答え合わせ【解】
「………」
リトの表情は一切変わらなかった
シードが言った『答え合わせをしてくれ』…に対して、何を言っているのか分からないという疑問の表情から何も変わらなかった
はっきり言って、全く感情が読めない
『何を言っているのか分からない』と思っているのだが、それでも『そう思っているのかどうか分からない』という矛盾した感じが読み取れた
そんなリトに対して、シードは真剣な顔と声で尋問じみた『答え合わせ』をする
「…まず俺があんたを『怪しい』と思ったのは…一番最初のあんたの発言だ」
「…! そんな所から…!?」
「…一番最初の発言…とは…?」
シードはミーシャ達に言い聞かせた
『ああ…問題無いよ。 ただし…僕は『研究者』。 答えにくい情報や知らない情報…自分が不利益になる情報も勿論ある。 それについては答えられないし言葉を濁す事もある…そこは了承してくれ』
「…それのどこが『怪しい』のよ? 普通でしょ…?」
「…とくにおかしい所は…ありませんね…」
「「………」」
シードが指摘した言葉にミーシャやスイは何も気に留めなかったが…ジンビスとイェロンはそうではなかった
「…確かに…今考えれば少しおかしいですね…」
「確かにな…俺でもそう思うぜ」
「?? 何でよ…? だって秘密にしたい事なんて普通にあるじゃない? それを言っておかしいのかしら?」
「…研究者の方なら…それは普通のことですよ…? わたし達も…一度そういう人に会ったことがあります…」
「テメーらこそ何言ってんだ? 俺達じゃ分からねーじゃねーか」
イェロンはいたって真面目で、ミーシャ達に尋ねる様に言った
「だって…私達には『嘘』をついているのかどうか分からないんですから。 その言葉は、普通指摘された時に言う言葉ではありませんか?」
「あっ…!!」
「…それは…!」
ミーシャ達はハッとした
その時に気付いたのだ
「確かにその通りだ。 あんたのその言葉を言い換えれば、『言いにくい事もあるから言わない事もあるし嘘も言う事がある』…という事だ。 だがな…それは普通、『どうして言わないのか』とか『どうして嘘を言うのか』と俺達が言った時に言う言葉だ。 会話の一番最初に言う言葉じゃない。 それを言った理由は一つ…あんたは知っていたんだ。 俺達には嘘を見破れる方法があるのを、あんたは知っていたんだ。 だから先にそう言った…途中や最後に『嘘』を指摘されたとしても、『嘘』を見抜かれたとしても、それがそういった理由があってついた『嘘』だという…『あらかじめの予防策』として…」
そう…
シードを含めたミーシャとスイの3人は知っている
『アレスには嘘を見破れる力がある』という事を…
だからこそ、『嘘を見破れる』が普通なのだと思っていた
『嘘を見破れる』が当たり前だと思っていた
それゆえに、リトの言葉に対して何も疑問を持たなかった
そもそもだが…あの状況でそういった『言葉』を追求したり質問したり気に留めたりなんてしないし出来ない
しかしシードはこれを聞き逃さなかった
その言葉があったからこそ、シードはリトを疑い始めたのだ
「えっ…!? そんな…『嘘を見破れる』事が出来るんですか…!?」
「オイオイ…んな事ホントに出来んのか?」
「ええ…本当よ… 実はアレスには
「ミーシャ、それは後にしとけ」
説明しようとしたミーシャを止めるシード
「今は…こっちが先だ」
シードは目線をリトへと向ける
「………」
「俺達は過去に、あんたと同じ『研究者』に会っている。 その時にも同じ事を言われた… だがそれは…なぜ嘘を言ったのか指摘したから言われた事だ。 あんたみたいに事前に言っていた言葉じゃない」
シード達は過去に『ユゥカ・アラクネア』という『研究者』と会っている
『王国騎士団』の団の1つである研究開発特化騎士団『魂理工学隊』の団長であり『聖騎士』である
その時に、こう言われたのだ
『どれが嘘かは今はいい… それよりユゥカ、あんた…何で俺達に嘘をついたんだ…?』
『…当然よ。 いくら陸王様の命令だとはいえ、情報を無償で提供する訳無いわ。 私は一人の『騎士団団長』であると共に『科学者』よ。 自分の実験データや研究成果を他人に無償で提供したりしないわ。 そこには必ず『見返り』を求めるの。 つまり、等価交換よ』
『スイちゃんの事を調べたかったのは事実…だから私は『スイちゃんの検査データ』と、『それに見合う情報』を、貴方達にあげたの。 貴方達には『真実の情報』と、それを補完する様な『嘘の情報』を織り混ぜた情報を。 陸王様の命令でも、これ以上の情報はあげられないわ。 諦めてちょうだい』
