英雄との会話【承】
―――紫村リト視点―――
今から39年前…僕は産まれた
何気ない…本当に何の変哲もない、ありふれたごく普通の一般的な家庭に産まれた
だけど産まれてから約6年後…この大陸がどういう所なのか思い知らされた
当時、僕の住む小さな村には一人の『獣人の子供』が居たんだ
『狐族』の9才の『女の子』…もう…この世には居ないけどね…
『人種遺伝論』…全人類が遺伝に関係するものの『人間』か『獣人』のどちらかに産まれる可能性があるという論理…その『被害者』が僕の居た村にも産まれてしまったんだ
『人間側』に産まれてしまった『獣人の子供』…どういった扱いを受けるかは、君達なら簡単に理解出来てしまうだろうね
それでも『その子』は明るく優しかった
自分が受けている『扱い』を気にしていても、健気で強く生きている『彼女』の姿を見て…『獣人』が嫌いでも『彼女』を嫌いな人は少なかった
僕ももちろん、『彼女』の事が好きだった
『愛』だとか『恋』だとかそういう恋愛感情ではなく、ただ『人』として好きだった
彼女の『生き方』そのものが…この大陸の『未来』に繋がる『希望』だからこそ、僕は彼女の事が好きだった
………だけども『呪い』は強く、深かった
ある日突然、彼女は姿を消した
僕は村の周りや近くの町を探し回った
6才であっても多少の知識は得ていたから、商人の馬車や自分の足で危険過ぎない程度で探し回った
色んな情報を集めた結果…彼女が向かったのはあの『ウィークエンドの森』だった
当時はまだその名で呼ばれていなかったけども、『魔の森』と呼ばれて『エニグマ』も多く徘徊する森…周辺地域の人からは恐れられていた
大きすぎて迷い続ける森にひとたび入れば、生きては帰れなかったと言われていた
そして…その森を突き進めば、いつか『獣人側』へと出れるとも…
彼女はそこへ向かっていた
『人間側に居てはいけない』…そう思っていた彼女は、自らの足でそこへと踏み行った
いや…『洗脳された』…と言った方が正しいのかも知れないね
彼女の『明るさ』は、自分が…『人間側に居続けた獣人』である自分が…長い間受け続けた『獣人に対する悪意』を刻み込まれ、やがて壊れてしまう『自分』を誰にも悟られない様に必死に隠し続ける為のものだったと…僕は理解した
幸か不幸か、僕達の居た村は比較的にその森の近くにあった
僕の足でも何とか森に到着出来た
そして…僕は彼女を追って森に入った
しばらく歩いて…エニグマを避けて…道なき道を進んで行って…ようやく彼女を見付けた
ただし生きてはいなかった
エニグマにやられたのか…全身傷だらけで血塗れになった彼女を見て、僕は泣きも悲しみもしなかった
それ以上に、『何も出来なかった自分』が不甲斐なかった
そんな自分が許せなかった
『後悔』と『怒り』と『不甲斐なさ』が僕を満たし、自分自身に絶望した
でも…まだ6才の自分じゃ何も出来ない
そこで僕は『決意』した
僕は必ず『力を手に入れる』と…
『二度と自分が不甲斐ないと思わない為の力を身に付ける』…
『守れなかった』とか『何も出来なかった』とか…そういった『不甲斐ない』と思わない為の力を…あらゆる『強さ』を身に付ける…そう『決意』した
でも『今』は何も出来ない…
『今』の僕は…せめて彼女の遺体を村に持ち帰って埋葬するぐらいしか出来なかった
だけども『現実』はそんなに甘くない…
『魔の森』の異名は伊達じゃなかった
自分が何処に居るのか全く分からなかった
背中に背負った彼女の『冷たさ』が…このままでは僕が辿るであろう『運命』を感じさせた
次第に暗くなる空…気温も下がり始めて、僕が『生き残る』事はひどく難しくなっていった
だけども『運命』は僕を『生かした』
森にひっそりと建てられた『教会』が…そこに住む『シスター』が…僕の命を救った
教会に辿り着いた僕はその瞬間に倒れ、そこから1日以上眠ったままだった
ようやく起きた僕は、この教会に同じ様な『子供達』が多く住んでいると、『城ヶ峰ハロノラ』さんから聞かされて知った
そして…『彼女』を埋葬した事も
