ』も無い… それでも…『喰らった』と感じる事は出来る」
ギュババババババッッ!!!
「「「「「「!!!!??」」」」」」
突如、その球体が数十の弾丸となって弾け飛び、一斉にシード達に向けて放射された
突然の出来事にアレス達は反応が遅れ、1人につきその弾丸を2、3発浴びてしまう
しかしシードだけは、身構えていたために避けようと思えば避けられた
が、あえて避けなかった
避ければ、これ以上に何をされるか分からなかったからだ
だからあえて上手く避けて、当っても致命傷にならない場所…腕や足、横腹に一発ずつあえて喰らった
その瞬間、シードはリプスの言った『言葉の意味』が分かった
(この…感覚!! まさかこれは…!?)
――アレス達が次々と倒れていく
まるで人形の様に、意識を失って地面に倒れる
あの弾丸が当たる事で、与えられる感覚があった
それは………
(これは…これは…この……『眠気』は……!!)
シードの意識は、そこで途切れてしまった
「………本当に…飲む気なのね…?」
心優しい声で、女性は語りかける
「ええ…俺の答えは変わりません」
若い青年の声が、その質問に答える
「………シード君…この薬は『劇薬』よ」
「ええ…理解した上です…アリスさん」
「…薬学を必要とした時が昔、私にはあったの… その時に色々と調べて学んだ知識を活かして、この薬を調合したわ… 今もその勉学は続けているのだけれど…そんな薬の中でも『劇薬』と呼べる物よ」
「………」
「効果は1つ…『睡眠属性のソウルの効果を低下させる』… 具体的に言えば、『対象を眠らせる攻撃』の『効果時間』を『短く』出来るの…しかも半永久的によ…」
「………」
「このコルクで蓋をした小さな一瓶で大体…約3分の1程度の効果があるわ… 摂取量が多ければ、完全なる『無効化』も出来るらしいけど…『劇薬』と呼ばれるのはその『副作用』にあるわ」
「………」
「睡眠属性の効果低下により、通常の睡眠時間すらも低下してしまうのよ。 つまり、『寝る事が出来なくなる』の。 細かく言えば、『寝る事』は出来ても『寝る事での回復』が出来なくなってしまうの。 脳や体の疲労は寝る事で回復する…でも、この薬を飲めばそれが出来なくなってしまう… 睡眠攻撃の低下に比例して、睡眠回復の時間や効果も低下する…それも半永久的に」
「………」
「それが『劇薬』と呼ばれる所以よ。 …私は正直、シード君にこれを飲んで欲しくはないわ… これを大量に飲んで『無効化』した人を過去に見た事があるのよ。 その人はそれで
パシッ
キュポッ
ゴクッ…ゴクッ…
「あっ…シード君…!?」
「………ぅぐぅっ…不味い…… 効果よりも味の方が『劇薬』の所以なのかもしれないですね……」
「……シード君……」
「…すいませんアリスさん…奪い取るようなマネをして… それでも…これからの『旅』には絶対必要なものなんですよ…!」
「……そうね…それだけの覚悟があれば… もう一つの方も飲む気ね?」
「ええ…俺はあいつを支えます…そのために、力ではなく別の能力も必要なんです… ほら…あいつとか簡単に捕まりそうですし、その時に眠らされるなんてもっとあり得そうですし… その時、誰よりも早く起きて状況の把握をしておく必要がありますし、途中で起きれれば脱出も容易です… これは必要な能力なんです」
「……分かったわ…もう一つの薬も早めに調合するわね… …アレスの旅に、シード君も一緒なら安心ね」
「………正直、不安しかありませんがね…」
そしてゆっくりと、彼は目を開けた
「んん………ここは………」
目が覚めると、薄暗い石で出来た部屋に居た
壁にかけられた小さな光魂石の光が、部屋を僅かに照らしている
それほど広くない小部屋に彼は居た
暗くて石で出来た所とあと一箇所を除けば、普通の部屋だった
「………」
そこに気づく
「………なんで…」
目線はそこに釘付けになる
「なんで俺達は…いやそれよりもだ…!」
彼は周りを見渡す
「…!! イェロン! 無事か!?」
そこには見慣れた人物達が、石の床の上で寝ていた
「うるさいぞ。 静かにしろ」
不意に、彼に声がかけられた
「!! テメェ…なんで俺よりも先に…いやそれよりもだ…」