「…俺はあの時、その『研究者』から『意地』だとか『わがまま』とかそういった小さなものを感じなかった。 『研究者』だからこそ持つ『信念』…それを俺は感じた。 だが…あんたはどうだ? あんたには確かに『信念』がある…俺達には教えてない『目的』もな…それでも、それが俺達に情報を教える理由にはならない。 『等価交換』が成立していないからだ…」
「じゃ…じゃあ…リトさんはどうして…!?」
「そこで『答え合わせ』の1つ目だ。 『紫村リトが俺達に情報を与えた理由』…それは『俺達がこの大陸から逃げるための理由作り』じゃないかと俺は予想した」
「!!? どーいう事だ!?」
シードは静かに語り始める
「リトは初めから俺達を逃がすつもりだった…これはおそらく間違いない。 だが…それを思い立ったのは俺達が教会に泊まっている3日間の内にそうしようと思ったんだろう」
「!?? どうして…そう思うのですか…!?」
「当初の『計画』では…教会に居るお前達と他大陸からの旅行者を『始末』する計画だった…だが、その旅行者が『アレス達』だったのは『予想外』だったんだろう。 そしてそれを知ったのは…俺達が教会に泊まっている時にあんたが受け取った『定期的な連絡』で知ったはずだ。 そもそもだ…俺達が教会に滞在したのは『3日』…教会に滞在する事になったのは『ハロノラさん』がそう決めた事だが、『3日』という日数を決めたのは誰だという疑問がある。 ハロノラさんがその日数を決めてもおかしくはない…が、もしもそれが今回の『計画』を発動する準備期間だったとしたら…納得がいく。 もしくは…あんたも『あの場』に居たのか…? あくまで、俺の予想だがな」
シードは更に語りを続ける
「…とにかく、あんたは『暁アレス』という人物が誰か知った時、この『計画』で殺してしまうのはマズイと思ったはずだ。 だから最終的に逃がす事にした。 『計画』の『表向きには殺す予定だが実際には逃がす教会居住者と、本当に殺す予定の旅行者』から、『表向きには殺す予定だが実際には逃がす教会居住者と、逃さざるを得ない旅行者』に計画を変更してしまう。 そして…その旅行者を逃がすために、できるだけ多くの与えても問題ないような情報を教えて、逃しやすい環境を作ったんだ。 …例えばその時、逆に何も教えなかったら…? 今までの会話で…あんたははっきりと『俺達を逃がす理由はこれだ』と言ったか? 結局の所、正確な理由は一度も言っていない。 俺達をここに呼んでいきなり『逃がす』なんて言ったら、俺達は混乱した上で説明を求めるだろうな…そうなると、俺達を逃がす理由をはっきりと言わなければならない。 あんたはそれを恐れた。 だからこそ、『今回の計画』『軌道修正した計画』『自分の過去』『セイスビークの才能』…知られても別に問題ない情報を俺達に与え、『逃がす理由』を追求されるのを回避した。 実際、俺達はそのままこの大陸を去ろうとした…それがあんたが『話』した理由…『俺達に様々な情報を与えた理由』だと予想した…どうだ? 合っているか?」
「ちょっ…ちょっと待ってよシード!?」
ミーシャが慌てて話に割り込む
「どうしてそんな事を…リトさんはどうしてそこまでして『逃がす理由』を知られたくなかったのかしら…!?」
「それについてだが…俺もある程度は予想している… これも『答え合わせ』してもらおうか」
シードは『答え合わせ』を再開する
「おそらくそれは直接『英雄』に関わる事だからだ。 詳しくは言えないが…あえて言うなら『アレスはとある理由で極端に英雄に憧れている』。 その理由を、あんたも知っている。 だからこそ、ここでアレスを殺す事はその『理由』に直接関わっているはずなんだ…それこそ、あんたの『命』にも関わってくる。 …深く追求されるのを恐れたんだろう…『アレスを殺す』事は、『彼らを怒らせる事』になるからな…」
「……??」
シードはある程度言葉を濁した
それはリトと同じ理由だろう
…つまり、アレスが英雄の息子である事を誰にも知られたく無い
そしてアレスに何かあったら、アレスの両親である『英雄』が黙っていないだろう
…リトはそれを恐れていると、シードは予想した
それを裏付ける様に、リトの目線が一瞬だけシードから逸らされた
(……やっぱりそうか……)
シードはそれを見逃さなかった
それはつまり、これが『答え』である事を意味していた
「『逃がす理由』は『アレスとその仲間達を殺したくないから』…その理由は『英雄と直接関係しているから』…それを深く追求されないためにも、『情報』をある程度犠牲にしてそれを回避した…反論がなければそういう事と受け取っていいんだな…? …なら…次に
「ま…待って下さいシードさん…!」
次の『答え合わせ』に入ろうとするシードに、イェロンが止めに入る
