失意と決意の記録と記憶【始】
「くそッ……!! くそォッ……!! 許さない…決して…!! お前達を……赦しはしないッッ!!」
一人の男の声が、燃え盛る『炎』の中から響き渡る
低く、若々しいが、堂々とした声だった
「私は…! 私はッ…!! お前達を殺しはしないッ……」
男の顔には、溢れる程の涙が―――
そして男の腕には、血まみれになった女性が―――
三度、男は叫ぶ
「私は…私は必ずッ……!! 生き延びてみせるッ…!! そしてお前達に『復讐』を果たすッ!! 必ずだ……必ず…」
「お前達が自らの『心臓』をその短剣で貫きたくなる程の『絶望』と『後悔』をッ…!! 私が必ずその『脳』に…焼き付けてやるッッッ!!!」
―――― 36年前 ――――
夜
周りが一切見えない、漆黒の夜
その『女性』は、姿勢を低くして草むらに隠れていた
なぜそんな事をしているのか…
それは自分の見知った屋敷が燃えていたからだ
そしてその屋敷の入口前に、自分の見知った男と見知らぬ男達が居たからだ
屋敷は普通の一軒家を横に3軒並べた程の大きさ
決して大きすぎるわけでも小さすぎるわけでも無い
それでもおそらく立派な佇まいだっただろう
…今はそれが真っ赤に燃えており、外観は一切分からなくなっていた
『女性』の風貌はかなり清楚
どこかの屋敷のお嬢様…そんな感じの白いネグリジェを着ていた
髪は肩まで伸びた黒髪のストレート
身長は160センチ手前…
顔は暗くて良く見えない
しかしその目はどこを見ているのか…それはすぐに分かった
『男達』の風貌はかなり整っている
どこかの貴族だろうか…そんな感じの黒いフロックコートや緑色のジュストコールを着ていた
そして全員が『獣人』だった
犬…猫…熊…ざっと見ただけでも10人程度は居る
不気味に微笑む顔が、炎に照らされ良く見えた
「何故…!!」
その微笑む男達の顔は、一人の『男』に向いていた
「何故…! こんな事をッ…!?」
「私を……私をッ! 直接…襲えばよいだろう…ッ!!?」
低く、若々しい、堂々とした声で叫ぶ男…
見た目は20才前後で170センチ程の身長
ツーブロックの短めの黒髪である
白いワイシャツと黒いスーツのズボンをはいている
凛々しい顔立ちで眉毛は細い
…だが炎に照らされてよく見えるその顔も、今は涙でひどくグチャグチャになっている
それでも感じる
彼が、『怒り』『憎しみ』『怨み』『疑問』『困惑』…あらゆる『負の感情』を持っているのを
…その表情から、簡単に感じる事が出来た
そして彼の服装は血にまみれていた
だが彼の体にはキズ1つ無い
衣服に付着したその『血』が誰のものなのか…
彼の抱きかかえる人物の血である事がすぐに分かった
「『彼女』を…『彼女』をッ…!! 『アイナ』を傷付ける理由は…! 獣人である貴方達には無いはずだろうッ…!? 何故ッ……こんな事を……!!」
『彼』が抱きかかえる人物…
それはとても美しい『女性』だった
金髪の腰上まで伸びたロングストレート
とても苦しそうな顔をしているが、顔のパーツが全て整っており綺麗な顔をしている
瞳の色は一瞬見ただけでも見惚れる澄んだ水色である
年齢は若い…おそらく『彼』より年下だろう
倒れているため正確な身長は分からないがそれほど高身長ではなく、約160センチの比較的小柄な女性だった
服装は薄い生地の白いワンピース型のネグリジェ
…今はもう、真っ赤に染まっているが
「………」
『アイナ』と呼ばれた女性は、とても小さく呼吸をしている
呼吸をしているのかどうか分からないほどに
それでも生きている
必死に、『生』にしがみつく様に
「アイナ…! アイナ…!! あぁ……どうして…こんな…!」
彼はアイナを抱きかかえ、彼女の『腹部』を押さえている
そこから溢れ出る大量の血…
止めようとするが止めきれない
傍らには…刃渡り30センチ程の大きな『ナイフ』が落ちていた
その刃が血で染められたナイフを見れば、誰が見てもそれがアイナに突き刺さっていたと分かるだろう
「あぁ…! だめだ…頼む…! 死ぬな…死なないでくれッ…!!」