「………あれからどれくらい時間がすぎたんだ…? つーか…何が起こったんだ…?」
「……さぁな…」
「『さぁな』じゃねーだろ!? なんで…なんで俺達は『牢屋』に入れられてんだ!!?」
「うるさいって言っただろジンビス…騒ぐな」
「んだとシード!! 俺はテメーの心配なんざしてねー! それよりもイェロン! 起きろ! 生きてるか!?」
「全員生きている… 寝ているだけだ」
シードのその言葉通り、ジンビスの大きな声でイェロン達がゆっくりと起きる
「うぅん…あれ…ここは…?」
「…わたし達は…いったい…?」
「ジンビス君…? どうしたの…?」
「生きてんのか…良かったぜ… …つーか…ここどこだ?」
ジンビスは辺りを見渡す
…まさに『牢屋』
その言葉がピッタリ…むしろそのものである
「…テキトーに敷かれた布団…古くせー洗面器…使えるか分からねートイレ…んでもってまだ寝ているアレス… マジでここは
「間違いなく『牢屋』だ。 それも第二大陸王都『ラシシェル』の『王族管理地下牢』…脱出はまず不可能だろうな」
「!? じゃあここは…第二大陸の王都なの!?」
ミーシャが驚き、シードは軽く頷く
「…あれから…この大陸に上陸してからどれぐらい時間が経ったのでしょうか…?」
「1時間と少しだな。 どうやらあの砂浜と王都はそれほど離れていない…おそらく王都は海の近くにあるらしい」
イェロンが尋ね、シードが答える
「…わたし達は…どうして意識を失ったのでしょうか…?」
「意識を失ったんじゃなく、『眠らされた』の方が正しいな。 そこにいるアレスが『気絶』でも『死んでる』でもなく、『寝ている』のがその証拠だ」
スイの疑問に、シードが冷静に答える
「…どーしてテメーがそんな事知ってんだ?」
「簡単だ…俺はお前達よりも早く目覚めたからな。 ある程度の事を把握している。ここまで騎士団の専用運搬自動魂車で運ばれた事、その途中で目覚めて寝たフリをしつつ聞き耳を立てて状況を把握した事、あの『リプス』ってやつの…おそらく『才能』で眠らされた事、そしてあいつらがもう少しで…俺達に『何か』をやらせる事…そんな話をしていたからな」
ジンビスの質問に、シードが淡々と返す
それを聞いて、ジンビスは顔を怒りに染めて大きな声を出す
「フザけんなっ! こんな鉄格子…俺がブチ壊してや
「やめとけ…この鉄格子は『導魂率』が高い素材で出来た鉄格子だ。 武器も何もない状態で、ただソウルを纏った拳で殴っても無意味だぞ」
「んなのやってみなきゃ分かんねー……つーか『導魂率』ってなんだ?」
「確か…『ソウルの流れやすさの度合い』の事だったかしら…? 私達の使う『銃』や『剣』とかはこの『導魂率』の高い素材を使用してるって聞いたことがあるわ… でもそれがどう関係してるの?」
「例えばソウルを纏った拳でこの鉄格子を殴ったとする。 するとソウルが鉄格子に触れた瞬間、ソウルが鉄格子を伝って電撃が発生する。 拳に纏っていたソウルが鉄格子に流れたという事は、当然自分の拳は丸裸になる…つまり、いくらソウルを纏って殴ったとしても最終的には『素手で殴った状態』になるって事だ。 大抵の牢屋の鉄格子はそうなってる。 しかもここは王都の牢屋…導魂率は100%を超えてるだろうな…パーセンテージが高ければ高いほど『ソウルの流れやすさ』は大きくなる。 ただ鉄格子を殴るなんて馬鹿な真似、しない方が賢明だ」
「んなのやってみなきゃ分かんねー…つーか『電撃』っつったか?」
「この鉄格子にそんな機能がついてるのかしら?」
「この『鉄格子に』じゃないがな…上と下をよく見てみな」
シードが言った様に、天井と床を良く見てみる
この牢屋は鉄格子の根元が天井と床に埋め込まれているのだが、その間に、何か『黄色い鉱石』が挟まっている
「あれ…なんだ?」
「あれって確か…『雷魂石』?」
「『魂石』が『ソウルそのものを放出するもの』と『ソウルを流し込んで属性変化させるもの』…あるいはどちらも行えるものがある事ぐらいは知ってるな? あの『雷魂石』は後者の役割を持つ。 鉄格子がソウルを吸収し、『雷魂石』がそのソウルを使って『電撃』を鉄格子に流す…鉄格子に触れてりゃ、それを自分に喰らうのは当然だろうな… 実際、お前達が起きる前に他の捕まってる連中がそうなってたのを聞いたからな」