「仮に…仮にそれが『真実』だとして…それは私達には関係ないはずですよね…!?」
「イェロンの言う通りだ…そいつぁ俺達には関係ねー…なのに…なんで俺達まで逃されなきゃならねーんだ…?」
ジンビスの言っている事は正しい
それはあくまで『アレス達は』そうであっても『ジンビス達には』関係が無い
ジンビスとイェロンを他大陸まで逃がす必要は無いはず…
それを追求されても、シードは何食わぬ顔で返す
「理由は簡単だ…お前達も厄介だからだ。 …考えてみろ…自分が作った『武魂』を軽々と扱えるやつをこの大陸に残して、メリットがあるのか? もしも『獣人側』にでも付かれたら、自分達の『計画』が狂う可能性だってあるんだ…そんな『戦力』は、居ない方がまだマシってこった…だから本音半分程度にああ言ったんだろう? 『行方不明としてこの大陸から居なくなってほしい』…見つかったら面倒事になるからこそ、確かに『嘘』は言ってないからな」
「「……!!」」
ジンビスとイェロンは驚きを隠せない
例え『今、シードが言っているのが推理』だとしても、筋が通っていると認めざるを得ない
「………」
これでもまだ、リトは表情を変えなかった
「………」
シードはそんなリトを『不気味』とか『疑問』とか、そういった目で見てなかった
ただただ分からなかった
「…まあいい…次だ。 次の『答え合わせ』は…『セイスビークと全部協力していた』のかどうか…だ」
「…!? どういうこと…!?」
「………」
リトは静かに、シードを見ていた
シードは静かに、リトに尋ねた
「あんたが『ルテイク』を取り出して俺達の武器やら『ルテイク』やらを出した時、疑問に思った事だ… 『ルテイク』に『ルテイク』を収納出来たのはこの際置いておく…あんたなら難しくても出来そうだしな。 それよりもだ…俺達じゃなくてジンビスとイェロンの『武魂』をどうしてあんたが持っていたのかが重要だ… あんたにそれを直接聞きたかったが…俺はこう予想した。 『あんたもあの教会にセイスビークと一緒に付いて来た』…とな」
「えっ!? あの教会に…リトさんが居たの…!?」
それは前日に起きた事件…
教会に居たシード達の元に、ブルールとフレールとグァメを含めた『獣人騎士団』が森を通り攻め入って来た時である
激しい戦闘の後、逃走するシード達の眼前にセイスビークが現れたのだ
シードは気になっていた
突然現れたセイスビークがどうやってこの『ウィークエンドの森』を通って来れたのか…
「セイスビークは別に森を抜けて来た訳じゃない…森のとある場所に転送されて来たんだ。 あんたはさっき言ったな…『転送魂機の小型化は成功している』…と… ならそれを使ってセイスビークは教会付近まで来たと考えるのが普通だ…そしてそれを自分も使って教会まで来た…違うか?」
「…ですがシードさん…どうしてリトさんまで教会に…?」
「『様子を見に来た』…なんて訳じゃない。 理由はおそらく『歪んだ計画を軌道修正するため』だろうな。 『計画』が早い段階で軌道修正せざるを得なくなったからこそ、自らの手で『計画』を正す必要があった…だからこそ、あの場に自分が居合わせるのが絶対条件だった」
「『早い段階で軌道修正』…? どういう事よ?」
「…それは後回しだ。 とにかく歪んだ『計画』を直すために、俺達を簡単に生け捕りにできる『絶対王声』を持つセイスビークがあの場に現れた…という事だろう。 事前に俺達を知っていたリトはそんなセイスビークを連れて俺達に会わせて生け捕りにし、教会から回収出来る物は全て回収した…例えば『帳簿』や『武魂』といった物だな。 これを回収しておかないと後々困ると思ったんだろうな…そんな物があれば教会に自分達『人間』が加担していると思われて当然だからな。 壊すくらいなら回収しておくのが良いと誰でも思うだろう…リトもそうしたはずだ。 セイスビークが俺達を生け捕りした後、『後始末』をブルール達に任せてセイスビークとリトは王都へと帰る…そんな感じだな」
シードは淡々と説明したが、ミーシャ達から質問が飛び交う
「ちょっとシード!? それっておかしくないかしら…!?」
「…『軌道修正』はともかく…その内容だと…セイスビークさんがリトさんの思わくを知っていた…ということになります…」
「確か…セイスビークさんには『教会に居る人を避難させる』事を知られてはいなかったはずですよね…? それはリトさんが個人的にブルールさん達に依頼した事だったと思います… でも一緒に来たのなら…ブルールさん達の動向もセイスビークさんには筒抜けになるはずです… セイスビークさんは、それを黙認したという事でしょうか…?」
