英雄との会話【転】
「そのままの意味さ… 君達の『死』…それを以て、然るべき『戦争』を始める…それが彼の考える『計画』なんだ」
「「……?」」
アレスとジンビスは全く理解出来なかった
一方、ミーシャやスイ、イェロンは何となくだが理解しているようだ
そしてブルールとフレール、シードの3人はそれをある程度理解していた
「そうか…だがそれだと弱くないか…?」
「博士…いくらなんでもそれだけで戦争の引き金にはならないはずでは…?」
「…紫村博士、僕達を利用してもそうならない可能性が高いと思います…」
「いいや…その為に彼を利用するみたいだよ」
「「???」」
アレスとジンビスはもう訳がわからない
「ちょっ…ちょっと待ってください! あの…私あんまり分かってないんですけど…!?」
「…ご主人様も…とても混乱しているみたいです…」
「ジンビス君は難しい事を理解出来ません… 実際、私も完全には理解出来ていませんし…」
だいぶ失礼な事をイェロンは言っているが、それすらも聞こえていないほどにジンビスの頭は混乱している
「ごめんごめん…それじゃ…順を追って説明しようか」
リトはアレス達に聞かせる様に話し始める
「…先ずは今回の『教会に住む人達の拉致』…この目的が、『人間と獣人が一緒に住む人達の存在を知らしめる』為だと言う事なんだ」
「………?? えっと…それはどういう…?」
「この大陸は『人間』と『獣人』が別れている。 それがこの大陸の『文化』であり『基本』…だけどもあの『教会』は違う。 『人間』と『獣人』が一緒に住んでいる。 …もしそれが広く知られてしまったら…?」
「…確実に問題になりますね… 『人間』と『獣人』の繋がりが存在したという意味で…」
イェロンはそれを良く理解している
実際にそこに住んでいるのだから
「そう… 中立港を除いて完全に別れているはずの『人間』と『獣人』…しかし『教会』という場所でその異なる人種の『繋がり』が存在したとしたら…? 例えば『密偵』…いわゆる『スパイ』と呼ばれる存在として各方面から情報を入手したり…例えば『密輸』…教会を通じて物資や人のやり取りが行われたり… もちろんそんな事は実際に行われたりしないけども、そう思われても仕方が無い状態になってしまうんだ」
「当然『人間側』からも『獣人側』からもそれを言われる。 板挟み状態になって、責任を押しつけあう論争に発展…教会の存在を巡って『戦争』に一直線だ」
リトもシードも、『教会』が世間に知られる事によって発生する『最悪』を説明する
知られたらそれを回避するのは困難を極める
当然の事だった
「で…でも! それはこの『大陸』ならそうかもしれないけど…他の大陸はそれを許さないですよね…!?」
「確かにその通りだね。 『戦争』は言わば『殺し合い』だからね…『全大陸共通項目』の一つである『殺人に関する行為は容認しない』…これがある以上、『戦争』は起こしてはいけないし起きていいものでは無い。 もしも『戦争』に発展してしてしまった大陸と交易をするようになってしまったら、物資のやり取りや人の行き交いにより間接的ではあるが加担するのと同義だからね」
「だからこそ戦争は何があっても阻止しなければならない…例え自分の身であっても、この大陸と同胞を守るためならば犠牲にする…それが、俺とフレールが選んだ『道』だ」
「ブルール君やフレール君のお陰で『彼』が戦争の引き金を引くのは阻止されている。 戦争により引き起こされる被害や影響は計り知れないし、他大陸への信頼や印象も悪くなる一方だからね。 だからこそ他大陸はそれを容認しない。 だけどもそれは…『正当防衛』とは別の話だ」
「!??」
ミーシャは言っている意味が分からなかった
そしてアレスとジンビスはもう考えたりしなかった
「…それはつまり…セイスビークさんが『正当防衛』により戦争を起こそうとしている…ということでしょうか…?」
「その通りさ。 彼の目的は『戦争を起こして勝利し第三大陸を支配する』事…しかしただ単に戦争を起こす事では他大陸からの印象は完全に『悪』になる。 だけども戦争を受けて『正当防衛』を主張すれば『正義』になる。 …戦争の『加害者』ではなく『被害者』になる…彼はそれを望んでいる。 その為に、君達を利用しようと考えた訳なんだ」
スイの問い掛けにリトは答える
そしてシードはまとめる