「マジかよ…なんにもできねーってか…」
「うぅ…とりあえず今は待つしかないわけね… 『出港状』さえあれば…こんな事にならなかったのに…」
「…う…ぅぅん…?」
すると、アレスがむくりと起き出した
寝ぼけまなこで周りを見渡す
「んん…? ここは…?」
「ようやく起きたわねアレス? …寝る時間には個人差があるのかしら…?」
「ソイツがただ単に眠りやすい性格なだけだろ。 シードはメチャクチャ起きるのが早かったしな」
「…確かに個人差があるのかもな。 とにかくここで大人しくしておけ…じきに『何か』がおこる…それまでな」
「…? …『何か』…とは…?」
「さあな…とにかく待っとけ… 武器も何も無いしな」
シードは目を閉じ、あぐらをかいて座り込んだ
…シードの言う通り、特にやる事やれる事もないため、各々静かに落ち着くのだった
しかしすぐに、ミーシャが言葉を出す
「そういえばアレス? あんた、私が『出港状』の事を説明した時に何か言いかけたじゃない? 何を言おうとしてたの?」
「ん〜〜…? ……あぁ……あっ…アレか……『出港状を持ってる』って言おうとしたんだよ……そうだった気がする…」
「………!?? なん…ですって…」
アレスがボ〜…っとしながら答えると、ミーシャが目を見開いてアレスを見る
「今は持ってないけど…あの船に乗った時…なんか『紙』みたいなのがあったから、拾ってあとで見せようとしてたら忘れちゃってて…たしか船の名前とかどこの大陸から来たとか書いてあった気が
「アレス…あんた〜ッ!!」
「ぐぇぇげっぇッ!?」
ミーシャが己の力をありったけ込めて、アレスの首を絞める
「あんたっ…あんたっ!! あんたの持ってるそれをこの大陸の港で見せれば問題なく上陸出来たのにッ!! なんでそんな大事な物を見せるのを忘れるのよッッ!! あんたのせいでこんな所に閉じ込められているのよッ!?」
「ぁぐあっぐるじ…っ!?」
「…ミーシャさん…落ち着いてください… ご主人様が苦しそうです…」
「ミーシャさん…! アレスさんに当っても仕方ないですよ…!? いえ…仕方なくはないですが…というか…アレスさんのせいなのは間違いないんですが…」
「落ち着けミーシャ…良く考えてみろ」
シードが冷静に、座り込んだまま話す
「その『出港状』には、おそらくまともな情報を載せてはないだろう。 その船を用意した『リト』は、俺達がどこに到着するかはある程度予想出来ても断定は出来ない…だから出港した港も到着する港も書かれてはいない…形だけの『出港状』だろうな。 そんな物を見せても怪しまれるだけだ…結果はあまり変わらなかっただろう」
「それでも…それでもこんな牢屋よりかはまだマシよ!! あんたのせいで〜〜っ!!」
「ぐぇぇ…っ苦しぃ…!!」
ワアアァァァァッッッ!!!
「「!!!??」」
ミーシャは我を忘れてアレスの首を絞めるのを、アレスはミーシャに首を絞められて苦しむのを忘れて、その大きな声に驚く
「………始まったか…」
シードは立ち上がり、牢の外を見る
「なんだなんだ!? 何があんだ!?」
「ちょっと…この声は何よ!?」
「うるさっ…! いったい何だ!」
ジンビスもミーシャもアレスも、シードに続き牢の外を見る
すると…
「オォイッ!! こっから出しやがれ!!」
「フザケんな!! ブッ殺してやらぁ!!」
「オレだけ出せ!! コイツらはどうでもいい!! オレだけ出せ!!」
「んだとゴラァッ!? オレも出せ!! ここから出せッ!!」
…よく見ると、アレス達が入れられている牢屋と同じ牢屋が、薄暗い通路伝いに何個も並んでいた
アレス達の牢屋の向かい側からも怒号が聞こえる
今にも鉄格子を破らんとする様な勢いで、鉄格子をガタガタさせている
大体5〜6人程の人物が牢屋に入れられているらしい
その人物達の服装を見る限り、彼らは全員『盗賊』や『犯罪者』のようだ
薄汚くみすぼらしい、いかにも『賊』の様な服を着つつ、更に汚い罵声を牢の外へと浴びせている
「…なんかジンビスみたいなやつらがいっぱいいるなー…」
「本当ね…あいつらジンビスじゃないかしら?」