「それによ…『無視して自分でやった』って言ってたぜ? つーか…確か小型の『転送魂機』ってやつは『受信…なんとか』がいるって言ってなかったか? そんなもん森じゃ見た事ねーぞ?」
「そんなもの簡単だ。 全部協力して行ったしかない」
シードはそこも淡々と言った
「セイスビークはリトと全て協力して行った…今回の『計画』をな。 『リトが裏で行っていた事』を全て了承した上で…全て理解した上で『計画』を進めた…ただし、セイスビークが一方的にリトの考えを読んでいただけの可能性が高いがな」
「「「「!!!??」」」」
「つまり、『リトは知らなかった』んだろうな。 いや…予想はしたのかも知れないな…自分の考えが全て読まれているのを… それでも『知らないフリ』…『読まれていないフリ』で計画を進めた… そしてセイスビークと共に、あらかじめグァメに持たせた『転送受信魂機』でグァメの場所まで転送し、そのまま俺達を生け捕りにした…しかも、セイスビークはあえてブルール達の行動を見て見ぬフリをして戻った…そもそもグァメが死んだ以上、最終的に『教会に居る人物や旅行者』を殺しても『計画』はうまく行かないからな…ブルール達が何をやったとしても『計画』には関係ない…そう考えたんだろう」
「えぇっ…と…ちょっと待って… 混乱してきたんだけど…??」
「つまり…セイスビークさんは『リトさんが裏で進めていた事』を知っていながらも、それに対して『何も言わず指摘もせずに計画を進めていた』…逆に、リトさんは『セイスビークさんが自分が裏で進めていた事を知られているかもしれない』と思いながらも、それに対して『特に言及も追求もせずに計画を進めていた』…という事でしょうか…? お互いがお互いの行動に対して『不可侵』を貫いた…裏の行動に意見も邪魔もしないであくまで『計画』を進めるためだけに協力していた…でも…どうしてそんな事を…?」
「…確かにそうですね… いくら『計画』のためとしても…『計画』自体がくずれてしまうかもしれないことを見てるだけなんて…普通はしないはずです…」
「そこだ…」
シードはイェロンやスイの言った事を全てまとめる
「『なぜ計画を進める上で完全に協力しきらなかった』のか…? 『なぜ個人個人で別々に計画を進めた』のか…? 『なぜ計画を崩すような事をした』のか…? リトにも教会を守りたいと思う気持ちは確かにあるが、それでも『教会の居場所のみ』をセイスビークに教えずとも『森をうまく通れる方法』も教えればもっとスムーズに計画は進行出来たはず… 更に『お互いに情報の共有』…例えば『俺達の情報』をセイスビークに教えておけば、そこで計画を変更すればわざわざ教会に行かずとも良かった…『旅行者の俺達を殺すのはマズい』と一言言えば、『獣人騎士団』を教会に送らずにリトが自分自身で直接教会に行くという方法も取れたはずだ…そっちの方が確実でより安全だ。 そして最も重要なのは『計画を崩した事』…しかも初めから『計画』そのものを2つ同時進行させた事… 元々『教会に居る人物を逃がす』としていたなら、そもそもそれを配慮した『計画』を立てるのが普通だ。 それか教会を利用しても、ハロノラさん達には『避難』程度の被害で済ませられる『計画』を立案するはず… 同じ『戦争を引き起こす計画』を立てるのに、『教会に居る人物と旅行者を副団長が殺す』というセイスビーク用の計画と、『教会に居る人物を逃がして殺したという誤情報を盛る』というリト用の計画の2つを立案して同時進行する必要は決して無い… 俺はそこに『計画の必要性』の疑いを持った。 そこで2つ目の『答え合わせ』…」
シードは冷たく言い放った
「あんたは初めから『この計画』を成功させるつもりは無かった…違うか?」
「「「「!!!!??」」」」
ミーシャ達は理解不能と驚きの入り混じった表情を見せた
「あんた達の立てた『計画』…正確にはあんたが立てた『計画』だが…たまたま過ぎるだろう…? 他大陸から来た旅行者がたまたま教会にたどり着いて、そこでたまたま3日ほど滞在して、その状況をたまたまハロノラさんがあんたに報告、獣人騎士団を教会に向かわせたまたまそこに居合わせた旅行者を副団長が殺害、結果としてたまたま出来上がったその状況を解決させる方法が『戦争のみ』と進言する… いくら何でも『偶然頼み』が過ぎるだろう…言わせてもらえば『あんたらしくない』。 特に『旅行者が教会に行く』という部分が一番難しい。 実際問題、教会に来れた旅行者なんて数十年前のあの『英雄達』ぐらいだろう…それ以外で教会に誰か来たとかそういった話は聞いた事がない。 だからこの『計画』はそもそもが成功確率がかなり低い…いや、成功なんてそもそも無理な話になっているんだ」
