それでも前に、ただ進むだけ【終】
「………これは僕達の記憶のほんの一部…それでも理解出来たはずだよ。 僕達がどうしてお互いを理解し合ったのかを」
短い、しかし濃密な過去の話を聞いたシード達は、自然と言葉が出てこなかった
『感想』とか『意見』とか、思っていてもそういった言葉が何も出てこなかった
「僕達は…セイスビークさんと僕は、形は違えど同じ『呪い』に苦しめられた。 セイスビークさんが立ち向かった、『人間と獣人が歪み合う』という『第三大陸に根付く呪い』と…僕の大切な人に刻まれた、『魂を傷付けてその箇所の機能を正常化させなくする』という『魂を傷付ける呪い』… 僕達は…『呪い』に蝕まれた存在なんだ。 だから…お互いの気持ちが理解し合える。 ………そしてあの時の僕達には『力』も『知識』も…そして『権力』も無かった。 でも『今』は違う。 それぞれの持ちうる『力』を最大限利用して…僕達はこの『呪い』を解放するんだ。 …今の僕達なら、それが可能なんだ」
リトは真っ直ぐ、アレスの顔を見た
「君にはきっと理解出来ないだろうね。 『英雄のする事では決して無い』のだから。 だけども君にあれこれ言われる筋合いは…それこそ『無い』よ。 だから君には…君達には、この大陸から離れて欲しい。 いや…ここでそれを断れば…僕の全力を持って、君達を強制的にこの大陸から出て行かせるよ」
「……っ!!」
アレスは改めて感じた
この人物は…自分の憧れた『強さと覚悟を持つ英雄』なのだと…
「心配しなくても…こっちも好きでこの大陸に居続けたいワケじゃないんでね。 すぐに出ていくさ」
たじろぐアレスをかばう様に、シードが割り込む
「だが…聞きたい事も増えちまってね… それを聞いたら行かせてもらうぜ」
ザッ…っと、シードは一歩前に出る
そしてリトの放つ威圧感に負けない様な声で尋ねる
「まずは…さっき聞いた『セイスビークの過去』…それは一体誰があんたに教えたんだ? あんたとセイスビークが手を組むのに…確かに重要で重大な情報だが、そこまで詳細な情報をあんたに教える訳がない…今回の計画みたいにあんだけ単独行動をするなら、そんな過去を教えるなんてマネしないだろう…あんたの『観殺眼』でもそこまでは観れないだろうな… とすると…」
「…察しがいいね。 今の過去話…そこに出てきた『草むらに隠れていた女性』…僕はその人に教えてもらったんだ…『教会』に居た時、『おとぎ話』としてね」
「!? オイ…!」
「まさかそれは…!」
「そう……ハロノラさんの事だよ」
驚くジンビスとイェロンを尻目に、冷静に返すリト
「君達も知っての通り…ハロノラさんは自分の過去や体験、知識を元に創った『物語』を教会の子達に話す事をしている。 それにより、子供達に世の中の情報や生き残る術を分かりやすく、そして最も記憶しやすい『物語』形式で伝えている… 僕はそこで幾つもの『物語』を聞いていた…そして数年前、セイスビークさんと出会ってから理解出来たよ。 あの時聞いた『物語』の1つに、今の話に似た『物語』があった…それが彼の『物語の始まり』だと分かった…だから僕は独自に調べて、彼の過去を知る事が出来た。 …セイスビークさんを…『セイスビーク』という人物がどうやって産まれたのかを」
リトは軽く首を左右に振り、『それについてはそれ以上は何も言う事は無い』という素振りを見せた
「…さて、シード君。 それ以外に聞きたい事はあるかい?」
「………」
シードは口を開きかけた
…何か言おうとしたが、それを止めた
「…いや…もう無いな… とにかく俺達はここで先に行かせてもらおう…あんたにはずいぶん世話になっ
「『呪い』…についてかい?」
突然、リトにそう言われたシードは目を見開いた
「答えてあげるよ。 僕は君の知りたい『呪いの解き方』を知っている」
「!!!」
シードは更に一歩、足を前に出す
「なんっ…!」
不意にそんな事を言われたシードは言葉に詰まる
「ただし…君には決して選べない選択肢だろうけどね」
「どういう意味だ!? 『呪い』は…解けるのか!? 一体どうやって!!?」
「………シード?」
いつもは冷静沈着で熱くなる事はそうそう無いはずであるシードが、ここまで慌てて食い入るのは珍しい
アレスの声で、シードはそこでハッとする
「「「「???」」」」
ミーシャやジンビス達も、一体シードがどうしてそこまで慌てているのか不思議がっている
自分に向けられている視線や感情…それを感じ取ったのか、落ち着きを取り戻す
「………」
自然とかいていた冷や汗をぬぐうシード
そこへリトが話を続ける
「…僕は彼女の『呪い』を…解こうとした… だけども出来なかった。 解き方を知っていても、それを『する』『しない』以前に『出来なかった』。 でも…今の君達になら『する』事は出来る…でもそれを『選ぶ』事は絶対に『しない』だろうね」
「!!?」
シードは困惑した
リトの言っている意味が、正直全く理解出来なかった
だが、更にシードを惑わせる様にリトは語る
「今、この場で君にそれを教えてもいい…『呪いの解き方』をね。 でも…この広い世界には、他にも『呪いの解き方』があるかも知れない… それを探すのも、君の旅の目的の1つになるはずだ。 …どうするんだい? ここで…『君の本当の意味での旅を終わらせる』か…『終わらないかも知れない旅をこのまま続ける』か………どっちが君の『答え』だい?」
「っ………!」
シードは目線を斜め下へと向ける
歯ぎしりをしながら、思考を巡らせている
だが、リトはそんなシードに考える時間を与えない
「…さて、そろそろ『時間』だよ。 もうすぐここにも騎士がやって来る。 君達がここに居るのを見られたら、僕でも言い訳が立たない… その『転送魂機』に入り、転送先である雑木林を抜けた先にある海に停めてある『魂機船』に乗って、隣の大陸まで行って欲しい。 ……僕の気が変わらない内にね」
リトが一瞬だけ放った『氣』…それはその言葉が本気だと言っていた
『従わなければ手段を選ばない』
そういう意味である
アレス達に選択肢は無かった
「…もちろんそうさせてもらいます…! スイちゃん…行くわよ…!」
「…了解です……!」
ミーシャとスイはかけ足で『転送魂機』に入る
シュオォンッ!