「…あの人達は…ジンビスさんなんですか…?」
「ジンビス君…? 少しは静かにしないとだめだよ?」
「……テメーら……」
ジンビスは軽く落ち込んでしまう
そんな事を気にする間もなく、より大きな声が牢の外から響く
それよりも更に大きな、聞き慣れた『声』がアレス達に聞こえた
「鎮まれ『犯罪者』共!!」
低めの威圧感を放つ声…この人物は…
「この声…あの『リプス』ってヤローか…!?」
「…一体なんなのかしら…?」
リプスは軽く咳払いし、声を張り上げた
「お前達の『罪状』は大小様々である…が! 『罪』を犯した事には変わりない! そして『罪』には『罰』を与えなければならないのは当然の事…! よってお前達には
「うるせぇっ!! いいから出しやがれ!!」
「俺ぁ食いもん一個盗っただけだぞ!? ンな事でこんなトコに入れてんじゃねぇぞ!!」
「メシはまだかよ!? ハラ減ったぞコラァ!!」
「テメェらふざけんなコラァ! さっさと出せやコラァ!!」
ドシュッ
「ッッギャァァァァッ!!?」
突然鳴り響く男の悲鳴…
辺りが一気に静かになり、叫び声を上げる男が地面を転げ回る音だけが聞こえるようになった
…一体何が起きてるのか…ジンビス達の牢屋の位置では、その出来事を見る事が出来なかった
しかしその『状況』を周りに知らせる様に、リプスが静かに話し始めた
「もう一度だけ言おう… 『罪』を犯した事には変わりない…そして『罪』には『罰』を与えなければならないのは当然の事だ… よってお前達には、『傷』や『死』すらも『罰』に値する。 そしてそれを与える権利は、我々にあるという事を忘れるな。 …そうやって、足に『ナイフ』を投げられて傷付きたくなければ黙っている事だ」
「「「………」」」
もはや、誰も言葉を口にする者は居なかった
「…何? 『ナイフを足に投げて刺した』…ってこと?」
「…どうやら…そうみたいですね…」
「ハッ…! あのエラソーなやつのやりそうな事だぜ…」
「…ジンビス君も気を付けてね?」
「…へいへい…」
小声でミーシャ達が話す
「………」
「……どうしたアレス…?」
アレスが牢屋の外を静かにジ~ッ…っと見ている
シードがアレスにそれを尋ねると、アレスがボソッ…っと言った
「……もうひとり…いる…」
「ようやく静かになったな…それでいい…『犯罪者』はそれでいい」
リプスが吐き捨てる様にそう言うと、今度は何か言っている
「………ええ…この先に………はい…例の子供達が…………分かりました……」
コツッ…コツッ…
石造りの通路に反響する足音…
あのリプスが、奥へ奥へと歩いて行く音だ
「…? あれ…ちょっと…」
「こっちに向かって来てんのか…?」
「そうだな。 しかも…」
ココツツッ……ココツツッ……
「…『2人』…ですね…」
「リプスさんともう1人…一体誰なんでしょう…?」
「…やっぱり…」
ミーシャ達は否が応でも警戒する
あの『王国騎士団剣戟攻戦隊一番隊隊長』と共に来る人物…当然『普通』の人物であるはずが無い
固唾を呑んで身構える
……やがて目の前に現れた人物は、リプス1人だけだった
鉄格子を間に挟んで、対面でリプスは語る
「お前達には雲の上の存在である御方が『会いたい』と言ってこんな所までお越し下さった…失礼の無いようにな」
「うるせーぞテメェ… こんな檻、俺がブチ壊して
「無駄だ。 試しに殴ってみるといい…どうなるか、直ぐに理解出来るだろう」
「…チッ!」
「ハッハッハッ! 『イジワル』はその辺にしといてくれ! 我との話を、出来る限り円滑に進めたいのでな!」
急に大きな声が響いた
その声は、少し高めの元気でしっかりとした声だった
威張る感じでも、威厳のある感じでもなかった
だが、どことなく逆らえないような…まるで王様の様な感じがした
「…誰だテメェ…?」
「『テメェ』だと…!? この御方を何方と心得る…!? 無礼な言動は慎め! この御方は
「そこから先は、我に言わせてもらおう」
そう言ってその声の主は、リプスとジンビス達の前に腕を組んで現れた
年齢はおそらくジンビス達よりも少し上の男性…そして身長も約175センチ後半程でそう高くない