「安心して下さいセイスビーク殿…?」
獣人の一人が、少し低めの声で男に語り掛ける
『犬の獣人』…茶色の短い毛で顔が覆われた、中年男性だった
おそらく獣人達のリーダーだろう…かなり威厳のある風貌だ
「貴方も…『彼女』と同じ所に直ぐに連れて行きますから…」
「何故…何故ッ…アイナを傷付けたッ! 彼女は貴方達と同じッ………『獣人』なのだぞッ!!?」
「それは……貴方のせいなのですよ…?」
「!? どういう意味…だ…!?」
獣人達はニヤニヤと笑う
『彼』に…『セイスビーク』に見せ付ける様に
「貴方の『発言力』は強すぎるのですよ…? 貴方は自身の『言葉の力』の強さを自覚していますか? 貴方の言った『政策』や『提案』は全て通る…これが如何に難しい事か、貴方は分かりませんか? 我々の意見は全て却下…代わりに貴方の意見が全て問題無く通される… つまり…『獣人ではなく人間に有利な政治に向かって行く』…そう言う意味なのですよ」
「ッ……私はそんなつもりは…決して無いッ! 貴方達と…『獣人の全て』とッ…! 対等で友好的な関係を築き上げたいだけだ…! 何故…たったそれだけで…それは貴方達の『偏見』だ…!」
「いいえ…例え貴方がそのつもりであっても、『結果』がそれを証明している… 現に貴方との間に結ばれた『条約』は、全て貴方の意見を尊重されている」
「貴方達はそれで納得されたはず…! 獣人側に送る物資や不戦協定…交易品の金額設定も低くしている…! 私は真剣に貴方達『獣人』と手を取り合って行こうと思っているッ…! なのに…何故貴方達は…!」
「それが問題なのですよ。 貴方の熱意は素晴らしい…『獣人』である我々も、その熱意には感激する程だ… だが、貴方自身は違う… 貴方の『言葉』には『力』がありすぎる。 もしも今、『獣人』と『人間』との間に友好的な関係が築けたとしても…いつかは貴方の考えと行動に不満を持つ者が現れる。 それ以上に、『何故人間に政治の主導権を握られているのか』と…我々ではなく『獣人』がそう思う時代がやってくるだろう。 その時…貴方の『発言力が強すぎる』という『才能』を、誰もが忌み嫌い鬱陶しく思うだろう」
「…!! 私の『才能』を…忌み嫌い鬱陶しく…!? 私にはそんな『才能』も…そう思われる理由も無い…!」
「貴方はそうでも…『この大陸そのもの』はそれを肯定するでしょう…」
「!!?」
「簡単に言いましょう…」
「貴方が『和平』を望んでも」
「それを誰も望んでいない。」
「……!!!」
「貴方がどれほど声を荒げても、『人間』と『獣人』の『和平』と『平和』は実現出来ません… 何故ならそれを望む者は一人も居ないのですから…」
「…っ……私は…それでも…!」
「だからこそ…『そう』なっているのですよ」
「……………」
「私の……私のせいで……アイナが…」
「そう…」
「我々はこの第三大陸『リーバイド』の『獣人王国政府』の獣人… そして貴方は『人間王国政府』の人間… 相容れぬ我々が、貴方の言葉で接触した…貴方自身が『両国和平団体』などと名乗り、数名の人間を引き連れてこの数ヶ月の間…我々との会議によって政策の方針を決めていた… だが締結された条約の、そのほとんどが貴方の発言によるもの…不思議と、貴方の言葉には逆らえず無意識の内に従ってしまう… それが原因なのか、貴方の引き連れてきた者達を含めた、貴方以外の者全てがそれを望んでいなかった… そうでしょう…? セイスビーク殿…?」
「…っ……」
『彼』は…セイスビークは黙ってしまう
それが紛れもない『事実』だからだ
「若くしてその地位まで登りつめたその手腕は認めましょう…ですが、それが認められる世の中ではない事は…理解しているでしょう…?」
「………私は……何よりも……」
「大丈夫です……セイスビーク様……」
不意に、優しく暖かい…柔らかな声が聞こえた
「…!! アイナ…!」
「例え……この大陸の…全ての『人』が敵であっても……私だけは……セイスビーク様の味方です……」
「アイナっ…アイナ…! もういい…それ以上…喋るな…!」