「た…確かにそうだが…あのセイスビークがそんな『計画』をやろうなんて言うのか? ぜってームリって分かってんなら、そんなんやらねーだろ?」
「…ここで俺の予想だが…そのための『準備』と『方法』は用意していただろうな。 この『計画』を成功させるために、リトはあらゆる策を講じたはずだ。 まずは『旅行者の誘拐』…この『計画』の最初の問題で最大の難関だ。 他大陸からの旅行者をどうやって教会まで連れて行くか… 隠されているからこそ『誰にも知られていない教会』に、他大陸からの旅行者をどうやって導くか…だがその『方法』は簡単だ…直接連れて行けばいいだけだ。 …あんたはまず『手下』を用意した…おそらく『金』か何かで釣った『人間』だろうな。 そいつらにこう指示したんだ…『他大陸からの旅行者を誘拐しろ』…ってな… それが『人間』でも『獣人』でもいいが…教会に近付くなら『人間』の方がいいな…ともかく旅行者をさらって、『教会の近く』まで連れて行く…馬車にでも詰め込む予定だったのか、とにかく数人を教会近くまで連れて行ってわざとイェロンに救出させる…それが『計画』の初期段階だ」
「…?? オイオイオイ…なんでそこでイェロンが出てくんだ? つーかなんだその『計画』…んなの『計画』じゃなくて『犯行』じゃねーか………」
「…旅行者をさらって教会に連れて行く…それが『計画』を進める上で絶対条件…ならその『状況』を無理矢理にでも作らなければならない。 だからその『役者を準備した』…それが金で雇ったやつらだ。 そいつらが旅行者を誘拐して初めてこの『計画』は始まる予定だったが…早くもここで計画が狂った。 その『旅行者』が他ならぬ『俺達』だった事と…本来、別の場所で足止めをするはずのジンビスが、エラットを追って中立港まで来てしまった事が、あんたの計画を狂わしたんだ」
「!? どーいう意味だソレ…!?」
「旅行者を誘拐するのは簡単だ…中立港の『人間側』と『獣人側』に分かれる『トビラ』を出た所で誘拐すればいい…が、中立港周辺には『ジンビス』が居る…誘拐する前に阻止されれば『計画』はうまくいかない…だからジンビスの『足止め』をする必要があった。 だが…そうする前に『エラットが教会から居なくなる』というハプニングが発生し、ジンビスはエラットを探しに行った…結果、ジンビスは中立港でエラットを発見した…エラットを教会へと追い返そうとした『雇ったやつら』に囲まれている状況でな」
「ハァッ!? オイ…それってよ…!」
「そうだ…俺達とお前が初めて会ったあの状況は、リトの『計画』の一部だったんだ。 わざとエラットにぶつけさせて、怖がらせて教会へと追い返す途中だった…だが幸か不幸か俺達がそれに関わった。 ちょうどそこにジンビスが現れてエラットと合流…そのまま教会へと帰ろうとした時、計画は再び動き出した。 『ジンビスを教会に戻らせてはいけない』…だからあの時ジンビスは襲われた…ご丁寧に教会へ戻る手段の『コンパス』を破壊してな」
「だからあん時襲われて壊されたのか…つーか何で俺を教会に戻したくねーんだ?」
「それはもう少し後で、だ… とにかく俺達は偶然『教会』に行く予定だったためにそのままスルーされたが、もしも『計画』通りならば『旅行者を誘拐していた』。 そしてそのまま旅行者を、教会近くまで連れて行く。 しかもある程度ケガをさせて。 そしてそこでイェロンに救出させる…これが重要だ。 森に出入りする人物を確認出来るイェロンはその『誘拐した人物と旅行者』達を発見、そして撃退を試みるだろう。 イェロンは元々『治癒魂術』や『魂術』を使えるがそれをするにはハロノラさんの許可がいる…だから森の設備でそいつらを撃退する。 そして旅行者を救出…そのまま教会へと招き入れるだろう。 イェロンもそれを望んでいるからな。 だがジンビスならそうはならない。 考えてみろ…俺達もイェロンと出会ったが、もしもそれがジンビスだったら…? 『教会に招き入れる』なんて考えが少しでも浮かぶか? 直ぐにでも中立港に追い返されて終わりだろうな。 それと同じで旅行者を誘拐した人物を撃退したら、そのまま中立港に旅行者を連れて行くだろう。 それをリトも考えた。 だからジンビスを何としても足止めして、自分の雇った奴らに会わせないようにした。 『イェロンを旅行者と会わせる』…結果それは成功した…『計画』に歪みはあったが『旅行者を教会に連れて行かせる』事は完了した。 俺達はまんまとあんたの『計画通り』に進まされた訳だ…いや…正直アレスの独断行動でそっちに行っちまったんだけどな…」
「………」
リトは静かにシードを見ていた
シードはそんなリトを『不気味』とか『疑問』とか、そういった目で見てなかった