「…セイスビークは戦争を引き起こし、獣人の駆逐をしようと計画した…だが、戦争の引き金を自分達『人間』が引けば、他大陸からの批判と非難は避けられない… そこで『教会』を利用した。 『人間』と『獣人』が一緒に住むその場所を第三大陸中に広めれば、その存在…この大陸の『文化』を破る禁忌の存在の責任を問われる論争が始まる。 …それを足掛かりとして『戦争』を引き起こそうとするのは分かるが…例えるなら『たき火』だ…その『教会の存在を知らしめる』のはたき火でいう『薪』…そこから『戦争』という名の『火』を起こそうとするのは分かるが…肝心な『火だね』が無いだろう… 戦争の準備が出来ても、それだけじゃ『火』は起こせない…それはなんだ?」
シードは疑問の核心を求める
『教会の存在を第三大陸中に知らしめる』だけでは戦争は起こせない
『教会の存在を問う』だけでは戦争を始められない
そこには必ず『火だね』が必要だった
『戦争』を引き起こす…違う言葉で言えば、『引き金』を引くという行動が必要だった
それにアレス達を利用する…その方法を、リトは語り始める
「簡単な話だよ…『獣人』が人間を殺す…それだけでこの大陸に戦争を引き起こせるのさ…それが獣人騎士団の副団長ならば尚更にね」
「………それは…!!」
シードはハッとした
と同時に、ブルールもリトに尋ねた
「そういえば博士…『グァメ』を見掛けないのですが…彼の行方を知りませんか?」
「『グァメ・ブチィエナ』だね…? 彼は
「俺が殺した」
一瞬、張り詰めていた空気が凍りついた
シードの言ったその一言で
「………」
「君が…グァメさんを…?」
ブルールとフレールがシードを見る
「俺が殺した。 それは事実で変わらない。 文句は聞けても、返しはしない。 だが………」
シードは、全身から『冷たい殺気』を出した
特定の誰かに向けた『殺気』ではなく、誰も自分に近付けさせないような…そんな『殺気』だった
「あいつが俺を殺そうとしたから殺した。 『正当防衛』…それは間違いないだろう…?」
実際その通りである
『獣人騎士団』の『副団長』であるハイエナの獣人『グァメ・ブチィエナ』…彼がシードはおろか、教会に居た全ての人物を殺そうとしたのは紛れもない事実
生け捕りにするという、ブルールの指示を無視して
「そんなバカな…! グァメも含めた獣人騎士団全員には『生け捕り』と指示したはずだが…!?」
「兄さんの言う通りだ…それはつまり、『陸王様の命令』と同じ意味…グァメさんがそれを、しかも兄さんの指示ならば尚更無視する訳ないと思うよ…? 何かの間違いじゃ…?」
「………つまり、そういう意味だった…ってことか? 『英雄』さん…?」
シードは『やってくれたな』…っと言わんばかりの目線と言葉をリトに向けて言い放った
「………君は本当に鋭いね… 感心するよ…」
「「……??」」
「「「…………???」」」
「「………」」
ブルールもフレールも、ミーシャもスイもイェロンも、当然アレスもジンビスも、2人の言っている意味が分からなかった
「……セイスビークさんの目的である『戦争』…これを手っ取り早く起こすには、『獣人が人間を殺した』という『構図』が必要なんだ。 でも、一般人同士がそうした『構図』を作り上げても効果はさほど大きくない… 地位や権力が高い者が、一般人に対する『殺し合い』をすれば、逆に効果は非常に高くなる。 セイスビークさんが狙ったのはそこ…『獣人騎士団副団長』が、『何の罪も無い一般人』を『殺害した』…しかもそれが、『密約』で貸し与えられた『獣人』が、『他大陸から来た善良な旅行者』を『殺害した』となれば…『戦争』なんて目と鼻の先だろうね」
「その獣人が『グァメ』、旅行者が『アレス達』…そうした『配役』をもって、『構図』を作り上げたって所か… そしてその『配役』は、役目を終えたら『始末』する…ってか? しかも同時に、『教会』と『密約』と『博士』まで排除する…どんだけ強欲なんだ? この大陸の陸王さまは…?」
「「『教会』まで…!?」」
「「『密約』を…!?」」
ジンビスとイェロン、そしてブルールとフレールも、シードのその言葉に食い付く
「『教会』というこの大陸に不必要な存在を、セイスビークさんは当然無視しない。 教会が『人間』と『獣人』の繋がりを象徴しているのであれば、破壊するしか方法が無い。 でもそれは僕が許さない。 僕の育った…あの教会だけは、セイスビークさんの思い通りにはさせない。 それでも…僕一人の力では限界がある… ならばせめて、セイスビークさんの計画に乗っ取った上で、別の方法で助ける事にしたんだ。 教会がその『繋がり』を表し、その存在を第三大陸中に広め、ありもしない虚言と妄言で戦争の火だねとして使われるならば、そこに住むハロノラさん達だけでも逃がしたい…だからブルール君達にそれをお願いした…教会が戦争の火だねとして破壊される前に。 まだそれは起きては無いが、これでセイスビークさんの望む『教会の存在を巡る論争』を起こしつつ、僕の望む『教会の人達を逃がしたい』という願いは両方達成された…だけどそこで次の問題だ」