「いいえ……私の…最後の言葉だけは……セイスビーク様に…お伝えしなくては…なりませんから……」
アイナは言葉を絞り出す様にして喋る
溢れ出る血液と震えるその身体から、今から治療出来なければもう助からないとセイスビーク自身も理解している
だからこそ…それを認めたくないとする気持ちと、相反するようにそれを聞かなければならない気持ちがせめぎ合い、セイスビークは結果として『唇を噛みしめながら黙る』事しか出来なかった
「私…は……ずっと…セイスビーク様のお傍に居ました………それは…他ならぬ……貴方の優しさに……私は…好きになったからです………」
「アイナっ……アイナぁ…っ…!!」
今にも消えてしまいそうなか細い声で、セイスビークに話すアイナ
すると、先ほどセイスビークに話していた犬の獣人に、一人の『猫の獣人』が近づく
同じく顔が毛で覆われた獣人…黒い猫である
小声で何かを囁いた
「…どうしますか?」
「…彼女も『獣人』だ… 最後の時ぐらいは…我々も慈悲を与えても文句は言われまい… それに、だ…」
「目の前で最愛の者が死す瞬間を見た時の『絶望感』を味わいながら死ぬのが、彼にとっての『最後』に相応しいだろう」
…獣人達は、薄ら笑みを浮かべていた
「………セイスビーク様……どうか……許して下さい………」
「!?? …一体…何をだ…?」
「彼らを……あの人達を……『獣人そのもの』を……」
「!!! 君は…! 君は私に…『許せ』と言うのかっ…!? 君に…君にこんな事をした彼らを…『許せ』と言うのか!?」
「………どこかで……どこかで『断ち切る必要』があるのです…… この『憎しみ』を…… この……『呪い』を……」
「私で………『最後』にして下さい…… 私の『死』で……この『呪い』を断ち切って下さい…… 今……セイスビーク様が彼らを許せば……きっと…『明日』へ繋がるはずです……」
「互いを憎しみ合うこの『呪い』を……『人間』と『獣人』に別れてしまったこの大陸を…… 私の…『死』を…『許す』事で……『呪い』を断ち切って…もう一度繋いで……紡いで下さい…!」
「……!! 君は…そこまで…」
セイスビークとアイナの目には涙が浮かぶ
ここでセイスビークが、獣人の彼等がアイナにした『所業』を許す事が出来れば…彼女の『死』を無かった事にすれば…手を取り合う事が出来るかもしれない
あくまで…可能性だが…
セイスビークが…笑顔で話し合おうと手を伸ばせば…彼等も友好的に接するかもしれない…
…だが…それは…
「セイスビーク様……どうか……どうか……彼らを………獣人を……………」
「…アイナッ……!! アイナ……ッ……!」
「私達の……………望んだ…………世界………を……………」
「―――――――――――ッッッッッ!!!!!」
声にならない叫びとは、正にこの事だろう
セイスビークの表情は、哀しみと愛…そしてそれを押し殺す様な『怒り』を現していた
目には溢れる程の涙…セイスビークは後にも先にも、これほどの表情は見せなかった
血にまみれた彼女を抱きかかえ、彼女の最後の言葉を思い出す
そこに彼等が歩み寄る
「安心して下さい…セイスビーク殿… 貴方も直ぐ…彼女と同じ場所にお連れしますよ…我々がね」
セイスビークが…笑顔で話し合おうと手を伸ばせば…彼等も友好的に接するかもしれない…
…だが…それは…
彼等にその気があればの話だが
「……………すまない………アイナ………」
セイスビークは出来なかった
「私には………出来ない………」
「?? 何か言いましたか?」
許せなかった
「私は……『許す』事は出来ない………」
赦せなかった
「私は……君を…君をこんな目に合わせた彼らを………赦せない………」
だがそれでも、その手を血で染める事はしない
「ここで手を……『獣人』ごときの血で手を汚す事はしない………」
セイスビークは『声』を出す
「私は……ここで死ぬ訳にはいかない……ッ!!」
セイスビークは『怒り』を見せる
「私は……生きて……! アイナの仇を討つ…ッ!!」
セイスビークは『決意』する
「私は……!! お前達『獣人』に……必ず『復讐』するッッ…!!」