僕の『決意』は、彼女の墓の前でも変わらない
村に帰る気は一切無かった
彼女を『殺した』あの村に、帰るつもりは無かった
この『教会』で、その『力』を身に付ける事を誓った
――先ずは僕の長所…『観る力』を伸ばしていった
人の僅かな変化…同じ教会に居る子達の体調の変化や肉体の不調…更に疑問を感じた事をとことん観察して追究していった
教会にあった本を全て熟読して内容を暗記し、森やこの大陸に関する情報を何もかも記憶していった
『知恵』も『探究心』も『観察眼』も、全て身に付けていった
でも…『体力』や『力』や『勇気』が…僕には欠乏していた
『決意』が揺らいでいた訳じゃない
でもそれを手に入れる『方法』が無かった
エニグマを倒せる『力』も、倒そうとする『勇気』も無かった
悩む僕は…一人の『女の子』に憧れた
それが『彼女』だった
僕が教会に来た時にすでに居た一人の女の子…名前を『リュリュ・ナインテイル』と言う『狐族』の『獣人の女の子』…
僕は彼女の『力』と『勇気』に、とても憧れていた
そして…彼女自身、とても魅力的だった
頭頂部に生えた少し大きめの獣耳…腰下まで伸びた鮮やかな黄色のロングストレートの髪と相まって、誰が見てもその美しさに見惚れるのは当然だった
9才にしてスタイルも良く、胸も明らかに9才のそれではなかった
そして彼女の一番の特徴…『九つの長い尻尾』が、彼女の魅力を更に高めていた
その圧倒的な力とソウル…そして『妖力』と呼ばれる特殊なソウルの『扱い方』を持ち、『狐族』でありながらも『エルフ』と同じ『神獣族』に種族分けされる『九尾』…それが彼女だった
だけども『見た目』だけで僕は彼女を好きになった訳じゃ無い
…リュリュには、僕の持っていない『強さ』があった
リュリュの性格を一言で言えば『高飛車で活発』
そして『悪女』…そんな感じだった
一人称は『妾』、『~じゃろう』とか『~ぞ』とかの古い言葉を使う女性で、『サキュバス』とはまた違った『妖しさ』と『美しさ』を持っていた
興味がある事には積極的に関わり、楽しみながらそれらを解決していく…良くも悪くも『自由奔放』と言えたリュリュの性格…
特に『戦闘』に置いてはかなり自由だった
型にはまらない独自の戦闘技術と、それを可能にする運動神経…加えて、柔軟な発想による状況分析と状況判断…戦闘の『天才』と言っても過言じゃ無かった
僕はそんなリュリュに惹かれていって、リュリュ自身とリュリュの『強さ』をもっと知りたいと思った
何よりも…リュリュと『彼女』は似ていた
『彼女』の面影を、僕は自然とリュリュに重ねていた
だからこそかも知れない…リュリュを守り続けて行きたいと思ったのは
…そうして『10年』が経ったある日…『彼等』が来た
詳細は省くけど…とにかく『彼等』はこの『森』にやって来て、僕を旅へと誘った
『俺達と来い!』…たった一言そう言われて、僕は悩んだけども付いて行ったんだ
リュリュを守れる『力』…リュリュの持つ『強さ』に少しでも自分が近付ける様に…
リュリュの『英雄』として強くなる為に…
『力』を求めていた僕にとって、『彼等』との旅は唯一のチャンスだった
そして…僕の中にあったちっぽけな『勇気』を振り絞って、『彼等』と旅を始めたんだ
…結局、リュリュも付いて行ったんだけどね…
それからの旅はあっという間だった
世界を巡り…各地の問題を解決して…巨大な『悪』と戦って…
いつの間にか…『英雄』と呼ばれる様になった
リュリュも僕も…そして『彼等』も、世界から『英雄』と賞賛されたけども…それが『良かった』とは一概にも言えなかった
それについては…詳しくは言えないけどね…
「………僕は純粋に、『力』が欲しかった」
リトは真っ直ぐにアレスを見つめる
「大切な人を守れる『力』…何でもいいから…とにかく『力』が欲しかった。 でもそれが…『力』を求めて得た事が、『英雄』と呼ばれた所以じゃ無い」
リトは真っ直ぐにアレスの目を見つめる