リトはブルール達の方を向いた
「あくまでこの『計画』は、『獣人騎士団副団長としてのグァメ君が、人間側に居るとした場合』ならば成立する計画だ… その為には、『密約』を第三大陸中に知らしめる必要があった。 そうでないと、『獣人が旅行者を襲った』程度にしかならないからね。 もちろん、『人間側の領域に何故獣人が居るのか…?』とかの細かい点が発生するけど、そうすると今度は『人間側に獣人を領域に招き入れた者がいるのではないか?』という疑いも出てきてしまう。 だからこその『密約の開示』が必要だった。 『戦争を起こさせない為に、獣人が人間に兵士を貸し与えている』という情報を大陸中に開示する事で、『獣人が戦争を怖がり、獣人を人間が手駒にしている』という『優越感』を『人間側』に与えつつ、『獣人が人間に恐れをなしている』という『不満』を『獣人側』に植え付ける事で、より戦争への流れを加速させる一方、グァメ君の『獣人騎士団副団長』という地位と権力を公にする事で、今回の事件の重要度を価値のある物へと昇華させたんだ。 …さっき僕が言ったみたいにね」
「だが人間も全員が全員、そう思うわけじゃない… ある程度の混乱も避けられないだろうな…当然、獣人側もな… だからこその『密約』…それでも、混乱というリスクよりも戦争というリターンの方がはるかに大きい…セイスビークにとっては些細なこと…ってわけか… そっちもな…」
「………」
リトはうつむきながら、話を続けた
「…これらの出来事を…セイスビークさんは全て僕の責任にしようとしている… 『教会の存在』…『副団長の暴走』…そして『戦争への構図』… それらを画策したのが全て『紫村リト』であると…責任と罪を被せようとしているんだ」
「そんな…! あなたはそれで…良いんですか…!?」
ミーシャは焦りながらリトに聞く
そして静かにリトは答える
「………それが…『僕の目的』に繋がるからね… しょうがない事なのさ…」
…人が大勢死ぬかもしれないであろう『戦争』…
それが『目的に繋がる』とは…一体どういう『目的』なのか…?
気になるものの、他に『気になる事』が多くあるため、それは後回しにせざるを得なかった
「…あんた達の『計画』は分かった… グァメを利用して、俺達を殺して戦争を起こさせようとした事は分かった。 だが…それは『計画』であって『現実』じゃない。 『今』は計画と大きくずれているはずだ。 …これからの『計画』…つまり、これからどうするんだ…? おそらくそれが…『アレスに協力を求めた事』と関係していると思うんだが…?」
シードがそう尋ね、リトは軽く頷いた
「そうだね…確かに『現実』は『計画』と大きく変わってしまった。
『計画』であれば、『獣人騎士団副団長』であるグァメ君にセイスビークさんが秘密裏に『他大陸からの旅行者を含めた教会に居る全ての人物の殺害』を依頼する。 僕はセイスビークさんに『教会の場所』を教え、ブルール君達に『ハロノラさん達の避難』を依頼する。 その後『獣人騎士団』は『生け捕り』という名目で『教会』へ行き…ブルール君とフレール君と騎士団員は教会と旅行者の『生け捕り』を行うが、その最中にグァメ君は君達『他大陸からの旅行者』を『殺害』する。 だけどもブルール君達はハロノラさん達を逃がす。 それにより、『密約によって貸し与えられた副団長の獣人が、他大陸から来た旅行者と森にある教会に住む人達を殺害した』という『嘘を交えた事実』が生まれる。 そして『密約』を第三大陸中に開示し、人間と獣人の両方に『混乱』と『戦争への煽動』を与える。 更に『教会』という『人間と獣人の裏の繋がりがある』という存在に対しての責任の論争、『獣人が人間を殺した』という現実に対しての責任の追及、『他大陸の旅行者を殺した』という事実に対しての責任の弁解…それらを解決する方法はたった一つと『提言』する。 それが『戦争』。 『戦争』で負けた方に、全ての責任を問わせる…そうして全てを自分の思い通りの展開に進めて行くんだ…邪魔な存在を次々に排除しながらね… 副団長であるグァメ君を殺害し、あらゆる責任を僕に押し付け、ブルール君達も獣人側へと戻し…やがて『獣人』そのものを駆逐する。 そうして…彼はこの第三大陸『リーバイド』を手中に治める。 これが『計画』だ