セイスビークは叫ぶ
「くそッ……!! くそォッ……!! 許さない…決して…!! お前達を……赦しはしないッッ!!」
一人の男の声が、燃え盛る『炎』の中から響き渡る
低く、若々しいが、堂々とした声だった
「私は…! 私はッ…!! お前達を殺しはしないッ……」
男の顔には、溢れる程の涙が―――
そして男の腕には、血まみれになった女性が―――
三度、男は叫ぶ
「私は…私は必ずッ……!! 生き延びてみせるッ…!! そしてお前達に『復讐』を果たすッ!! 必ずだ……必ず…」
「お前達が自らの『心臓』をその短剣で貫きたくなる程の『絶望』と『後悔』をッ…!! 私が必ずその『脳』に…焼き付けてやるッッッ!!!」
翌日
セイスビークの住む屋敷は街の郊外に建てられている
時間も夜中だったために、燃え盛る炎に周辺住民も騎士も気づかなかった
…しかしその明け方、『屋敷が燃えた』という一件の匿名の通報があった
それを聞き、騎士が屋敷を確認しに行くと…
黒く燃え尽きたセイスビーク邸と、その前に倒れている10名程度の獣人が、その手に短剣を持ち、自らの心臓にそれを突き刺している死体があった
そしてそこに、その屋敷の主である条王寺セイスビークは居なかった
彼が再び世間にその姿を現した時には…
既に彼は『陸王』と呼ばれていた
―――― 23年前 ――――
「僕は……君を守れるようになるために……! 力を…手に入れたのに…!!」
「ふっ…何を言うておる… ぬしの力なぞ…わらわの足元にもおよばぬではないか…?」
暗闇
微かに周囲が見える、暗き空間
そこには、2人の若き男女が存在した
男性はしゃがんで、倒れている女性を抱きかかえている
その女性は仰向けに床に倒れ、腹部から血を流している
大きな刃物で突き刺された様な傷を負い、決して少なくはない血が溢れている
男性はおよそ15〜16才
身長もそれほど高くない
髪型はナチュラルなショートヘアーで色は黒髪、細めの眉毛に穏やかな目をしている
全体的に細めの体型で筋肉もさほど付いておらず、優しそうな雰囲気を纏っている
しかし身なりはかなり乱れている
彼の着る白い長袖のフード付きのパーカー…それが血にまみれていた
血だけではない…所々、服が切られている箇所もあった
それだけで、何か激しい『戦闘があった』のだと分かる
彼の着る紺色の半ズボンから下…膝から下にかけても、切り傷や青アザが数ヶ所あった
「うぅぅ……ごめん… それでも…それでも僕が…君を守るって…決めてたのに… 僕の…僕のせいで…!」
「本当に…本当にごめん………リュリュ…!!」
今にも消えてしまいたいと感じさせるほどの、悲しみと後悔に染まった声を出す少年
「…これぐらいの傷…平気じゃ… こんな傷…『治癒魂術』を使えばすぐに治せるぞ…」
彼女の名は『リュリュ』らしい
『狐』の『獣人』であるリュリュは、頭頂部に生えた少し大きめの獣耳と腰下まで伸びた鮮やかな黄色のロングストレートの髪を持っていた
更に腰から生やした『九つの長い尻尾』と相まって、『妖しさ』と『美しさ』を持つ少女だ
年も少年と変わらない15〜16才程度
身長もそれほど高くない
しかし…『胸』だけは年齢と比例してなかった
『D』は軽く超えている
そして彼女は『狐』になぞらえてなのかないのか、『巫女服』の様な和服を着ている
白と赤を基調にした巫女服…しかし袴は短めで、膝ぐらいまでの長さのスカートに似ていた
しかしその服も今は真っ赤に染まっている
少年の服に付く血は、間違いなく彼女の血だろう
『リュリュ』と呼ばれた少女は、右手を腹部の傷口にあてがう
コオォォッ…っと、淡い白い光が手のひらから放たれ、傷口を覆っていく
すると…徐々に徐々にだが、傷口が塞がっていく
よく見ると、その傷も大したものではなかった
鋭い大きな刃物で突き刺された様な傷だが、傷口が鮮やか過ぎた
高速で包丁の様な刃物が肉体を一瞬で貫き、逆にそれ以外の余計な傷が無かった
むしろ言い換えれば………外傷となる傷以外に、何か別の場所に傷を付けた様な…そんなあっさりとした傷だった