…軽く音を出したのち、緑色の閃光を放って一瞬にして2人の姿が消えた
「チッ…! 行くしかねーのか…! 行くぞイェロン…!」
「うん…! 他に選択肢は無いみたいね…ジンビス君…!」
ジンビスとイェロンもかけ足で『転送魂機』に入る
シュオォンッ!
同じく一瞬にして2人の姿が消える
それを見届けたリトは、目の前に居る2人にも呼びかける
「さぁ、君達も急いで
「俺……諦めないから…!」
今度はアレスが真っ直ぐリトを見た
その目は…『決意』に満ちていた
「俺…今はまだ足りないかもしれないけど…いつか絶対なってみせるから…!」
アレスはもう、迷っていなかった
この大陸に訪れて知った、憧れた『英雄』の本当の姿…
望まれるものでも望むものでも無い、『英雄』の本当の意味…
持つ者に齎される、『英雄』の本当の苦悩…
それらを知り、それでもなお憧れる
「どれだけ『英雄』がつらくても…どれだけ『英雄』が重くても…! それでも俺…絶対に『ヒーロー』になってみせる!! 誰かを守れるために…誰かを救えるために…俺は…『ヒーロー』にならなくちゃならないんだ!!」
そしてアレスは右手でビシッ!…っと、リトを指差した
「『英雄リト』…! 俺は…あなたにはまだ何も言うことは出来ない…けど! 俺がいつか『ヒーロー』と呼ばれるようになった時! 俺は必ず言ってみせる!! 『それでもあんたは間違っている』って!!」
「………それは……君自身の『意思』かい? それとも君の両親
「誰かに言われて『英雄』になりたい訳じゃない! 俺は俺の『意志』で! 『英雄』になるって決めたんだ!! それまで…それまで絶対…諦めない!!」
そう言い放つと、アレスは後ろを振り向いて走って行った
そして『転送魂機』の中へと入って行った
シュオォンッ!
……やがてアレスの姿も消え、そこにはシードとリトが残された
「………悪いな…俺のツレの未来の『英雄』が生意気言っちまってね…」
シードは後ろを振り向き、ゆっくりと『転送魂機』まで歩いて行く
「あんたの事だ…俺がもしも『呪いの解き方』を聞いたとしても、その方法を俺が絶対選ばないと予想していたんだろう? そうじゃなきゃ…あんたがすでに現在においてそれを行っているはずだからな… 『出来なかった』…つまり、過去にそれが出来なかった…今も『出来なかった』なら、その言葉は『出来ない』と言い変わるはずだからな… 自分の私利私欲のために大陸に戦争を引き起こそうとするあんたですらやらない方法を…俺が選択する訳がない…だから初めから、『呪いの解き方』を教えるつもりもなく旅を再開させるつもりだった。 …自分じゃ見つけられなかった、別の『呪いの解き方』を見つけてほしいために」
「………」
リトは何も言わなかった
それは『事実』であるという事を物語っていた
「…それを見つけながら、俺は隣で見守る事にするぜ。 あいつが『英雄』になる瞬間を、この目でな」
シュオォンッ!
そう言って『転送魂機』に入ると、シードも同じく一瞬で姿が消えた
「………」
その様子を、リトは静かに見送っていた
(そう…今はそれでいい…)
(何も知らず…何も考えず…)
(それでも確実に…一歩ずつ前に進み…)
(そして手に入れたい『もの』を…その手に掴むんだ…)
(苦難も困難も…痛みも苦しみも…挫折も絶望も…全て味わいながら…)
(それでも…)
(夢も希望も…喜びも楽しみも…絆も愛も…全て抱きながら…)
(それでも前に、ただ進むだけ)
(それが『今』の君が出来る)
(『英雄』になるための方法なのだから)
サークルワールド HERO ~一期一会編~ 第十章
人間失格 最終話
それでも前に、ただ進むだけ【終】
「全て…貴方の計画通りですかな…? 博士?」
続
次が第十章の最終話です
最終話ってなってますけど、そういう演出です