ただただ分からなかった
「シードさん……でも…! でもですよ…!? リトさんは…あれほど恩のある教会とハロノラさんを…どうしてそんな危険な目に…!?」
イェロンはそうシードに尋ねる
「…リトも当初はそんな『計画』を立てなかったはずだ。 教会もハロノラさんも、そんな事に巻き込むなんてしないしさせないはずだ。 だからこそ…この『計画』自体が矛盾している。 なら考えられるのは1つ…『そもそも計画が2つあった』って事だ… 『リトが立てた計画』と…『セイスビークが立てた計画』の2つだ… おそらく『リトが立てた計画』を元に、セイスビークが独自に考えて変更した『セイスビークの立てた計画』が入り混じって出来た計画が、今回起きた出来事の『全て』だ。 どこからどこまでがどっちの『計画』かは分からないが…どっちもどっちで進めていた『計画』だからこそ、不確定要素や後手後手に回った行動が多かったんだろう…何せ、セイスビークは勝手に動き回る一方でリトはそれをフォローする必要があったからな。 …だがどちらにも共通するのが『戦争を引き起こす』…これに関しては目的は同じ…要するに、『結果は同じ』だが『過程が違う』だけだ。 ………さて…『英雄さん』…? 俺の『答え』は言ったが…『合わせて』くれるか…?」
「待ちなさいシード…! あなたの…あなたの『答え』じゃまだハッキリしてない所がいっぱいあるわよ!?」
ミーシャのその言葉を皮切りに、皆が一斉にシードに質問をぶつける
「あなたの『予想』はあくまで『予想』でしょ!? それが『真実』である『証拠』はどこにもないわよ!?」
「それによ…『戦争』なんて起こしたっていい事なんてねーだろ? 『戦争を起こしたい理由』はオマエにも分からねーんだろ?」
「そもそもこの『計画』が成功してしまったら…本当に『戦争』は起こるのでしょうか…? シードさんも…『弱い』と言っていましたよね…?」
「…それと…シードさんの予想の前提として…ご主人様がウソを見破れると知っている必要があります… …それはどうやって…?」
「俺がそんな中途半端な『答え』しか用意していないと思っているのか?」
―――その場が一瞬で静まり返った
「確かにこれは『予想』だ。 だからこその『答え合わせ』だ。 否定したければそうすればいい。 だが、してもしなくても同じだ。 否定すればそれをアレスが見抜く、しなかったらそれが『答え』だ。 それが『証拠』になる。 それにリトは『戦争』をしたい訳じゃない。 リト自身が『計画』について言っていただろ? 『セイスビークが第三大陸を手中に治める』…と… 『収める』んじゃなく『治める』…つまり、『統治』した先に『真の目的』がある…という意味だ。 リトは…『獣人に何かをする』のではなく、『獣人側で何かをしたい』からその『計画』を立てたんだ。 その『何か』まではさすがに分からんがな… だがその『計画』はかなり無茶苦茶になった…だから『この計画』は捨てて、計画を『次』に進めた…つまり『計画の2段階目』に手を掛けようとしたんだ。 …俺達が居なくなった後でな。 それが…一ヶ月も掛からない程で戦争を起こせる『計画』なら、『1段階目』が例え『弱く』ても問題ない。 …むしろ、それすらも布石…『1段階目』を踏み台に『2段階目』を確実に『強く』して、戦争を早く…そして問題なく引き起こす。 それがリトの『本当の計画』だ。 …そして…その『目』があればそれは可能だ」
「………」
「「「「…………」」」」
リトは黙っていた
そして先ほど質問をぶつけたミーシャ達も黙っていた
それでもシードは語り続ける
「スイの言った通り、今回の『計画』を進める上で『相手の情報を知る』事は重要だ。 …例えば『何も言わずに相手の秘密を見抜く』…それが出来たら何も苦労はしない。 …名前、年齢、出身大陸、強さ、そして『才能』…あらゆる情報を知れればある意味『無敵』だ。 …相手を観察するのが得意なやつなら、そんなセンスを持っててもおかしくない。 あんたも似たような『才能』を持っているんだろう? 『相手を見る事で、その相手の情報を知る事が出来る』みたいなセンスを… 俺は、俺達があの中立港『ダリルコート』に到着した時に、あんたもそこに居たと予想している…じゃなかったら、指示を出して雇った奴らを動かす事が出来ないからな。 当然、あんたは『誘拐する旅行者の情報』を『観て』調べた…だがその旅行者が俺達で、あんたが一番相手にしたくない『存在』が関わっている…『旅行者を誘拐して副団長に殺させる』という『計画』は、実行出来ない状況に…してはいけない状況になってしまった。 しかも、その『旅行者』は教会に数日滞在している…教会からの定期的な連絡でそれを知り、その間にこの大陸で『計画』を進めて戦争に巻き込むのはまずいとあんたは判断した…まあ、すぐに戦争なんて起こる訳じゃないがその『準備段階』に巻き込んだり、この『計画』そのものに巻き込むのも得策じゃない… だから計画を発動する予定は無かった…にもかかわらず、セイスビークが独断で計画を始めた…あんたの忠告や意見…特に、『アレスが何者なのか』を伝えたにもかかわらずに。 だからあんたはその『セイスビークの計画』自体を阻止せず、うまくフォローしながら進めて行く羽目になった…違うか?」