「傷自体は問題ない……じゃが……」
リュリュは見た目に反してもっと幼い、8才ぐらいの高めの声で少年に話しかける
「この傷………ぬしなら分かるじゃろう…?」
「………『呪い』がどこに作用するか………僕には………」
「わらわも覚悟しておる……ハッキリ答えるといい……」
「………傷の場所は…腹部の下あたり……『呪い』の影響があるとしたら………」
「………おそらく『子宮』じゃな……」
「……!! ………もう……僕たちの……『夢』は………」
「……そんな顔をするでない……『生きている』だけでよいではないか………」
「…違う……違うんだ…!! 僕の…僕のせいで…リュリュが傷ついた事も……僕たちが望んだ『未来』を……僕のせいで…!!」
「何を言う……この戦いを…これしきの傷だけですんだのじゃ……これ以上…何を望む…?」
「これしきって…!」
「『生きて帰る』………あの口うるさいばぁばとの約束じゃろう…? この戦い…正直…ぬしが死んでもおかしくなかったじゃろう…? まあ…わらわが死ぬことはないじゃろうが…」
「それでも…! それでも君が……僕をかばったから君が傷ついた…!! 僕のせいで…! 僕の……」
「………」
泣き、崩れる少年
目には大粒の涙…それがこぼれ、床に落ちる
リュリュはそれを優しき目で見ていた
おそらく…『少年に向けて放たれた刃の攻撃を、リュリュがかばい傷つき倒れた』…そういう状況なのだろう
それを少年は悔い、リュリュはそれを受け止めている
『呪い』の正体を理解した上で
「……『呪い』により傷つけられた『魂』は元通りにはならん… この傷ならばなんとか治るが…『肉体の魂』が傷つけられたのならば…それは元通りには一生ならん… 正常な機能で働かなくなる…それはぬしも知っておるじゃろう…? 『子宮の魂』が傷つけば…もう2度と子は産めぬ身体になるじゃろう…」
「……そう…だよ…そうなんだよ…! だから…僕たちの『未来』が
「無くなりはせん…」
「わらわ達の『未来』が…『夢』が…無くなってしまってもじゃ………この『世界の未来』はこうして守れたのじゃ…! それを誇らぬか…!」
「………っ!!」
「わらわ達は…何のためにここまで来て…何のために戦ったのじゃ…! それを思い出さぬか…! 犠牲のない平和は存在せぬ…わらわのこの傷だけで…誰も犠牲にはなっておらぬ…! それを喜ばぬか…!」
「………」
「それにまだ……終わっておらぬ… 泣いておる場合ではないぞ…!」
「………そうだね…そのとおり……だよ…」
「…ならば…行くぞ…… わらわ達に…止まっておる時間は存在せぬ…!」
「…行こう…リュリュ……… みんなの………トレスの所に行こう………」
まだ傷が完全には癒えていないリュリュを、少年は抱き起こして背負う
「ぬぐっ…! んん…っ!」
「…わらわは軽いぞ…? おんぶごときで…そう力まれても困る…」
「ぼ…くも…結構…疲れているから…! た…体力が…」
「無理するでない…」
「だい…じょうぶ…! 行かなきゃ…いけないから…! リュリュを…ここに残していくことなんて…それこそ出来ないから…ね…!」
「………やはり…ぬしは優しいの……リトよ………」
やがてこの少年…『リト』は、この数年後に『会社』を立ち上げる
その名を『バイオレット社』…現在では世界的に有名な会社として存在している
リトは自らの『能力』と『才能』を活かした、最も適切な『選択』をした
自らの『夢』と『望み』を確実に叶えられる、最も合理的で合法的な最善手を選んだ
表向きは『魂機研究開発会社』として…
裏では…自分とリュリュとの子を造るための『遺伝子研究』を行う機関として…
―――この手記を書くのも これが最後だろう
私は 後悔していない
これが この結果が この結末が
他ならぬ『私自身』が望んだことだ
『陸王』と呼ばれる地位も
『畏怖』される力も
『尊敬』される事がなくとも
それでも 止まりは しない
『あの夜』を 私は忘れない
私はあの『復讐』を 必ず実現する
たとえ
『彼女が最も望まない世界だったとしても』