「『英雄』に必要なのは『決意』だ。 『力』を求めたきっかけや…旅を始めた理由… それらの『はじまり』を、自分自身に誓ったこと…それが必要なんだ。 自分の『魂』に刻み込んだ『誓い』…何があっても『意志』を決して曲げない事が、『英雄』に必要なんだ」
リトは真っ直ぐにアレスの目の奥を見つめる
「君にはあるかい? 『英雄』を目指すと決めた時に、自らの『魂』に誓った『決意』が」
アレスは間髪入れずに首を縦に振る
「もちろんだ…! 守りたいものを守れるように…救いたい人を救えるように…どんなに強い『悪』にも勝てる…『ヒーロー』になるってあの時決めたんだ…! 俺の…『ヒーロー』になるって『決意』は変わらないし曲げられない…! そのために俺は強くなる…必ず…絶対に…!」
リトはそんなアレスを見て、微笑みながら頷いた
「…やっぱり『彼』の…『彼』の『意志』は受け継がれているね… 僕は嬉しいよ。 君ならきっと『英雄』になれるさ…僕みたいな中途半端な『英雄』とは違ってね… 君が『決意』を持っているなら、その『決意』をこれからも曲げずに進み続けるといい…そしたらいつか、『英雄』に辿り着けるかも知れない…頑張ってくれ、アレス君…!」
「わかった…! 俺…がんばる!!」
「………」
シードは2人のやりとりを温かい目で見ていた
旅を始める理由になった、『英雄』になるための『力』と『資格』を手に入れる…それがようやく、一歩前進したと思える結果を得た
アレスはこれからも『英雄』になるために、様々な困難と苦労…そして試練を乗り越えて行くだろう
だがリトから『決意を曲げるな』と言われたことで、一層その『決意』を曲げずに生きて行くだろう
『英雄』と呼ばれた彼の言葉を受け、アレスは再び『決意』した
『ヒーロー』を目指すという『意志』を、より強く持って行こうと…
「…さて、そんな『英雄』さんがどうしてあの『陸王』と協力しているのか…それを聞かせてもらいたいな…? 一部だが利害の一致…それだけであの『超獣人嫌い』と仲良く出来ないと思うんだけどな…?」
シードは嫌味たっぷりにそう尋ねた
「あなた…あいかわらず空気読まないわね…」
「悪いがこれが『俺』なんでね…アレスの『英雄小話』は終わったなら、さっきの質問コーナーに戻させてもらう。 聞きたい事は山ほどあるんでね」
リトは首を横に振る
「…シード君も人が悪いね… 君もそれがどうしてか…何となく察しているんだろう…?」
「…まあな… あんたは確か『セイスビークの生い立ちに共感して手伝っている』…そう言っていたが…つまりセイスビークもそうだった…そういう事か?」
リトは若干、顔が険しくなる
「…? シードさん…どういうことでしょうか…?」
「リトさんは『獣人に恋愛感情を抱いた』…そして『セイスビークの生い立ちに共感』…それはつまり、『セイスビークも昔は獣人と仲が良かった』…『それが何かしらの理由で今は憎んでしまっている』…そこにリトさんは共感し、協力しながら『獣人に対する憎しみ』を消そうとしている…そうじゃないかと予想が出来る。 …違いますか?」
リトはシードの推理に驚いていた
「凄いなシード君…これだけの情報しか無い状況でそこまで予想出来るなんて… 概ねその通りだよ。 彼には昔、『獣人の婚約者』が居たんだ。 それは仲睦まじい関係だったそうだよ。 …愛し合っていたんだ…2人はね」
それを聞いて、ブルールとフレールは驚く
「…今の陸王サマと同一人物とは思えませんな… それならば俺達にも優しくして欲しいものだがな」
「…『理由』があるのですね…? 何かとても…『憎しみ』が沸き上がる出来事が…」
リトは軽く頷く
「それについては僕からは詳しく言えないんだ… 彼の過去は、無闇に詮索していいものでは無いからね…でも、愛していた『獣人』を憎む程の事が起きてしまった…そう思っていいかな…」
「………」
シードはこれ以上リトとセイスビークの過去は聞き出せないと踏み、次の質問へと移る
が、質問というよりかは『疑問』に近い質問をした
「…結局の所、あんたは俺達に何をしたいんだ…? アレスの質問に答えるのなら分かるが…最終的に『処理』される俺達に、何を伝えても無駄だろう?」