「………それで…今に至る訳ですね…?」
「そう…その『目』でアレスに『嘘を見抜く力』がある事を知ったあんたは、適当な情報を俺達に与えて知られたくない情報を伏せようとした。 『嘘も言う』と事前に言っておいて、アレスの『目』をごまかした。 結果的にうまくいって、こうして俺達と邪魔になりそうな2人を大陸から追い出す事が出来た。 …もっとも、俺にそれを気付かれて、大陸から出る前にこうして色々秘密にしてきた事を
「『観殺眼』」
急に、唐突に、いきなりリトの口からそんな事を言われ、シードを含めた全員が目を丸くする
そして一斉にリトを見る
――リトの顔は全くの無表情だった
具体的に『これだ』とか、言い換えれば『こうだ』とか、言葉で現せる表情をしていなかった
無味乾燥している無表情…何も分からなかった
そんなリトが喋るのを続ける
「僕の『才能』の名前だよ。 『観殺眼』…シード君が予想した通りの能力さ。 『見た対象のあらゆる情報をソウルを消費して知る事が出来る能力』…それが僕の『観殺眼』だ。 目にソウルを集中させて対象を見れば、その対象の頭上に知りたい情報が映し出されるんだ。 名前や年齢は比較的少ないソウルで知る事が出来るけど、その人の持つ『才能』や『秘密』…更には『過去』を知るためには大量のソウルが必要なんだ…特にアレス君の様な情報はね… 『情報は人を殺せる』…僕がひどく感銘を受けた言葉の1つさ」
「………『否定』……しないんだな…?」
自身の『才能』の説明をしたリトに、シードが静かに聞く
「…当然だよ。 今、君の言った予想のほぼ全てが真実さ。 『紫村リトがこの大陸を戦争へと導く為に計画を立てた事』…『獣人騎士団副団長が他大陸からの旅行者を殺すという計画を実行した事』…『その為に金で雇った人間を使って旅行者を拉致しようとした事』…『しかしそれは失敗して君達が自主的に教会を目指した事を確認した事』…『計画を進める為に教会へと獣人騎士団を送り込んだ事』…『セイスビークさんと一緒に君達を捕まえた事』…『話をするという名目で君達を呼んで僕の部屋の隠し通路から君達を逃がそうとした事』…『そして新たな計画を発動させようとした事』………シード君、見事だよ…そこまで見抜いたなんてね」
シードは淡々と話すそんなリトを、『不気味』とか『疑問』とか、そういった目で見てなかった
ただただ分からなかった
表情や感情が分からないという意味ではなく、『どうしてそこまでしてという意味』で分からなかった
と同時に、新たな『謎』も生まれたのだった
シードはそれを尋ねてみる
「…あんた……もしかして
「しかし君も随分な『悪』だね? どうして黙っていたんだい? 君があの場で『協力』していたら、もう少しスムーズに事が進めれていたはずだよ? 僕もそっちの方が、君達を逃しやすかったからね…例えば『獣人側』に護送する途中で君達を救出してそのまま逃がす…とかね」
「?? えっと…リトさん…どういうことですか…?」
「ミーシャ君、君達は皆セイスビークさんの『絶対王声』で1回眠らされたね? そのままこの王城『ヒューレリア』に連れて来られた… まだ眠り続けていた君達とは別に、セイスビークさんは一足早くアレス君だけ起こした。 そしてそこでアレス君と話をして、最終的に『協力』を求めた…これは君も知っている事だと思うけど、それとは別に『ある事』をセイスビークさんはアレス君に言った。 …まあ、それは今回の『計画』を中止する為に僕がセイスビークさんに教えた事なんだけど、アレス君はそれを誰にも言っていない。 もちろんシード君にも。 その『ある事』は教えられないけど、シード君は『セイスビークさんがそれをアレス君に言った』という事を知っていた…それはつまり、シード君があの棺桶の中で起きていた…そしてアレス君とセイスビークさんの会話を聞いていたという証拠になる。 あの場でシード君が起きていたら…さっき言ったみたいに、今とは少し違う結末になったと思うんだけどね…?」
「………」
今度は逆に、シードが無表情になった
『あんたの忠告や意見…特に、『アレスが何者なのか』を伝えたにもかかわらずに』