金髪で短髪のトゲトゲした髪で後ろの方に伸びており、さながらライオンの『たてがみ』の様な感じで生えていた
顔立ちはしっかりしており好青年…リプスが彼を『御方』と呼ぶ理由も、彼が気品の漂う顔をしている事が関係しているかもしれない
目は少し大きく、瞳は薄くきれいな『緑色』をしており…見ていると、こちらの全てを見透かされそうな『目』をしていた
体型は少し細めだが、決して華奢ではない
服の下は、鍛えられた体をしているだろう
その服だが、その顔に似合った高貴な雰囲気を纏っていた
黄色と黒と赤を組み合わせた、シンプルで動きやすいながらも気品を失わせる様な真似はしない服だった
黒の十字の縁に黄色を添わせた模様を袖全体と身体の中心と背に伸ばせ、服全体を赤と所々に装飾を散りばめさせた、他では見ない服だった
下は逆に黒一色の長ズボンだが、かなりいい生地を使っているのだろう…激しく動いても決して動きを邪魔しないと着なくても分かるぐらいだった
彼が何者かはこれから告げられるのだが、何も言わなくとも『位が高い』事は一目瞭然だ
そして予想通り、彼が自己紹介を始めた
「初めましてだな! 我の名は『ゴルト・レオンライト』! 第2大陸『サンズバルトル』の三大王家の1つ『レオンライト』の『陸王代理』だ! 以後、よろしく頼むぞ!」
ハッハッハッ!…っと笑いながら、ゴルトは大きめの声で言った
「えっ…ってことは…この人『陸王様』なの!?」
「ハァ!? こんなヤツが『陸王』だってのか!?」
2人が驚くのも無理はない
『陸王』は普通もっと寛大だったり尊大だったりしているはず
「残念だが、我は『陸王代理』だ。 『陸王』ではないが、それに近しい権力は持っているぞ! だが! 我がそう見えなくても問題無い! 何故なら『陸王』ではないのだからな! ハッハッハッ!」
だが彼は…一言で表せば『掴みどころがない』
「それでも出来る事がある…例えば、君達をそこから出させる事ぐらいは、簡単に出来る! …更には逆も、簡単にな…!」
「「……!!」」
妙な迫力と言葉の圧力が感じられ、それだけでも彼が『普通ではない』のが分かった
「…それで?」
そんな言葉に決して怯みもせず、シードが冷静に切り返す
「そんな『陸王さま』がこんな所に何の用だ?」
「………」
リプスがすごい剣幕でシードを睨む
「ハッハッハッ! そう怖い顔をするな! リプスもな! 我はただ…そうだな…『見に来た』だけだ」
「…?」
そう言うとゴルトは、牢屋の中をジロジロと見た
顔を動かしながら目線を次々に移す
ミーシャやジンビス、スイにイェロン…そしてシード
ゴルトの全てを見透かされそうな緑色の目で見つめられる
…そして最終的に、その目はアレスに注がれる
「……??」
アレスのきょとんとした顔をじ~っと見つめるゴルト
(…なんだこいつ…? アレスを見つめて…何が目的だ…?)
シードの疑いの目を受けながら、ゴルトは笑顔
を見せた
「やはり我の思った通りだったな! 我の『目』に狂いは無かった! ハッハッハッ!」
「オイオイ…なんだコイツ… イカれちまったのか…?」
「ゴルト様…! この者を裁く許可を…!」
「大丈夫だリプス! 我は気にしない! それよりも…例の準備を進めておいてくれ! 我はもう少し、彼等と話がしたい」
リプスはゴルトにそう言われて、苦い顔をしながらも頭を下げて『承知しました』と言い、暗い地下牢を去っていった
そしてその場に、アレス達とゴルトだけ残された
「…さて、色々聞きたい事が多くあるだろう…だが! その前にやるべき事がある!」
「…なんだ? こっちはあんたみたいに自己紹介する気はないが」
「こっから出してくれるってんなら話聞いてやってもいいぜ?」
「ちょっとあんた達…! この人『陸王様』でしょ!? 失礼でしょ…!」
「…ですがわたし達に…おそらく『拒否権』はないと思います…」
「ジンビス君…シードさん…ここは大人しくしましょう…?」
「『やるべき事』ってなんだ?」
ゴルトはフッフッフッ…っと静かに笑う
そして一言…こう言った
「風呂に入るとしよう!」
「「「「「「………えっ???」」」」」」
次回『突然のお風呂回 ~第二大陸について~』
忙しすぎて全然進まない…
悔しい…