そう…そもそもな話、シード達が殺されるのであればこの話自体が無駄である
数々の情報をシード達に伝えた所で意味が無い
リトの言う『話』…それがシードは大前提として気になっていた
「…安心してくれ…僕は君達を殺させるつもりは無い。 ここから逃がすつもりだ」
「「「「「「「「!!!??」」」」」」」」
その場のリト以外の全員が驚愕した
『アレス達を逃がす』…それはつまり、『セイスビークを裏切る』と言っても過言ではない
「博士…それはどういう意味ですか!?」
「そんな事をすれば…貴方の立場が危うくなるどころか、今の地位を剥奪される可能性も…!」
「安心してくれ…僕にも『考え』がある。 そこは何とかやってみせるさ。 今は気にしないでくれ」
リトはそう言っているが、ブルールもフレールも内心穏やかではない
恐らくリトの事だから2人に迷惑を掛けない方法で解決するのではあるのだが、だとしても完全なる『裏切り』…自分達の立場が『危険』に踏み入る領域であるのは間違いない
「それなら…安心だな。 話を続けてもいいか?」
しかしシード達にはそれほど関係が無い
リトやブルール達の立場が危うくなろうとも、自分達を生かしてくれるのなら何でもいい
むしろ『生存方法』が確立された現状ならば、どんどん情報が欲しい
『疑問』を解決していき、『理解』を深めたい
苦い顔をするブルールを尻目に、シードは質問をリトに投げ掛ける
「…いよいよ『本題』と言ってもいい… アレスはあのセイスビークに、『戦争を起こすために、アレス達の血を利用する』と言われた…」
「『血を利用する』…つまり、俺達をどう利用してどうやって戦争を起こさせようとしたのか…それについて答えてもらう」
次回 英雄との会話【転】
文章だけだけど、4コマ風旅の一コマ
『食事 その①』
………中央大陸王都出発から一日後、野宿中………
「シード! 今日の夜ごはんはなんだ!?」
「いつもの『スープキューブ』だ。 海藻がたっぷり入った『海藻スープキューブ』…嫌でも飲め」
「やったぜ! いただきま~す!」
「…いただきます…」
「……私…ちょっとニガテなのよね~…」
「ミーシャ…海に住んでたのに海藻が苦手なのか?」
「好き嫌いぐらいあるわよ…特に海藻はあのヌルヌルした感じが嫌いなのよ… シード…別のやつないかしら…?」
「仕方ないな…アレス、ミーシャのスープから海藻だけ食べてやれ」
「まかせろ! ズズズズズッ~~~……」
「………ちょっと…」
「…ミーシャさん…わたしのと交換してください…」
『食事 その②』
………第三大陸、教会にて………
「アレスは何か苦手な食べ物はないの?」
「ん~? 特にないな~…」
「土や石とかなら食えねーんじゃねーか?」
「あっ…! それは食べられないな! 苦手なのは土と石だな!」
「あと木とかも食えねーだろ?」
「それもあるか…ヤバいな…けっこう苦手なの多いぞ…!」
「誰かーー! 急いでシードを呼んできてちょうだいーー! ツッコミ役が不在よーー!! 私じゃ荷が重いわ!!」
『食事 その③』
……第三大陸王城『ヒューレリア』の一室にて……
「うぅ…何とか寝たはいいけど…お腹へったわね…」
「一応『冷蔵魂機』は置いてあるな… 中身は…飲み物と軽い食事…『ボールライス(おにぎり)』や『ブレッドサンド(サンドイッチ)』なんかがあるな」
「やった! 腹へってたんだ…いただきます!」
「ちょっ…アレス!? 毒が入っているのかもしれないのよ!?」
「よっぽど大丈夫だろう… そもそも毒が入っているのだと仮定した場合、それなら『博士』ってやつの話を俺達は聞けなくなるだろう…そんな無意味な事はしないはずだ」
「モゴモゴモゴ…ふまいっ!!」
「…大丈夫そうね…なら私も『ボールライス』を一つもらうわね…はむっ」
「おいミーシャ…それ…」
「………」
「…『ボールライス 混ぜ込みシーリーフ(ワカメ)』…ですね…」
「………」
「大変です…! ミーシャさんが一口食べたまま気絶しています…!」
「オマエ気絶するほど海藻が嫌いなのか?」