シードは、セイスビークが『アレスが英雄の息子である』という事を知っていると予想していた
実際それは合っている
だが、リトは『その事』が広がる事を恐れている
それもシードは知っている
だからこそ、いくらリトが『計画』のためとはいえ安易にセイスビークに『その事』を伝えているとは思えない
それもシードは理解している
つまり、『リトがセイスビークにアレスが何者かを伝えた』という言葉は、『セイスビーク自身がアレスが何者かを言った事を聞いた』事がないと、出てこない言葉なのである
「……」
「もちろん、セイスビークさんには『その事』を誰にも言わないようにと口止めしている…『その事』が広まる事は無いから安心してほしい。 …さて…『答え合わせ』はこれでお終いだよ。 直にここにも騎士が来るだろう。 早くその『転送魂機』に乗って移動するんだ」
「…!! まだ俺はあんたに聞きたい
「どうして………」
…ついに彼が口を開いた
「…アレス…お前…」
「どうして…『ヒーロー』が……みんなを守る『ヒーロー』が…! 『戦争』なんていう『ヒーロー』が一番否定するものを…起こそうとしているんだ…!? どうして……どうして!! どうして『喜んでいる魂』を…お前は持っているんだ…!?」
それはアレスの『魂の叫び』だった
そしてその『顔』は、『苦虫を噛みつぶした様な顔』なんかでは無かった
単純に言えば『憧れの人が突然裏切った』…
もっと複雑に言えば、『絶望と失望を同時に心臓に突き刺した』ような…そんな顔をしていた
しかしリトは全くの逆だった
「………」
その『目』には『希望と決意』が宿っていた
顔は真面目…雑念や迷いなど一切無い
彼は自ら進んでこの『計画』を立てて進めていたのだ
『英雄』としての称号を全て捨ててでも
『人』としての全てを棄ててでも
「僕には『目的』がある。 何を犠牲にしても、僕には『目的』を果たす必要がある。 およそ『人』が行える行動の範囲外であっても…僕はしなくてはならない。 『あの人』に…『あの人達』の為に…」
「…だからって……俺達にウソを言って…! 『ヒーロー』はそんなことをして
「君が『英雄』を語るな」
ゾクッ………
「「!!!」」
とっさにアレスとシードは一歩下がる
リトが不意に言ったその言葉に、2人は明確な『殺意』を感じた
事実、それは間違ってなかった
「君は…君達は間違っていない。 『英雄』に対するイメージが『良い』のは否定しない。 だけど『僕』は違う。 『英雄』は生まれる物でも立ち上がる者でも無い。 ただ『付けられたもの』だ。 希望を託されても望んだ事では無い…名誉な事でも誉れを持ち続けられない… 君は出来るかい? 君は望んで『英雄』になりたいと思っているかも知れないけど…望んでいない重すぎる称号を押し付けられた気分は…良い事なんて一つも無いよ」
「だが…あんたは確か
「違うよ…僕は『彼女』の『英雄』になりたかっただけさ。 『世界』の『英雄』なんて望んで無い。 だから『英雄』に『希望』を持って欲しく無い。 だから『君』に『それ』を語って欲しく無い。 英雄である僕に英雄にもなれていない君が…僕に英雄を語るな」
その『声』は、強く重く、そして暗かった
彼の生きてきた人生が、その言葉を作り出していた
そこには『想い』が込められていた
『英雄』とは…そんな軽いものでは決して無いと…
それを『忠告』する様な…それを『殺意』として突き付ける様にして…2人にぶつけたのだ
「……そこまでして…か…」
「なんで…そんな…」
「………『知りたい』…かい?」
リトは急に『優しい声』を出した
「僕はあの日…『彼女』の為に全てを掛けると誓った。 そしてセイスビークさんは…『彼女』を失ったあの日に誓った。 『獣人を全て駆逐する』と… 僕とセイスビークさんは似ている…『失意』に沈んだ瞬間に『決意』した事と…『記録』には決して残らない『記憶』を持っている事が…」
リトは軽く息を吸って…吐いた
そして語り出した
「少しだけ…ほんの少しだけ…語ってあげるよ。 僕とセイスビークさんに…何があったのかを」
―――ある男の手記―――
私には…『私という存在』には、『彼女』という存在が『あった』
他の誰でも…何者にも代えられない…大き過ぎる大切な存在が…私には『いた』
美しく…それでも妖艶に
眩しく…だからこそ輝いている
大切な…大切な『存在』が
『私』の隣に…確かに存在『した』
今はもう…どうやっても触れられない
『奇跡』が起きても
『過去』に戻れても
『何を』『どうしても』『どうやっても』
『彼女』の
『存在』を
私は忘れられない
だが
止まる事を
私はしない