だけども『現実』は大きく変わった。 グァメ君が殺害する予定だった『旅行者』が君達で、しかもその一人に逆に殺されてしまった。 その彼が壊す予定だった『教会』もそのまま…セイスビークさんの『計画』は早くも崩されてしまった。 でもブルール君達は君達の生け捕りを続行する…だけどもそこに、セイスビークさんが直接出向いた。 『計画』がうまく進行しなかった場合の事を考えて要所要所で『代案』を用意していたんだけども、セイスビークさんはそれらを無視して直接『旅行者』を捕まえ始めたんだ。 …どうやら僕の思惑を感じ取ったのかもしれないらしくて、自分で『計画』を進めようとしたみたいなんだ。 そして彼の『能力』で君達を捕まえた…そこで『計画』の内容を大きく変更した。 本来、君達『旅行者』は殺害される予定だったけども、それは『グァメ君が生きていたら』の話だった。 『グァメ君が旅行者を殺害し、その報復としてグァメ君を公の場で処刑する』予定だったんだ。 だけども彼はすでに殺され、それは出来なくなってしまった。 そこでセイスビークさんは一旦、もともと獣人騎士団に命令した通りに、旅行者を含めた教会に居る全ての人物を生け捕りにした。 そして君達をここに連れて来て、僕の知恵を彼は借りた。 …『旅行者』というのが君だったのは予想外だし、教会に居た君達も一緒に来たのも予想外だった…だから彼に言って君達と話す時間を貰ったんだ。 君達を生かして、この大陸から脱出させる為にね… もちろんある程度の情報を伝えて、怪しまれないように君達を連れて来て貰ったんだ。 でもセイスビークさんはアレス君に協力を求めた。 『人間』であるのに『獣人の力と姿』を持つ君に、『獣人側でスパイとして活動』させようとしたんだよ。 …結局、アレス君は断ったらしいね…」
…リトの話が終わり、シードが口を開く
「………ずいぶん軌道修正したんだな…? まあ、それのお陰で俺達は生きているんだけどな… もしそのまま『計画』通りなら、俺達は今ごろあの世に行っててもおかしくなかったからな」
「待って下さい博士…! グァメは…確かに素行こそ良くないものの、俺を裏切る様な真似はしないはずです…!! 何も相談をしない訳が
「逆にあんたのためにやった事だと思うぞ?」
ブルールの疑問に、リトではなくシードが答える
「!?? どういう…!?」
「あいつは確かこう言っていた…『団長のために絶対殺す』『契約と団長を守るために』…と… 俺はグァメに『最終的には団長のためになるが、一時的にその団長の指示を無視している』と、あいつの不可解な行動を予想して指摘したら『黙った』んだ…つまり図星だったんだろうな…そうじゃないか…?」
リトは驚きつつも頷いた
「セイスビークさんはグァメ君に、『この計画が成功すれば、獣人騎士団を解散して獣人側に返してやろう…当然、戦争を私達は仕掛けない…今後一切、な…』と言ったんだ」
「………なるほどですね…」
フレールはそこで納得した
「その言葉をそのまま、例えば契約書に書いた状態で見せればグァメさんは喜んで『契約』するだろうね… 端的に見れば『戦争をしない』と同義だからね…兄さんや僕の望みである『全獣人の平和』を実現出来るから… でも…『戦争を仕掛けない』という文言をよくよく考えれば、『戦争をしない』とも『抵抗しない』とも読み取れない…『仕掛けはしない』けども『正当防衛はする』…そう考える事が出来る…!」
「結局、『戦争を獣人が仕掛けて、人間はそれを正当防衛で戦った』…っていう構図が出来上がるわけか… グァメやどっかのバカみたいに『単細胞』なら、そうやって物事を進めやすく出来る… …『獣人騎士団』を作り上げた時からこの流れを起こそうと考えていたならゾッとするな…」
シードはこの時、こう思った
『これを全てあのセイスビークが考えたのか…?』…と…
「…さて、シード君…次は君が知りたがっている情報を授けよう」
「………それは興味深いな…」
ある意味シードが一番知りたい『情報』を、リトは話した
「彼…セイスビークさんの『才能』について話そうか」
次回 英雄との会話【結】
ずいぶん更新が遅れましたね
申し訳なかったです
あとよく分からない内容かと思いますが、とにかく『戦争を起こそうとしている』と考えて大丈夫です




